その事に関しては、感謝している。
7年前の事件以前から、父上に様々な武術を教え込まれていた。
父上が得意としたのは、合気道※。
(※体術と武器術を組み合わせた、護身術を主とした武術。合気道には試合や大会などというものはなく、己を心身共に鍛える事を目的とする)
だが…体術は出来ても武器の扱いに不得手な私は、いつも怪我をしては父上を悩ませていた。
そんな折、道場に立ち寄ったクリア様が父上に進言した。
『大和に武器持たせたら、見ているこっちが怖いですよ…体術が得意なら、思い切って空手とかやらせてみては?僕も習ってますから、教えられますよ』
そのクリア様の言葉に、父上が承諾し今に至るという訳だ。
「私が空手をしているのは、試合に出る為でも大会で優勝する為でもありません。朔也様のお傍にいる為には、今よりもっと強くならなければ…!」
朔也様を守れないとすれば、私などいつ『いらない』と言われてもおかしくない。
「お前から出る理由は、いつも『朔也様』だな…『朔也様の為に』『朔也様が仰ったから』……大和、お前…朔也様のお言葉を、無理矢理にでも自分の行動理由にしようとしてないか?」
何を、当たり前の事を…
「従者として、主の命令こそ全てなのは当たり前です。無理矢理などではなく…朔也様のご命令ならば、私はどんな事でも従います」
「どんな事でも…ねぇ…でもさ、朔也様からは『大会に出たお前を、見たかった』って言われたんだろ?」
………返す言葉もない。
自分の言っている事が矛盾しているのは、自分が1番よく分かっている。
「頭では、理解しているのです。しかし、感情が追い付かなくて…」
「感情ね……大和、話してごらん。朔也様にそう言われた時、お前は何を思った?ちゃんと話してくれたら、本気で稽古つけてやるよ」
話す事には、勇気がいる。
だけど…クリア様の『本気で稽古』という言葉に、私は全てを打ち明ける決意をした。
「朔也様に『大会に出たお前を、見たかった』と言われた時、私はもう必要ないと言われているようで…怖くなったのです」
座って話を聞いているクリア様に対して立ったままなのは失礼と思い、話しながらその場に正座した。
「少し…意地悪な事を言うよ。大和、お前は…朔也様に、依存し過ぎてる。7年前にあんな事件があって、主を何としても守らなければ…っていう、お前の気持ちは痛い程よく分かる。でも、それは本当に朔也様の為か?」
「依…存…?」
「そう…《依存》というのは、大きく分けて3種類ある。1、《人への依存》…2、《プロセスへの依存》…3、《物質への依存》…お前の場合は、間違いなく1の《人への依存》だから…2と3の説明は、省かせてもらうよ。《人への依存》にも色々種類があるけど、お前に当てはまるのは《共依存》ってヤツかな。共に依存するって書いて、《共依存》」
『共に依存する』…
朔也様も、何かに依存している…?
「朔也様が何かに依存されているようには、見えないのですが…」
クリア様のグレーの瞳が、私の心を見透かすように細められた。
「正確には、依存していた…かな。事件前の朔也様を、思い出してみなよ。お前を『やまとお兄ちゃん』と呼んで、いつもベッタリくっついてさ…夜寝る時も、近くにお前の姿がないと…まるで、この世の終わりみたいに泣き叫んでた。でも…あの事件をきっかけにして、朔也様の依存症状は徐々に薄れていった」
私は逆に、あの事件をきっかけに依存症状が強くなってしまったのか…
「《共依存》について、詳しく教えて下さい」
もっと詳しく知って、治せるものなら治したい。
クリア様は頷くと、一度だけ天井を見上げてすぐに視線を私に戻した。
「《共依存》を、一言で言うとしたら…《他者に必要とされる事で、自分の存在意義を見い出す事》なんだ。自分自身への過小評価のせいで、誰かに認められる事でしか安心や満足を得られない」
その『誰か』が、私にとっては朔也様だという事か…
『私はもう必要ないと言われているようで、怖くなった』
朔也様から『必要ない』と言われた事など、実際には一度もない。
なのに…一体なぜ私は、こんなにも恐怖を感じている?
「……それを、治す方法は?」
「簡単な事さ。お前の自己犠牲的な献身を、止めればいいだけ」
献身を、止める…?
そのような事、出来る訳が…
「それは、無理です。私は、従者として……」
「ストップ!ストップ!お前ね…『従者として』なんて言い訳、今後一切禁止!従者である前に、1人の人間である事を忘れるな!空手が、好きじゃないのか!?勧誘された時、自分の力を試したいとは思わなかったのか!?《朔也様の為》じゃなく、自分の気持ちに素直になれた時…お前の依存症状は、治るよ」
自分の気持ち…
強くなりたい。
もっと、技を磨きたい。
「私の…私の力が、大会でどこまで通用するのか知りたい…」