【朔也side】
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ーー18時40分・中庭…
中庭にある東屋※に腰を下ろし、お母様の為に植えられたという菩提樹を見上げる。
(※公園や庭園にある、壁がなく柱と屋根だけの休憩所)
日が落ちてからのこの時間が好きで、いつもここへ来て夕食までの時間を潰す。
時間になれば、高木が迎えに来てくれる。
それもいつもの事で、この日も同じだと思っていた。
でも…
「……クリア…?」
迎えに来たのは、高木ではなく主治医の息子だった。
「朔也様、もうじき夕食のお時間ですよ。……大和ですか?」
何かを探す素振りをした俺に、クリアはそれが分かっていたかのように聞いてきた。
「……どうして…?」
今…俺は、何も聞いてないのに…
「分かりますよ。お迎えに上がるのは、《教育係》である大和のお役目。朔也様も、今日に限って…大和ではなく僕が来た事を、不思議に思われたのでしょう?」
クリアは、高木がどこにいるのか知っているのか…?
「……高木に、何をした?」
「僕、悪者ですか!?ご安心を…道場で、本気の稽古をしただけですから」
『本気の稽古』…?
普段、見ているだけか茶化すかしかしないクリアが?
「……どういう風の吹き回しだ?」
「朔也様の中で僕の評価って、どれだけ低いんです?……大和が決めた新しい夢を、僕なりに応援しようと思っただけですよ」
『新しい夢』という事は、まさか…
「大会に出るのか!?本当に、高木がそう決めたんだな!?……ッ!……すまない…」
思わず、クリアの服を掴んでいた。
服に、しわが付いてしまった…
「凄い、食い付きっぷり。本当ですよ。でも、いいんですか?大和が空手部に入れば、朔也様のお迎えには来れなくなりますよ?」
《教育係》の役目…
そんなもの…
「そもそも、それ自体…時代遅れなんだ。今日みたいに高木がすぐに来れなくても、俺はずっと教室で待たなくてはいけない」
今日は桐生が話し相手になってくれたから、退屈せずに待っていられたが…
いつでも、それが可能な訳じゃない。
「お迎えは、来なくていい…と?」
「……いつも誰かがいたら、俺は1人では何も出来なくなる。それが、嫌なんだ…」
自分で考えた事は、自分で行動したい。
「学校で、何かやりたい事でも見付かりました?」
「……今日…『友達』が…出来たんだ…屋上近くの階段の踊り場で、『また話そう』と…約束した」
クリアの手が、俺の髪を撫でた。
「朔也様は…ご学友と話す為に、大和に空手部への入部を勧めたんですか?」
……ッ…!?
そんな訳…!
「あ…有り得ない!俺は…」
俺は、何を言おうとしている?
どんな言い訳をしても、結果はそういう事になるのではないのか?
「……や……ま!朔也様!……すみません。少し、意地悪を言いました」
……意地悪…?
そういえば…この男は昔から、人の心を見透かす事が得意だった…
「……俺は、そんなつもりじゃ…」
「分かってますよ。朔也様が、ただ純粋に大和を応援したいと思っている事は…今回は…大和の空手部への勧誘と、朔也様の《思春期》の時期が偶然重なっただけです」
《思春期》…?
その言葉を聞いた事くらいは、何度かあるけれど…
「……水無月は、俺が《成長期》だと言っていたが…」
「ええ、間違ってませんよ。朔也様は《成長期》であり、《思春期》でもあるんです……混乱させました?」
分かっているのなら、一々聞かないで説明して欲しい…
「……その2つは、何が違うんだ?……ッ…!」
一瞬、強い風が俺達の間を通り抜けた。
乱れた髪を、クリアが直してくれる。
「少し、風が強くなってきましたね。戻る道すがら、お話ししますよ」
促されるまま、東屋を出る。
靴を脱いで廊下に上がると、風が一段と強くなって菩提樹の枝を揺らしていた。
道すがら話すと言ったくせに、クリアは何も言わない。
「……《成長期》と、《思春期》の違いは?」
クリアが後ろを歩いているから、表情を見ようとすれば自然と後ろを見る形になる。
「危ないですよ。ちゃんと、前を向いて歩いて下さい」
……話しにくいな…
それでなくても…この男は俺が知りたがっている事を分かっていて、わざと勿体振っているんだ…
根っからの、意地悪だ。
「……前を向くから、話してくれ」
「クスッ…どちらも《心身共に成長し、大人になろうとする時期》です」
……?
同じ…という事か…?
ならばなぜ、言い方が違うんだ?
「……分からない」
「《思春期》には、もう1つ…《心身の成長に感情が追い付かず、精神的に不安定になる時期》というのが加わるんですよ。朔也様のように何でも1人でやりたいと思う自立心と、構われる事への反抗心がごちゃ混ぜになっている精神状態が…正に、《思春期》の特徴なんです」
クリアが言い終わったと同時に、お祖父様達が待つ部屋に行き着いた。