「美空君、落ち着いて!」
これが、落ち着いていられるか!
何の相談もなく、いつも勝手に決められる。
俺の事なのに、俺の意見は蚊帳の外…
こちらに伝えられるのは、既に決定事項となった事柄のみ…
「心配無用。悪いようにはせん。桐生とやら、いかがかな?」
桐生に問いかける振りをして、その実…お祖父様は俺の反応を見ている。
結局…お祖父様も、味方じゃない。
隙を見せたら、負けだ。
「あ…えっと…迷惑じゃ…」
「迷惑かけとるのは、孫の方だ。それと…クリアよ、いつまで盗み聞きしておる。こちらに、来んか!」
……ッ…!?
振り返ると…俺が開け放した障子から、クリアが姿を見せた。
「クリア!お前が、お祖父様に入れ知恵を!?」
もしそうなら、俺は…
「濡れ衣ですよ。いくら僕でも、次の段階に進むなんて予想出来ませんって!」
『次の段階』…
まだ、終わっていないのか…
俺は、何も知らない…聞かされていない…
脚から力が抜けて、立ち上がる事も出来ない。
「……桐生を泊まらせる目的は、何ですか?」
安心させておいて、絶望を与えるのはお得意だろう。
「悪いようにはせんと、言ったではないか…私を、信用しなさい」
信用…?信用だと…?
ふざけるなッ…!
「……何の相談もなしに決められて、何をどうやったら信用出来るのですか?俺が今日桐生を招いたのは、お祖父様に会わせる為ではありません!放っておいて下さい!」
こんな事になったのも、元はと言えば…
1人涼しげな顔をしているクリアを、睨み付ける。
お前が、余計な事をしなければ…!
何が、俺の味方だ!
これでは、完全にお祖父様の子飼いではないか!
「朔也様…何か、喋って下さいよ…」
ここに来る前…『桐生に何かあったら、2度と口を利かん』と言った。
脚に力が入るようになって、立ち上がりながら桐生の腕を引っ張る。
「どうしたの?……あ、あの…失礼しました」
俯いた俺から何かを感じ取ったのか、今度は桐生が俺の腕を引っ張って歩き出した。
来た道を引き返しているようだが、元いた部屋には高木がいる。
「……戻りたくない。俺の部屋…向こう…」
進行方向から、右に曲がる廊下を指差した。
「一言…言って来なくて、大丈夫?」
「……問題ない。家から出る訳では、ないから…」
本当は、問題がある。
でも…自分の部屋に行くだけで、誰かの許可がいるなんて…
今は、考えたくない。
ーーーーーーー………
「ここが、美空君の部屋なの?」
部屋と言っても、寝るだけの場所だから基本何もない。
「……生活感のない部屋だろう?」
箪笥(タンス)さえないから、自分で着る服を選ぶ事も出来ない。
「う~ん…まるで、旅館の客室だね…何も知らずに連れて来られたら、誰もここが個人の部屋だなんて思わないよ…」
旅館の客室か…
確かに、それに近いかもしれない。
『部屋』と呼びながら、生活感がない理由は…
「……1週間に1回、部屋替えをするんだ。部屋に何もないのは、この身1つで簡単に移動出来るようにする為だ」
「いっ…1週間に1回!?何で、そんな事を!?」
何で…と聞かれても、特別な理由がある訳ではなくて…
強いて、理由を挙げるとしたら…
「……気分転換…?」
「自分の事でしょ?何で、疑問符がつくのさ…」
その自分の事が、よく分からないんだ…
7年半前に起こった事件の後、こういう風にするようにと主治医に言われた。
理由を聞いた俺に、主治医が答えたのが『気分転換』だった。
当時5歳の俺は、何も疑う事なくそれに従った。
そうだ…あの頃は、誰かを疑う事などしなかったのに…
「……そうした方がいいと言われたから、こうするしかなかった…この家では、俺の意見などないに等しいから…」
先程のお祖父様との会話で、桐生も《自由がない》という意味を理解してくれたと思う。
そろそろ、いつもの時間になる。
ーーカチッ……ガララッ…!
中庭に続く窓の鍵を外して、その窓を開けた。
「どうしたの?」
「……いつも、この時間に行く場所があるんだ。夕飯が出来る頃には、高木が呼びに来るから…一緒に、来てくれないか?」
使い古しの履き物で申し訳ないが、突っ掛けだからサイズは大丈夫だろう。
「貸してくれるの?ありがとう」
俺が差し出した突っ掛けに、礼の言葉を言われた。
こういう時は、確か…
「……どう、いたしまして…?」
「うん。最後の疑問符は、ちょっと余計かな…」
成る程…
最後の疑問符は、余計…っと…
「……他には?」
「他にって、何!?メモるような事は、特に言ってないよ!?」
忘れないように、書いておきたいんだ。
ずっと一緒にはいられないから、一緒にいた事を証明する物がほしくて…
「……桐生がこの前やっていたから、真似してみた」
決して、嘘などではない。
実際にそれを見て、思い付いた事だから…