これ神秘は神秘でもブリテンの救世主のやつですよね?   作:あるふぁせんとーり

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先生は意外と大変です

「えっと、失礼します……」

「……あ、ヒフミちゃん」

 

 私達がプールから戻ってきてから一時間とちょっと。ちょうど……と言うのかどうかは分かりませんが、ぼんやりとナギサちゃんの言っていた言葉について考えていると突然、ヒフミちゃんが私の部屋を訪ねてきました。あんまりヒフミちゃん達の邪魔をしても悪いと思って、私だけ別の部屋。別に寂しいなんてことはないのですが、それでも一人の夜に誰かと話せるとなれば少し嬉しいです。

 口では「夜更かしは身体に悪いよ?」なんてことを言いながらも、私は彼女を部屋に通して幾つか並んだベッドの一つに座らせました。

 

「すいません、あれこれ考えてたら眠れなくて……」

「分かるよ、そういうの私もよくあるし。……それで、どうする?紅茶でも淹れる?」

「あ、ありがとうございます……」

 

 部屋に備え付けられた簡易的なキッチンでお湯を沸かし、お茶を淹れました。流石はお嬢様校、こんなほっとかれていた合宿棟でも良い茶葉が置いてあります。数年前のものでしたが、茶葉なら大丈夫だと思います。

 私は淹れたての紅茶が湯気を立てるティーカップを二つお盆に載せ、ヒフミちゃんの下へ持っていきました。

 

「はい、どうぞ」

「いただきます……」

 

 彼女は私から受け取ったティーカップに口を付け、小さく啜ると「ふぅ」というため息のような声を出した後に口を開きました。

 

「改めて合宿初日お疲れ様でした、アルトリア先生」

「ううん、ヒフミちゃんこそお疲れ様。それで、何か話したいこととかあるんじゃないの?」

 

 如何にも何か話したいことがありますという顔のヒフミちゃんに問いかけると彼女は小さく頷いて、そして自信なさげに呟きました。

 

「明日から本格的に合宿が始まりますが……私達、本当に大丈夫なんでしょうか?」

「そんなに心配?」

「……はい。もし一週間後の二次試験も落ちてしまったら後は三次試験だけ……もし、それにも落ちてしまったら……」

「……退学、なんだよね?」

 

 私の言葉に、彼女は不安そうな顔を浮かべながらもコクリと頷きました。第三回特別試験までに全員合格できなければ、補習授業部は全員退学。これはきっと覆しようのない決まりなのでしょう。彼女に釣られて、私の口から溢れる「はぁ」という小さなため息。

 

「そもそも学力試験で連帯責任?のようなシステムなのも良く分かりませんし……それに私達の為にこんな施設まで貸し出してもらっているのも何だか変ですし……それに……」

 

 頭がいっぱいいっぱいになりながらも色々を述べ続けるヒフミちゃん。その顔を見て、私の脳裏にある疑問が過りました。

 

「もしかして、ヒフミちゃんもナギサちゃんに何か言われたの?」

「は、はい?!」

 

 あ、言っちゃ駄目だったかも。私がそう思って口を手で抑えたのはそれを口にした数秒後。ヒフミちゃんが動揺したのを確認してからです。困惑しながらも色々考えている様子の彼女と、やっちまった感の強い私。そこから更に数秒の隙間を挟んだ後、彼女は小さく頷きました。

 

「その……何というか、説明しにくいんですが……」

「あー……もしかして、「トリニティの裏切り者」……みたいな?」

「そ、それです……やっぱり先生も……」

 

 困惑半分、安堵半分のような表情で私に尋ねるヒフミちゃん。私が「まあね」と浮かべる苦笑い。ああ、裏切り者。ロクな思い出がない言葉です。いえ、裏切りにロクな思い出がないのは人類共通かもしれませんが、それにしたってロクな思い出がありません。……まあ、ここでは関係ない話なので置いておきます。これは大嘘つきの妖精王が絡まない話です。

 そしてヒフミちゃんからナギサちゃんとの会話の一通りを聞いて、私は少し考えました。

 

「えっと……ヒフミちゃんはどうしたい?」

「私は……分かんないです。今日だって、みんなで大掃除を頑張って、プールではしゃいで……それで、誰が裏切り者かなんて言われても私は……」

 

 そう言って、ヒフミちゃんはそのタレ目に涙を浮かべました。私はそれを見て思わず笑ってしまいました。

 

「良かったぁ、ヒフミちゃんも一緒で。そうだよね、分かんないもんね!」

「せ、先生……」

「……うん、だからこれは私が何とかしてみるよ。ヒフミちゃんはこれは忘れちゃっても大丈夫。やらないといけないこと、別にあるでしょ?」

「は、はい!あ、えっと、私に何が出来るのか分かりませんが……取り敢えず頑張ってみます!」

「うん、そうして!」

 

 気がつけば、時計は一時間をギリギリ回っていないくらい。彼女は持ちっぱなしだったティーカップを流しに置くと、入り口の方へ歩いていきました。

 

「ありがとうございました、アルトリア先生!少し楽になりました……!」

「ううん、先生らしいことが出来たなら私も良かったよ!……おやすみ、ヒフミちゃん!」

「はい、おやすみなさい!」

 

 私は彼女の背中を見送った後、部屋の電気を消してベッドに倒れ込むと、夏向きの薄いブランケットを被りました。良く眠れました。




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