丁寧な挨拶だ。
緊張するなぁ…
「き…桐生 雅人(きりゅう まさと)です。美空君とは、クラスメイトで…」
クリアさんの顔は、口元は笑ってるけど…目が、笑ってないように見えた。
「話は、聞いてるよ。君に、会いたかった。ちょっと、ここから出ようか。こういう場所、息が詰まるでしょ?」
自己紹介の途中で言葉が途切れた理由に気付かれて、別の場所で怒られるのかな…?
「……どこへ、連れて行くつもりだ?」
聞かれたクリアさんは、人指し指を自分の唇の近くに立てた。
「内緒です。屋敷からは出ませんから、ご安心を…それに…僕達が来る前に、大和のおもてなしは終わったみたいだから問題はないでしょ?30分程で、戻りますよ」
「……桐生、何かあったら大声を出せ」
何、その忠告…
俺、これからどうなんの?
「わ、分かった」
「何もしませんよ!?信用して下さいよ!」
格好いい風貌なのに、どこか残念な人だな…
ーーーーーーー………
ーー16時半・離れ廊下…
付いてきたはいいけど、初対面の人と話す事がないんだよね…
「あ、あの!どこに、行くんですか?」
あんまり歩くと、迷ってしまいそうで…
「ん?えっとねぇ、君って将棋出来る?」
……………俺、どこに行くのか聞いたはず…
「少しなら…」
弱いけど、駒の動かし方くらいなら分かる。
もしかして、今から将棋やるの?
「おや…見慣れぬ客人じゃな。朔也の友達か?」
え…誰!?
突然かけられた声に周りを見渡したら、中庭に着物を着て下駄を履いた老人がいた。
「そちらに、おられましたか…この方は、朔也様のクラスメイトでございます」
廊下に正座したクリアさんに手で促されて、老人に自己紹介をする。
「は、初めまして…桐生 雅人です。今日は、美空君に招待してもらって…あっ!ご招待して頂いて…えっと…」
敬語って、難しくて上手く話せない。
…って言うより、このお爺さん誰!?
「はっはっはっ!普通に話して構わんぞ、お若いの。私は、朔也の祖父だ。これからも、孫と仲良くしてやっておくれ」
美空君の…お爺さん!?
「ごめん…僕が勿体振ったせいで、説明する前にご本人登場しちゃって…」
段取り悪ッ…!
さっきの将棋の話は、このお爺さんの趣味って事かな…?
「ありがとうございます。あの…将棋が、お好きなんですか?」
「ほう…クリアから、聞いたのか。少々、手詰まりでな…」
【クリアside】
時間は、2日前まで遡る。
ーーーーーーー………
ーー5月3日・8時45分…
世間は、ゴールデンウィーク真っ只中…
病院も休みで、大学も休み。
はっきり言って、やる事がない。
目が覚めてからもベッドから出る気にはならず、時間を潰す方法を探しながら無駄な時間を費やしていた。
どうせ部屋から出ても、買い物に行かされるのが関の山…
何て事を考えていた時、家の電話が鳴ったんだ。
ーープルルルル…プルルルル…!
電話の音って、結構うるさいなぁ…
さっさと、出ろよ…
……そうだ…今、僕しかいないんだ。
両親が出かけてる以上、居留守使う手もあるけど…
後で、その事がバレたら厄介だし…
考えている間に、鳴り続ける電話機の前に来た。
受話器を上げて、耳にあてる。
「はい…神野ですが…」
『……クリア…?少し話があるんだが、今時間あるか?』
……えっ…?
朔也様…!?
危うく、受話器を落としそうになった。
「は、はい!時間なら、有り余ってます!どうか、されました?」
朔也様自ら、電話してくるなんて初めてだ。
一体、何があったのか…
受話器からの声に耳を澄ませていた僕は、聞こえてきた言葉に驚いた。
『……5日に、友達を招待した。お前に会ってもらいたいから、来てくれないか?……用事があれば、無理にとは言わないが…』
どうしよう…顔がニヤける…
だって、あの朔也様が…!
あの朔也様が、僕に会ってほしいって…!
「行きます!どこへでも!」
『……どこへでもって…うちに来てくれたら、いいのだけど…5日の14時に、東屋で待っている』
さっきまでの憂鬱な気分が、一気に消え去った。
話には聞いていても、どこか他人事だった例の友達に会わせてもらえる。
これ以上の嬉しい事なんて、他にあるもんか。
「分かりました!楽しみにしてます」
舞い上がる気持ちを何とか抑えて、受話器を置いた。
ーーーーーーー………
ーー5日・16時40分…
そして今現在、その友達を連れ出す事に成功した。
目的は、ご隠居様に会わせる事…
朔也様に友達が出来たと、御前様の耳に入れば何か仕掛けてくるかもしれない。
だけど…その友達がご隠居様に気に入られているとなれば、いくら御前様と言えども簡単には手を出せなくなる。
桐生 雅人君、気に入られるかどうかは君次第だ。
僕は、お手並み拝見させてもらうよ。