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ーー17時30分・東屋…
桐生が車から降りた後、俺は一言も話さなかった。
別に…怒っていたからとか、不貞腐れていたからではない。
言われた言葉が、ずっと頭の中を駆け巡っていた。
『《自由がない》なら、俺が自由にさせてあげる』
あれは、どういう意味なのか…
本人に確認する前に、目的地に着いてしまって聞けなかった。
それは、言い訳か…
目的地に着かなくても、聞けなかったくせに…
「朔也様、何か考え事ですか?」
聞こえてきた声に振り返ると、クリアがしたり顔で近付いて来た。
この男は、水無月から何を聞いて来たのか…
「……………分かっているなら、放っておいてくれ」
今は、クリアの相手をしている暇はない。
少し早いが、そろそろ部屋に戻ろう。
「お待ち下さい。僕は、朔也様の味方ですよ」
俺の味方…?
「…………………」
………少しも、嬉しくない。
「信じられませんか?」
信じるとか、信じない以前の問題だ。
「……水無月から、聞いているのだろう?俺が選んだ《友達》を信用していないのは、そちらではないか!」
こんな事をクリアに言っても、返ってくる言葉は分かりきっている。
「大和も楓ちゃんも、朔也様の為を思って……」
予想通りの事しか言えないのなら、話しかけないでほしい。
それ以上聞きたくなくて、話の途中で菩提樹の方へ歩き出す。
「……はぁ…」
溜め息しか出ない…
「朔也様、人の話は最後まで聞くものですよ。分かりきった答えであっても、露骨に嫌そうな態度はいけません」
正論を説かれると、腹が立つ。
『分かりきった答え』だと分かっていながら、それを口に出す神経を疑いたくなる。
「俺に、構うな!どこかに、行ってくれ!」
「行きません。僕は、朔也様の味方ですから……とはいえ、その桐生様の事…何も知らないんですよねぇ…教えてもらえません?」
……本当に、味方なのか?
もし、信用して裏切られたら…
どうしても、疑心暗鬼になってしまう。
「……お前が、俺の味方だという確証がほしい。桐生の事を話すのは、それからだ」
さあ、どう出る?
クリアは真面目な顔をして、真っ直ぐこちらを見ている。
「朔也様がお産まれになって、まだ間もない頃…他の誰があやしても泣き止まないのに、僕が抱き上げると笑ってくれたんですよね。その瞬間から、僕は…何があっても朔也様の味方だと、心に決めたんです」
【クリアside】
他人が聞いたら、下らないと笑われるかもしれない。
だけど…周囲からのプレッシャーに押し潰されそうだったあの頃の僕は、産まれたばかりの朔也様の笑顔に何度も何度も救われた。
無断外泊や家出を繰り返しながらも、大きく人の道を逸れずにいられたのは…間違いなく、朔也様のおかげなんだ。
「……俺は、何も知らない。そのような事を、した覚えもない…」
それは、そうだ。
覚えていたら、逆に怖い…
「僕が、覚えてます。それから…これを、朔也様に貰って頂きたい」
「……箱…?」
…………違いますよ!
ま、まぁ…差し出したのは、箱だけど…
貰ってほしいのは、その中身であって…
「その箱…開けて下さいよ…」
箱を受け取ったはいいけど、それを夕日に透かすように持ち上げてる…
光に透かしても、中が見えるような箱じゃないのに…
「……………」
固まってしまったよ…
目線は、箱に縫い付けられたまま…
…………なんか、警戒されまくってない?
ゆうに5分間は固まった後、朔也様は箱を開けた。
中から出てきたのは、シルバーの腕時計…
……そんなに、高価な代物じゃない。
22歳の大学生が出せる金額なんて、3万円くらいが限度…
『親が、院長のくせに…』とかよく言われるけど、親に金があるから子供も金を持ってると思われるのは心外だ。
「朔也様に、よく似合うと思います。普段使いで付けて頂けると、嬉しいです」
「……この贈り物は、どういう意味合いの物だ?これと引き換えに、お前は何を望んでいる?」
朔也様の中では、贈り物=賄賂か!?
僕が今欲しいのは、朔也様からの信用…
でも…この贈り物は、見返りが欲しくて用意した物じゃない。
「何も、いりませんよ。世間一般では、大切な人の誕生日に贈り物をするんです。どうか、受け取って頂きたい」
戸惑う朔也様の様子からして、今まで誕生日に何かを贈られた事がないんだろうな…
見返りを求めない贈り物が存在する事さえも、今初めて知ったような雰囲気だ。
「……あ…ありが…とう……どうやって、付けるんだ?これ…」
腕時計を、付けた事もなかったのか…
「クスッ…基本的には、利き手で付けるので…右手に持って、ここのバックルを外して下さい。左手をわっかに通して…手首の所で、バックルを留めるんです。簡単でしょ?」
腕時計をはめたり、外したり…まるで、玩具を与えられた子供みたいだ。