私に、謝られても…
信用がないと言っていたが、それは大きな間違い。
アメリカに行ったばかりの頃、クリア様の全国制覇の報せに1番喜んでおられたのは朔也様だ。
「朔也様が、あなたを警戒する原因はそれですよ」
いくら信用していようと、泣きながら抱き付かれたら誰でも警戒するでしょう。
ましてや、その相手が酔っ払っていたとなれば尚更。
「マジか~…僕、その時の事…覚えてないんだよなぁ…」
ビール1杯で…?
「たったあれだけの酒量で、よくあそこまで酔えましたね…」
仮にも、20歳を越えた大人が…
「ごめんってば~…ほ、ほら!もう7時半、回ってる!そんな汗かいた状態で、学校行くのか?風呂、入る時間なくなるぞ~…んじゃ、お疲れさん」
私の肩を軽く叩いて、足早に退散するクリア様の後ろ姿を見送る。
言われた通り、急がなくてはいけない。
表門の通用口を通って、庭先へ出て最短距離で風呂場へ着いた。
急がなくては…
ーーーーーー………
ーー8時10分・車中…
「……なぜ、髪が濡れている?」
やはり、分かってしまうか…
「今朝、クリア様と近所を走り込んでいたのです。その際汗をかいたので、風呂に…」
朔也様の左手が私の髪に触れて、言葉が途切れた。
咎める必要はないが、少し気恥ずかしい…
「……いつも、中学生には見られないが…前髪を上げていると、尚更に年齢不詳だな」
それは、私が老けているという事でしょうか?
「それを言われるなら、楓もそうですよ」
「ちょっと!何それ!私は、ちょっと大人に見られるだけよ!?」
老けているのと、どう違うんだ?
朔也様は、ずっと私の髪を弄っている。
触って楽しいとは、思えないけど…
顔を朔也様へ向けた時、見慣れない物が見えた。
それは、朔也様の左手首にあった。
「腕時計…ですか?」
「……あ…これは…昨日、クリアに貰ったんだ。誕生日プレゼントだと、言っていた」
誕生日プレゼント…
朔也様がお産まれになって、誰もがやりたくても出来なかった事を…クリア様は、どうしてこうも易々とやってのけるのか…
「大和、表情が暗いわよ!朔也様、1日遅れですが…私からの誕生日プレゼントも、受け取って頂けます?」
そんな物、用意していたのか?
「楓…受け取るも何も、それはどこにあるんだ?」
言っただけで、何かを差し出した訳でもない。
どう受け取れと?
「それは、お昼のお楽しみ♪」
【桐生side】
ーーーーーーー………
ーー5月2日・12時半…
屋上前の踊り場で昼飯を食べているのは
、いつも通りの事なんだけど…
「えっと…従者の2人は、どこ行ったの?」
迎えに来るはずの高木先輩は来ないし、ここに来ても重箱が置かれていただけで水無月先輩の姿はない。
どう考えても、おかしいでしょ…
「……俺にもよく分からないが、《1日遅れの誕生日プレゼント》らしい。今日だけだがな…」
た…誕生日プレゼントって…
「あの2人が来ない事が、美空君の誕生日プレゼントになるの?」
しばらく考えてた美空君が、今度は俺を見てる。
顔に、何か付いてるかな…?
「……お前は、高木が苦手だろう?話していても、高木に遮られてしまう事もあるからな…今日は、誰にも邪魔されない。それだけで、誕生日プレゼントとして充分だ」
高木先輩が苦手な事、何で知ってんの?
俺、顔に出てる?
「誕生日プレゼント…俺、何も用意してなくて…ごめんね…」
昨日高木先輩が、誕生日のお祝いはしないって言ってたから…
……そうだよ!
しないって言ってたのに、誕生日プレゼントってどういう事!?
「……どうかしたのか?何を、怒っている?」
「え…?えっと…高木先輩は、誕生日プレゼントとかしないって思ってたから…」
あ~!何か、腹立ってきた!
俺には『おめでとう』も言わせてくれなかったくせに、自分はこんな事しちゃう訳!?
「……これは、水無月からの誕生日プレゼントだ。高木からは…貰った事などない。誕生日プレゼントという物も、昨日産まれて初めて貰った」
あ…俺の勘違い…
言葉に出さなくて、よかったぁ…
「昨日、何貰ったの?」
俺の質問に、美空君は左手の袖口をずらした。
そこには、美空君によく似合うシルバーの腕時計が…
「……クリアが、くれた」
クリアって言われても、誰か分かんないよ…
「が、外国人から!?凄いね」
俺の言葉に、美空は首を傾げた。
何か、変な事言ったっけ?
「……ドイツと日本のハーフだ。見た目は外国人っぽいが、中身は完全な日本人だ」
そういう人と知り合いだなんて、本当に凄いな…
「ま、まさか…その人も、従者とか?」
「……いや、違う。クリアは、俺の主治医の息子だ。大学の医学部に、通っている」
美空君の関係者が多過ぎて、覚えるの大変だ…
忘れないように、メモしとかなきゃ…!
「どんな人なの?」