「はい、これお願いね」
そう言って楓に渡されたのは、野菜が大量に入った籠(かご)だった。
「これ…全部、皮を剥けと…?」
剥くだけで、何分かかるか…
「当たり前でしょ?美味しい肉じゃが作ってあげるから、皮剥き頑張ってよ」
文句を言っても、終わらないな…
諦めて、大量の野菜に手を伸ばす。
後ろの流しから聞こえてくる米を研ぐ音に、負けじと野菜の皮を剥くスピードが上がる。
最初から、勝負などしてないのに…
ーー15分後…
「終わった…」
何とか皮を剥き終わって、それを楓に渡す。
「ありがと。次は、これね」
大量の野菜の代わりに渡されたのは、数十枚の何かの葉…
料理に関係があるようには、どうしても思えない。
「この葉で、何を作るんだ?」
「え…?大和、食べた事なかったっけ?これ、柏(かしわ)の葉よ」
柏(かしわ)…?
そういえば…小さい頃、母上が作ってくれた。
何かの、意味が込められていたはず…
『大和、柏というのはね…新しい葉が枝に生えるまで、古い葉が落ちないのよ。だから…子孫繁栄を願って、こどもの日に柏餅を食べるの』
「……………」
「……どうしたの?」
無言になった私を不思議に思ったのか、楓が近付いてくる。
……と、言うより…
「近付き過ぎだ!」
楓の額を押して、顔を遠ざける。
「ちょっ…!ちょっと!あなたが、ボー…としてたからでしょ!?何を、考えていたのよ」
何をって…それは…
やましい事など考えてないのに、この疑いの目は何だ…?
「母上の言葉を、思い出していただけだ!そしたら、お前が近付いてくるから…」
変な事考えてなくても、誰だって…
「……ッ…!バ、バカ!変に、意識しないでよね!」
意識した訳では……
「………………」
「……?大和?」
私が額に触れた事で、乱れた楓の前髪を整える。
特に変な事を考えていた訳ではないが、周囲から楓だけに意識があ集中していたのは事実…
だから、私達は気付かなかった。
あの悪魔が、台所へ入って来た事に…
「こんなムードの欠片もない場所で、いい雰囲気にならないでくれる?」
「……なッ…!クリア様!?私達は、別に…その…」
言葉に詰まる楓をなだめ、料理を再開させる。
どうして、この人が台所へ?
「何しに、来たんです!からかいに来たのなら、出て行ってもらえますか?」
「そんな冷たい事、言うなよ~…大和、お前に頼みがあるんだ。駄目?」
駄目かどうかより、嫌な予感しかしない…
「なぜ、ここにいるんです?ご隠居様のお話は、終わったのですか?」
ご隠居様の名を出した時、クリア様が気まずそうに目を逸らした。
今度は、何をやらかしたんだ…この人は…
「話は、終わったんだけど…えっとね…朔也様から、桐生君を引き離してほしいんだ…」
………呆れて、言葉もない。
そういう事を、なぜ私がしなければいけないのか…
「ご自分で、勝手にどうぞ」
桐生様を、私に勝たせると言ったかと思えば…今度は、朔也様から引き離せ?
この人に振り回されるのは、もう沢山だ。
「そんな事言うなよ~…」
「腕を、掴まないで下さい!」
触れられた右腕を動かして、クリア様の手を振り払う。
冗談じゃない!
桐生様に勝負を仕掛けたのは、私なりに考えての事だ。
こんないい加減な人に、無駄にされたくはない。
その様子をずっと見ていた楓が、落ち込むクリア様に椅子に座るように促す。
「クリア様…そのような事を突然言われても、大和は納得しません。理由を、教えて下さい。大和も、座って」
正直…怒りに任せて出て行きたかったが、楓にそう言われては仕方がない。
対面に座って、とりあえず様子を見る。
「そうだね…僕、ちょっと焦ってた。ごめん…」
謝ってほしい訳ではない。
「引き離せとは、どういう事です?」
気まずそうに目を伏せたクリア様に、怒りが込み上げる。
この期に及んで、なぜ理由を言い渋るのか…
「に、睨まないでよ…ちゃんと、言うから!僕が、桐生君を鍛えようとしてるのは言ったよね?でも…今のままじゃ、朔也様がそれを許さない。だから…」
許さない理由など、明白だ。
「信用を失うような事をしたのは、あなた自身ではありませんか…内緒で、ご隠居様に引き合わせるなど…」
クリア様は、私達みたいな従者ではない。
報告の義務がないとはいえ、あまりに勝手な行動だ。
嫌われたいのか…?
「それは…ご隠居様に、桐生君を試したいと言われて…お前達でも、断れないだろ!?結果的に、許可を貰ったし…」
許可を…?
それで、終わるとは思えない。
クリア様も、分かっているはず…
「第3段階まであるのを、あなたはお忘れですか!?」
「忘れてない!忘れてないよ!だから、第2段階までに桐生君を!」
ご隠居様は、もう第2段階まで…?
思わず、クリア様の胸ぐらを掴んでいた。
「第2段階の内容とは!?」