~絆~大切なモノ   作:高部裕加

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《中学1年生編》

どうすれば、誰も失わずに済む…?

俺に関わる事で誰かが不幸になるのなら、桐生と親しくなってはいけなかったんだ。

俺が1人でいれば、誰も傷付かないのに…

「朔也様、お悩み事ですか?」

かけられた声に振り返ると、水無月が一礼をして近付いて来た。

「……クリアに、聞いたのだろう?今は、1人にしておいてほしい」

償いたいと思っていても、その方法が分からない。

笑顔を向けられる度に、苦しくて泣きたくなる。

 

何かを決める事さえ許されない俺に、何が出来る?

「私では、お役に立てませんか?」

「……なぜ、そう思う。俺は…役に立つかそうでないかで、誰かを評価した事はない」

今にも泣き出しそうな水無月の表情に、内心焦っていた。

こんな表情をさせてしまったのは、俺なのだろうか…

「申し訳、ございません…どうか、お忘れ下さいませ。失礼致しました…」

再び一礼をして、東屋から去ろうとする。

「……それは、無理だ」

 

あの表情を見た以上、簡単に忘れられたら苦労はしない。

こちらを向いた水無月は、完全に泣き出していた。

「困らせないで、下さい…朔也様が…『1人にしておいてほしい』と、仰られたから…わ、私は…」

女性を泣かせて、困らせて…俺は、何がしたいんだ。

「……すまない。勝手な事を、言っているのは分かっている。だが…どうしても、聞きたいんだ。従者としてではない、お前自身の言葉が聞きたい。俺が、憎いか?」

 

当時7歳だった水無月の目の前で、家令を務めていた父親が殺された。

その瞬間の絶望は、計り知れない…

俺が、いなければ…守ろうとしなければ、父親が死なずに済んだかもしれない…

憎まれても恨まれてもおかしくないのに、そんな様子の欠片も見せずに俺の従者を続けている。

「そのような事、絶対にありえません!なぜ私が、朔也様を憎むと思われたのですか!?」

「……俺が、いなければッ!お前の父親は、助かったかもしれない!!」

 

大きな声で言い合ったせいで、体温が上がり汗がこめかみを伝う。

「……ッ………う…ぅ……」

水無月は、泣き出して膝から崩れ落ちた。

感情的になって、言わなくていい事を言った。

辛い記憶を、思い出させた。

それでもまだ、俺は言葉を続けた。

頭の中で止めろと警鐘が鳴るのに、口が勝手に動く。

「……憎めばいいッ!恨めばいいッ!なじって罵って、いっその事…!」

この命で、償わせてくれたら…

 

この勝手に動く口を、誰か止めてほしい。

泣かせたい訳じゃない。

悲しませたい訳じゃない。

でも、今…自分の目の前で、自分の言葉が原因で…大切な人が、泣いている。

「……ッ…申し訳、ございません…」

違う…

謝らなければいけないのは、俺の方なのに…

「……もう、行ってくれ…これ以上いたら、何を言い出すか分からない」

こんな事しか言えない自分が、どうしようもなく嫌いになるんだ…

「かしこまりました…」

 

遠くなる足音を聞きながら、謝罪の言葉を頭の中で繰り返す。

いくら感情を隠す事が上手くなっても、どんなに努力しても心までは鍛えられない。

偉そうな態度に、年不相応な話し方…

命令ばかりしているくせに、自分では何も出来ない。

いつまでも過去の悪夢に怯えて、素直に人と関われない。

苦しい…助けて…

誰か…

目頭が熱くなって、頬を涙が流れていく。

自分を、変えたい…

今の自分は、本当の自分なんかじゃない。

 

ーー19時00分・朔也の部屋…

 

泣き疲れて眠っていたせいで、腫れぼったくて重い目蓋を開ける。

時計を見て、それ程時間が経っていない事に安堵した。

とりあえず、顔を洗って来なければ…

それから、泣かせてしまった水無月に謝って…

……高木が知れば、怒るだろうか?

一時の感情に任せて、人を傷付けた。

それとも…それすら、なかった事にされる?

「朔也様、こちらにおられますか?」

……ッ…!!

 

襖の向こうからかけられた声に、驚いてしまった。

その声は、紛れもなく高木の声だったから…

「……何の用だ?」

「楓の事で、少々お話を伺いたい事が…」

既に聞いているなら、話は早い。

怒られるにしても、言いたい事は伝えた方がいい。

「……入れ」

「失礼致します」

ゆっくりと襖が開き、高木が一礼をして部屋に入ってくる。

1歩部屋に入った所に正座をして、開けた襖を閉めていく。

ほんの数秒の動作…

 

いつもなら対して気にならない一連の動作が、今はとても長く感じられる。

「……高木、お前は…俺を、恨んでいるか?」

水無月同様、高木の父親も俺を守らなければ死なずに済んだ…

自分達だけなら、逃げれたはずだ。

「私も楓も、朔也様に対して恨む事などありえません。父上は、職務を全うされました。今の私にあるのは、その誇りと…そんな父上のようになりたいという、憧れの感情だけです」

誇りと、憧れ…

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