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ーー18時00分・東屋…
辺りが暗くなり、もうじき完全に日が落ちる時刻…
東屋の柱に据え置かれた燭台(しょくだい)に、蝋燭(ろうそく)を立てて火を灯す。
光に照らされて、花壇が映える。
花が見える場所がお気に入りだと、女々しいと笑われるかもしれないが…
「綺麗な所だね。心が、落ち着くよ」
「……ありがとう。ここは、お母様が作ったんだ」
お母様が作った花壇と、この東屋…
それと…
「大切な場所なんだね……あの木が、どうかしたの?」
花壇の奥に植えられている、1本の大きな菩提樹…
「……あれは…この家に嫁いだ時に、生家から持って来たらしい。お母様の産まれた日から、苗を植えて育てたと聞いている……桐生?」
桐生は、菩提樹に向かって手を合わせていた。
何を、しているのだろうか…?
「ん?あぁ、これ?美空君のお母さんに、挨拶してたんだよ」
挨拶…
手を合わせると、挨拶出来るのか?
「……俺も、こうしたら出来るのかな?」
「うん。きっと…美空君の事、見守ってくれてるよ」
だからなのか…
この場所に来ると、どこか心が落ち着くんだ。
もうすぐ、菩提樹の花が咲く時期になる。
「……桐生、花が咲いたら…」
『花が咲いたら』…?
花壇と1本の木しかないこの場所に来ても、桐生は面白くなどないのではないか?
今日だって、誘ったのは俺だ。
桐生の気持ちも考えず、何を言うつもりだ。
「花?花って、あの木の花?」
「……あの木は、菩提樹という名で…6月から7月に、花が咲く」
そもそも、桐生は男だ。
花など見せて、俺はどんな感想を期待している。
自分が好きな場所が、他の者にとっても好きな場所じゃ決してないのに…
「美空君、俺…『花が咲いたら』、見てみたいな。何色の花が、咲くの?」
迷惑じゃないのか…?
いや…俺に気を遣って、聞いてくれているのかもしれない…
社交辞令かも…
「……淡い、黄色の花が咲く。無理強いを、したい訳ではない…興味がなければ、無理をしなくても…俺の事など、気にしなくていいから…」
花が咲いている場所を大切にしている男など、気持ち悪いと思われても仕方がない。
変に気を遣われるより、今の内にはっきりと言ってもらった方がいい。
「また…そうやって、俺の気持ちを勝手に決めるんだね。俺はね、義理やお世辞は言わないよ。素直に、あの木の花が見たいと思ったんだ」
【大和side】
ーー1時間前・茶室…
30分前に桐生様を連れて行ったクリア様が、なぜかお1人で戻って来られた。
理由を問えば、途中でご隠居様に会われたと答えた。
あまりに、タイミングが良過ぎる。
また、何か企んでますね…
「……それで、桐生を置いてきたと…?」
朔也様の怒りがこもった声に、クリア様が狼狽えている。
「人聞き悪いですよ。何も、とって食われる訳じゃあるまいし…」
下手な言い訳は、朔也様の怒りを増長させるだけ…
「……バカ者!お祖父様の性格を分かった上で、そんな事を言っているのか!?桐生に何かあったら、お前とは2度と口利かんからな!」
自業自得だ。
走って行った朔也様の足音が聞こえなくなってから、クリア様の方へ顔を向けた。
「なぜ、このような事を?」
味方だと言ってみたり、このような事をしたり…
あなたは、本当に何がしたいのか…
「なぜって、お前に勝たせる為さ。今のままじゃ、一撃なんて夢のまた夢だからね」
『勝たせる為』…?
桐生様を、私に勝たせる?
確かに、私が彼を鍛える事は難しい。
でも…何を企んでいるか分からないあなたに、桐生様を任せる訳には…
私が考えている間に、クリア様が背を向けて歩き出した。
「クリア様、お待ち下さい。桐生様を、鍛えるおつもりですか?ご隠居様にまで、会わせて…」
「僕は、忙しいの!説教は、また今度ね」
忙しくしたのは、あなたでしょう!
何が、『また今度』だ。
あんな人、朔也様にもっと嫌われたらいい。
使った茶碗を片付けて、台所へ持って行く。
水で軽く汚れを流して洗おうとした時、1つの足音が聞こえてきた。
それから、程なくして…
「あら…大和?おもてなしは、もう終わったの?」
夕飯の支度をする為に台所へ来た楓は、私の手元を覗き込む。
「クリア様のおかげで、終了させられたんだ。あの人はどうして、朔也様の気分を害するような事ばかりするのか…」
全く、理解出来ない。
洗った茶碗を、清潔な布巾で拭いて棚にしまう。
「それが、朔也様の為なのかもしれないわ」
「朔也様の為…?」
茶碗をしまい終わって楓を見ると、食材を切る準備をしていた。
「朔也様は、ご自分のお気持ちを言わないから…人って怒っている時の方が、本心を言う生き物よ。ねぇ…時間あるなら、夕飯作るの手伝って」
……はぁ、仕方ないな。
「朔也様を、お迎えに行くまでだからな」