【桐生side】
え……えっと………
何これ…どういう状況?
この先輩の事は、知ってる。
入学してから、何度も見かけた事がある。
「あ、ありがとうございます…でも、どうして先輩が…?」
机を元の位置に戻していた手が止まって、先輩が後ろを振り返る。
その視線の先には、1人の男の子がいた。
あの子…確か、美空 朔也君だよね?
「朔也様の、ご命令でございます」
ご命令って…
様付けで呼ぶって事は、あの噂は本当なんだ…
「高木、まだ終わらないのか…」
先輩に対して、呼び捨て+タメ口だ…
「申し訳ございません。すぐに、参ります」
クラス中の視線を集めている2人は、それを気にする素振りを見せる事なく教室を出て行った。
ーーザワザワッ…!!
一気に騒がしくなった教室で、次に起こるのは…
「すっげぇ!桐生、お前…いつから、あの御曹司と仲良くなったんだよ!」
「俺達にも、紹介してくれよ!」
いつからって、そんなのこっちが聞きたいよ…
話した事もないのに、紹介なんか出来るか!
「やっぱ、アレじゃねーか?桐生も一応は、御曹司な訳じゃん?仲良くしようって事かもよ?」
「あー!羨ましいなぁ…俺、跡取りっちゃあ跡取りだけど…御曹司って家柄じゃねぇもんなぁ…」
これ以上うるさくならない内に、さっさと食堂へ行こう…
ーーーーガラッ…!!
「なんか、賑わってるねぇ♪あ~、いた。桐生ちゃん、ちょ~とそこまで来てくんない?」
はぁ…この人達が来る前に、教室から出たかったのに…
今日は、どれだけの金を要求されるんだか…
「ちょっと、ヤバくないか?先生、呼んできた方が…」
「そんな事して、チクったのバレたら…今度は、俺達が…」
教室の出入口に向かう途中で、クラスメイト達の色んな声が聞こえてくる。
元々、助けなんて求めてない。
この先輩達が卒業するまで、俺が我慢していればいい…
ーーーーーーーー……………………
ーー聖陵学園・食堂内…
食堂に来たからといって、仲良く食事をする訳じゃない。
カツアゲをするのに最適な場所へ行くのに、ここを通り抜けする方が近道だからだ。
………………何アレ…
混んでいるはずの食堂で、1ヵ所だけ人気のない場所があった。
その席に座っているのは…美空君?
隣や前の席が空いているのに、なぜか高木先輩は立っていた。
それに、綺麗な女の人もいる。
俺なんかとは、違う世界の人だよね…
【大和side】
食堂のテーブルの上に、次々に並べられていく重箱…
さすがに、1人で食べきれる量ではない。
「楓…これでは、量が多過ぎではないのか?」
「何、言ってるの!朔也様は、育ち盛りなのよ?これでも、少ないくらいだわ!そうですよね?朔也様♪」
駄目だ…《育ち盛り》を、勘違いしている…
楓の言葉に呆れながら視線を動かすと、混み合う食堂を通り抜けて行く数人が目に止まった。
先頭に2人、後方に3人…
合計5人に、囲まれるようにして歩く1年生。
先程、朔也様の教室で言葉を交わした…
あの位置関係からして、友好的な関係ではない事は一目瞭然…
「……気になるのか?」
………ッ…!
私の心を見透かすように、朔也様の目が私を見上げている。
「いえ…申し訳ございません…」
主の事以外に意識を向けるなど、あってはならない事なのに…
「大和…あなた、どこか変よ?何があったの?」
ーーーーーーーーー……………………
朔也様の食事中の時間を利用して、教室であった事を楓に話した。
「…………………その時の1年生が、食事もせずに通り抜けて行ったんだ」
「確かに、それは気になるわね…ここを通り抜けても、あるのは部室棟だけだし…昼休みに、行く場所ではないわ…」
それに、あの5人…
1年生が逃げられないように、周りを囲んでいた。
「考えられるのは、イジメかカツアゲか…どちらにしても、低俗極まりない」
ーーガタン…
「食事中に後ろでそんな話をされては、どんな料理も不味くなる」
席から立たれた朔也様が、私達を見詰めている。
「「申し訳ございません」」
「………水無月、ここで少し待っていろ。高木は…今すぐ、部室棟へ案内しろ」
部室棟…あの1年生が、向かった場所…
「御意」
「なりません!朔也様御自ら、不良に近付かれるなどッ!大和も、お止めしなさい!」
止めるも何も、私にとって朔也様の命令こそ全て…
楓が心配する気持ちも、充分に理解出来るが…
「問題はない。何があったとしても、朔也様に指一本触れる事は私が許さない」
「絶対よ?自分が言ったんだから、絶対に守りなさいよ!」
しつこいくらいに、何度も念押しされる。
確認されるまでもなく、朔也様に危険が及ぶような事は絶対にしない。
「お前達…随分、好き勝手言ってくれているが…俺も、今まで鍛えてきたんだ。不良の1人や2人…」
「「それだけは、絶対にしてはいけません!」」