【大和side】
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ーー21時00分・屋敷内道場…
夕食後に休憩していたクリア様を捕まえて、道場で特訓を開始して早1時間…
「どうした?蹴り上げが、浅くなってるぞ!もっと、速く!」
蹴り技を中心に特訓をしている為、そろそろ体力的に限界が…
「はい……はぁ…はぁ…」
「……仕方ない。少し、休憩しよう」
私の攻撃を受け流していただけとはいえ、それなりに動いていたはずのクリア様は息一つ乱していなかった。
「凄いですね…」
素直に、感心する。
「え?何が?」
タオルで汗を拭いていたクリア様が、私の方へ振り返る。
「なぜ、息が乱れていないのですか?」
「う~ん…なぜって…毎日、走り込んでるからかな。お前もさ、こんなもんで根を上げてたら全国制覇なんて無理だぞ?」
無理…
私自身、こんなに体力がないとは思っていなかった。
全国大会まで日にちがないのに、どうすれば…
「……どう…すれば…」
「体力を付けたいなら、朝と晩に走るか?体力に合わせて、持久力も付く。すぐに、答えを出さなくていい。一晩考えて、走る気になったら朝6時に表門で待っていろ」
朝6時…表門…
答えなど、既に出ている。
「かしこまりました」
答えは変わらないだろうが、考える時間が与えられているのは正直ありがたい。
「今日の特訓は、これで終いにしよう。俺は、帰るよ。お前も、ちゃんと睡眠とれよ?また、明日~」
『また、明日』…?
私の答えなど、お見通しですか…
まったく…相変わらず、人が悪い。
「ありがとうございました」
お礼の言葉に片手を上げて応えたクリア様に、お辞儀を返して道場の片付けと戸締まりを始めた。
そういえば…クリア様が道場にいる間、朔也様の話題が出なかった。
特訓しに来ているのだから、当たり前…と言われてしまえば、それまでなのだが…
考えるのは、止めよう。
明日は、朝早いのだから…
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ーー翌日・5時58分…
「おはよ。無駄足にならなくて、よかったよ」
「おはようございます。どの辺りを、走るのですか?」
走る事は聞いているが、その他の事は何も聞かされていない。
「今日は、商店街から河原の方へ回って…ここへ戻って来たら、大体8㎞かな。ゆっくり行くけど、しんどくなったら言えよ?無理は、禁物!分かった?」
人差し指を、目の前に突き付けられる。
「分かりました」
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ーー1時間半後…
「とうちゃ~く!で、どうだった?」
どうも、こうも…
「いつも…あんなに、色んな人に話しかけられているのですか?」
すれ違う人が、次から次へとクリア様に話しかけて来た。
「うん…まぁね…昔の事を考えたら、避けられたりしてもおかしくないのにさ…みんな、優しいよね。本当、ありがたいよ」
優しいと言うより…あなたが昔のままだったなら、避けられていたでしょうね。
「今のあなたは、あの頃とは違うでしょう?見るべきなのは、その人の今だと思います」
首にかけていたタオルで汗を拭っていたクリア様は、その手を止めて空を見詰めた。
「『その人の今』か…でもね、あの頃の自分も僕自身なんだよ。葛藤やプレッシャーも、今でも僕の中にあるんだ。父さんが、あまりに立派過ぎて…押し潰されそうなくらいにね…」
乗り越えたと、思っていた。
そして…本人にとって昔の事は、忘れたい事なのだと…
「昔の事を、忘れたいと…忘れてほしいとは、思わないのですか?」
空を見ていたクリア様が、ゆっくりと私の方へ振り返った。
「……思わないよ。いや、忘れてはいけないんだ。間違った選択をしたのも、僕自身なんだから…自分が責任をとらなきゃ、誰がとってくれるのさ…」
この人は、強い…
体術だけではなく、心も強過ぎる。
自分の間違いに、自分で気付いて…そして今、信用を回復させる為の努力を惜しまない。
周囲の人達にも、その事が伝わるから…先程のように、色んな人がクリア様に話しかけて来るんだ。
「私は…昔の事を言ってはいけないと、勝手に思い込んでおりました…」
「言っていいんだよ。もっと、責めたっていい。朔也様やお前達が、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていた時に…僕は、呑気に無断外泊して遊んでたんだから…」
それでは、完全な責任転嫁だ。
あの事件は、クリア様が引き起こした訳ではない。
「当時中学生だったクリア様のせいにする程、私は落ちぶれてませんよ。朔也様も、あなたのせいだと言われた事はないはずです」
慰めたつもりが、クリア様の表情は暗くなる一方で…
「直接は言われなくても、あそこまで信用がないと…気になるじゃないか…」
クリア様の信用がないのは…
「半年前、酔っ払った挙げ句…泣きながら、朔也様に抱き付かれた事を聞かれていないのですか?」
「……父さんから、聞いてます…ごめん…」