「やります!絶対に…美空君の《友達》だって、認めてもらいますから」
高木先輩も1人の人間なんだから、どこかに隙はあるはず…!
「……桐生…無理は、しなくていい。俺は、お前に怪我をさせたくない。高木、何か別の方法を………」
ゆっくりとした動作で高木先輩は、椅子に座っている美空君の足元に跪(ひざまず)いた。
「此度の事は、桐生様ご本人からの申し出です。私は…この条件以外で、認めるつもりは一切ございません」
呆れたように首を振った水無月先輩が、俺の両肩に手を置いた。
「朔也様、大和は1度言い出したら聞きません。ですから…私は、桐生様の味方をさせて頂きます。大和、それでいいわね?」
え…?えっと…
水無月先輩の方を見ると、可愛らしくウィンクされた…
この状況、何なの…
「好きにしろ。例えお前が相手でも、私は負けない」
勝負の相手、変わっちゃ駄目でしょ…
「その虚勢、いつまで持つのかしらね…見物だわ」
ーーキーンコーンカーンコーン……
タイミングよく鳴り響いた予鈴のチャイムに、高木先輩は立ち上がり水無月先輩は俺から離れた。
「では…私共は、これで失礼致します」
「放課後、迎えのお車にてお待ちしております」
さっきまで、険悪ムードだったのに…
チャイムが鳴った途端、あっさり切り替えられるなんて凄いな…
「……なぜ、不思議そうな顔をしている?」
「だ、だってさ…あの2人、険悪だったじゃない…大丈夫なの?」
階段を降りていた、美空君の足が止まる。
やっぱり、大丈夫じゃないのかな…?
「……険悪に、見えたのか…安心していい。あれは、単なる痴話喧嘩だ」
あ…そうなんだ。
単なる、痴話喧嘩ね…って…
「痴話喧嘩ぁ!?そ…それって、やっぱり…そういう事だよね…?」
「……そういう事…とは?」
『痴話喧嘩』を知ってて、何で『そういう事』を知らないのさ…
「な、何でもない!授業、遅刻しちゃうよ」
恥ずかしさを誤魔化すように、階段を一気に駆け降りた。
何か…知っちゃいけなかった先輩達の事情を、聞いてしまった気がする…
次にあの2人に会った時、上手く知らないフリ出来るかな…
「……桐生…成り行きとはいえ、高木と勝負する以上…何としても、勝ってほしい…と思う…」
《一撃入れたら認める》って話が、いつの間にか《勝負》になってる…
「うん、頑張るよ!絶対…あの高木先輩に、一撃入れてみせるから!」
ーーーーーーーーーー…………
ーー5月1日・放課後…
う~ん…
高木先輩に…一撃………無理じゃない?
あの人…空手部に入部早々、組み手で部員全員を瞬殺したって…
何でその事を、昼間の時点で思い出さなかったんだぁ!
ーーゴンッ…!
勢い余って、机に頭をぶつけてしまった…
痛い…けど、そんな事どうでもいい…
あと10ヶ月で、どうやって高木先輩に一撃入れればいいって言うのさ…!
誰か、教えて!
「……凄い音がしたが、大丈夫か?」
美空君…
高木先輩のご主人様…
「大丈夫…」
「……随分、深刻な顔をしているな。悩み事か?」
悩み事と言えば、悩み事なんだけど……
……ッ…そうだ…!
「ね、ねぇ…高木先輩の事で、色々聞きたいんだけど…今、時間あるかな?」
「……時間はあるが…高木の事なら、俺よりも水無月に聞いた方がいい。車で待っているはずだから、一緒に行こう。ついでに、自宅まで送って行く」
優しいなぁ、美空君…
話聞いてくれるだけじゃなく、自宅まで送って……
ん…?自宅!?
今日って、家族全員いる日だ…
そんな所に車で帰ったら、質問責めになるよ…
「送るのは、いいよ!面倒くさい事に、なっちゃうから!」
「……面倒くさい事って、何だ…?」
やっぱり、それ言わなきゃいけないよね…
「えっとね…うちの家族、人の世話焼くの大好きでさ…車で帰ったりなんかしたら、格好の標的になるんだよ…」
あ~…美空君、考え込んじゃった…
折角の厚意を断った理由が、家に家族がいるからなんて怒って当然だよね…
「……家まで行かなければ、問題ないんだな?」
「え…?うん…怒ってないの?」
こんな、自分勝手な事言ってるのに…
「……怒る?人には、それぞれの事情があるものだ。それを無視して、こちらの都合を押し付けては…《あの人》と、同じになってしまう…」
《あの人》って…?
美空君、誰の事を言ってるの?
聞きたいけど、気軽に聞ける雰囲気じゃない。
いつか…美空君から話してくれるまで、焦らず待っていよう。
「車に、行こっか。水無月先輩が、待ってるんでしょ?遅くなると、また心配させちゃうからね」
「……そうだな。高木に一撃入れる方法が、見付かるといいな」
それだよ…
うちの家族なんかより、もっと大きな問題だ。
体を鍛えろって、言われたりして…
とにかく今は、味方をしてくれるらしい水無月先輩を信じよう。