大和の才能を潰すような判断を、ご隠居様が下す訳がない。
そう考えれば、口走ってしまった事は間違いじゃなかった。
「朔也は、承知しておるのか?」
「……はい。何より俺自身が、高木の大会に出た姿を見たいと思い…その事は既に、本人へ伝えております」
朔也様のお言葉に、ご隠居様は頷いて僕達の方へ向き直った。
どうしよう…
物凄く、緊張してる…
裁判の判決を待つ犯罪者って、こんな気持ちなのかもしれない…
「ならば、何も言う事はない。存分に、励め」
「ありがとうございます。ご期待に沿えるよう、誠心誠意努めて参ります」
よ…よかった…
これで駄目だと言われたら、立ち直れないところだった…
「ご隠居様、本当によろしいのですか?指導するのは、うちの愚息という事になるのですよ?」
……ちょい待ち…
まさかの、実父が敵になるパターン?
「折角、許可もらえたのに…そういう事言っちゃ駄目でしょ!?何、考えてんのさ!?」
「ふむ…」
ほらぁ…ご隠居様が、考え込んでしまったじゃないかぁ!!
「……お祖父様、その事については問題ないかと…空手の指導において、クリアは真摯に取り組むと…高木から、聞き及んでおりますから…」
朔也様が、僕の味方を…!
「そうか…朔也、お主のその言葉を信じよう。神野殿…心配する気持ちは、よく分かる。だが…クリアは、全国大会3連覇を成し遂げる程の腕前…お主の息子の指導力、大いに期待する」
納得してもらえる実力があって、本当によかった…
高校時代の自分を、褒めてやりたい…
「勿体なきお言葉、ありがとうございます」
全く…アンタのせいで、一時はどうなる事かと…
まあ、とにかく…これで、何の気兼ねもなく指導が出来る。
「この話は、これで終わりにしよう。皆の者、席につけ。料理が、冷めぬ内にな」
はぁ…やっと、食事にありつけるよ…
とても美味そうな料理が、テーブルに並べられている。
「いっただきま~す♪」
「本当にお前は、礼儀というものを知らんな…」
腹減った状態で、礼儀とか考えたくない…
「構わぬ。今夜は、無礼講だ」
やったね♪
うん、最高♪
「……お祖父様…クリアに、酒は飲ませないで下さいね…」
う…痛いところを、的確に突いてくるなぁ…
「分かっておる…しかし、ビール1杯であれ程に酔うとはな…」
「すいません!すいません!あんな過ちは、2度とやらかしませんから!」
ーーーーーーー……………
ーー2時間後…
ーー20時50分・縁側…
春特有の心地よい風が、僕の頬を撫でていく。
こういう集まりにおいて、食事が終われば子供達はお払い箱だ。
22歳の僕が『子供』に分類されるのかという疑問は、この際その辺に投げ捨てておくとしよう。
当然のように始まった大人の酒盛りに、手持ち無沙汰になるのは…いつも、子供達だ。
僕自身は、世間一般から見れば酒が飲める歳だ。
だけど…ご隠居様が仰った通り、僕は酒…いや、ビール1杯で酔い潰れる…
おまけに、泣き上戸という悪癖まである始末…
本当に、救いようがない。
朔也様には、情けないところばかり見られては…評価が、下がって行くばかり…
1番見て欲しかった僕の高校時代を、朔也様は知らない。
僕が中学3年の秋、あの忌まわしい事件が起こった。
大和と楓ちゃんが、父親を殺された日…
僕は…非行への道を、突っ走っていた。
中学時代、荒れに荒れた。
総合病院院長の一人息子…
将来は医者になるもんだと、勝手に決められた。
周囲から期待される度に、押し寄せてくるプレッシャーの波…
正直、父親を恨んだ。
最初は、困らせてやろうと思った。
夜遅くまで子供が帰らなければ、この父親はどれ程困るのか知りたかった。
それが日を重ねていく内にエスカレートし、家出や無断外泊などの繰り返し…
期待されていた周囲からは、軽蔑の目と不良のレッテル…
あの忌まわしい事件があった日も、僕は無断外泊を決め込んで遊んでいた。
次の日父さんに張り倒されるまで、自分がどれだけ愚かな事をしていたのか自覚さえしていなかったんだ…
何も知らず遊び呆けていた時間に、僕の知っている人達が殺された。
中学生だった僕がその場にいたとしても、何も出来なかったと思う。
でも…葬式の場で遺体と対面し涙する遺族を見て、罪の意識に苛まれた事を今でもはっきりと思い出せる。
その日を境に、不良仲間とは縁を切った。
必死で勉強して体を鍛え、いざ…更正した僕を、朔也様に見て貰おうと思った矢先…
朔也様は、アメリカへ行かれてしまった…
それでも諦めず頑張って、高校時代の3年間で全国大会3連覇を成し遂げた。
朔也様が帰国したら、喜んで頂けるものと思っていたのに…
『……おめでとう』
そのお言葉を仰った朔也様の表情は、凍ったように冷たくて…無表情で、7年前とは全く違っていた。