この人は、どうして勿体振った事しか出来ないんだ。
クリア様の胸ぐらを掴んだまま、手の力を更に込める。
「首が、絞まってるわ!離してあげなきゃ、死んじゃう!」
楓にそう言われて、ようやくクリア様が喋らない理由に思い至る。
「……ゲホッ…!ゴホッ!僕を、殺す気か!」
手を離した途端、咳き込んで文句を言われた。
心外だ…
殺すつもりなら、両手で掴んでいる。
「そんな事は、どうでもいいです。第2段階とは?」
「どうでも良くないよ!?僕、まだ死にたくない!」
もっと、どうでもいい。
いつまで、勿体振るつもりだ。
「言う気がないなら、あなたの頼みも聞きたくありません。さっさと、ここから出て行って下さい!」
思い切り睨み付けると、クリア様は慌てて居住まいを正した。
「言うよ!ちゃんと、言うから!第2段階は、桐生君がこの家に泊まる事だよ」
『この家に泊まる事』…?
肝心の情報が、あまりにも少な過ぎる。
「他にも、知っている事があるはずです。ご隠居様のお言葉に、攻略のヒントが…あなたが、それを聞いていない訳がない!」
過ぎた事は、この際仕方がない。
問題が起きたのなら、何としても攻略するまでだ。
「な、なんで…お前が、そんな必死になるんだよ!?桐生君に、勝負を挑んでるんだろ?やってる事、変わんないじゃないか…」
私とご隠居様では、根本的な理由が違う…
ご隠居様は、追い出す為のこじつけを探している。
「私は…追い出す為に、勝負を持ちかけた訳ではありません。桐生様ならば、出来ると思うからで…」
「それは、今の気持ちでしょ?」
今の…?
何を言っているんだ、この人は…
「1週間足らずで、私の気持ちが変わったとでも…?」
まただ…
人の心を見透かす、クリア様の目…
その目で見られると、私は目を合わせる事が出来なくなる。
「思い出してみなよ。お前が桐生君に、勝負を持ちかけた理由を…そうすれば、分かるよ」
あの時の私は、突然現れた桐生様に…
何も知らない桐生様に、大切な朔也様をとられたくなく…て……
「……ッ…!!まさか…ご隠居様が、そんな理由で…」
「その、まさかだよ。大切な孫を、とられたくないのさ」
理由が分かってしまえば、何の事はない。
「攻略の為ならば、あなたの頼みを引き受けます。ヒントは、何ですか?」
クリア様が、私の手を握る。
「ありがと!ヒントはね…《母屋に行かない事》だ」
【クリアside】
コイツ…さっきから、攻略攻略って言ってるけど…
ゲームじゃ、ないんだから…
「まだ、分からないのですが…その事と引き離す事は、どういう繋がりがあるのでしょうか?」
『引き離す事』と、ご隠居様の件は関係なんてない。
「いやいや…引き離してって言ったのは、桐生君がお前に一撃を入れる為に鍛えなきゃって…」
「医大生とは、相当暇なんですね…」
何日か前に、聞いたぞ…同じ言葉…
医大は、6年制だ。
まだ4年になったばかりの僕は、今の時期やる事がない。
覚える事は沢山あるけど、勉強ばっかりしてても体が鈍ってしまう。
「頭を使う為にも、適度に体動かした方がいいんだよ。だから、ね?協力してよ」
考え込む大和の代わりに、料理を再開してた楓ちゃんが反論する。
「でも…勝負の事で、大和は朔也様に警戒されてます。引き離すのは、至難の技では?」
僕も大和も、朔也様の信用を失っているのか…
朔也様の為にやった事が、こうも悉(ことごと)く裏目に出るなんてな…
これも、日頃の行いってヤツかな…
「警戒…ねぇ…お前も、とことん不器用な奴だな…」
「あなたに、言われる筋合いはありませんよ!」
ーーガタンッ…!!
大きな音をさせて椅子から立ち上がった大和は、そのまま台所から出て行こうとした。
「ま、待って!話は、まだ…」
「聞きたくありません。私は、私なりの方法で…朔也様の信用を、取り戻してみせます。頼み事は、楓にして下さい」
駄目だったか…
まぁ、どうせ駄目元だったし…予想通りかな…
「楓ちゃん、僕の頼み事…聞いてくれる?」
料理の手を止めた楓ちゃんは、ゆっくりと後ろを振り返った。
表情は笑っているから、了承してくれると思ったのに…
「嫌です。私まで、朔也様に嫌われたくないので…」
「ん…?警戒されてるだけで、嫌われては…いな…い…よ?」
喋ってる間に、僕の左頬には包丁が突き付けられた。
怖ッ…楓ちゃん、これ怖いよ!?
「口を利いてもらえなくて、嫌われてはいないと?『朔也様から離れろ』と言ったかと思えば、今度は『桐生様を引き離せ』?どうしたら、そういう考えになるのです!私が納得出来るように、1から全て話しなさい!」
大和…この子と結婚したら、確実に尻に敷かれるぞ…
既に、敷かれてるかもしれないけど…
なんて、現実逃避してる場合じゃなかった。
どうやって、説得するかな…