~絆~大切なモノ   作:高部裕加

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《中学1年生編》

「はい、そういう事です。制約のないクリア様を、思い通りに動かす為に…『ここまで強くさせたのは、私達の手柄だ』と主張し、自分達の味方になる事を強要したのです」

当時まだ中学生だった少年が、道場に通う事に苦痛を感じるようになるまで…時間は、そうかからなかった。

好きで始めた空手なのに、いつの間にか闘う為の戦力として期待されていた。

己の意思など、関係のないところで…

「その後は、どうなったんですか?」

 

桐生様からの質問に答えようと、口を開きかけた時…

「ぶちギレて、不良になったんだよ」

母屋の方から歩いてきたクリア様が、軽い口調で何でもないように答えた。

足音もなく歩いている為に、近くに来るまで気付かなかった。

ものの数秒で、部屋の中にいる朔也様からも見える場所に来る。

「あなたは…どこから、聞いていたのですか?」

桐生様の質問に答えたという事は、今までの話の内容を知っているという事になる。

 

「どこから、ねぇ…僕が才能を開花させて、頭角を現したって辺りかな…?」

もっと早くから、声をかけてくれたらいいのに…

「……話の腰を折ってすまないが、お祖父様と話は出来るのか?」

朔也様に問われて、クリア様は廊下に正座し頭を下げた。

「本日は、お時間が取れないそうで…ご隠居様からの言伝てを、お預かりして参りました」

言伝て…今回の事を、会わずに済ませるつもりなのか?

「……聞かせてくれ」

 

「かしこまりました。ご隠居様の言伝ては…『明日の朝食時に、話をしよう』との事です」

これだけの騒ぎを引き起こしておいて、言伝てがたったの一言とは…

それも、明日まで引き延ばしただけ…

「……分かった。桐生、話を中断させてすまなかった」

「あ、ううん!俺に、謝らなくていいよ」

お2人のやり取りを聞きながら、ふと…隣に視線を移せば、いつになく真剣な表情をしているクリア様がいた。

 

相変わらずこの人だけは、何を考えているのか分からない。

「桐生君、他に聞きたい事はないのかい?何でも、答えるよ」

話しかけられた桐生様は、振り返ってクリア様を見る。

「あ、ありがとうございます。えっと…『不良になった』って言ってましたけど、今の姿からは想像出来なくて…その…」

おそらく、クリア様を傷付けないように、言葉を選んでいるのだろう…

「クスッ…見た目とかを、変えたりはしなかったよ。家出や無断外泊を、ちょっとね」

 

【クリアside】

 

ご隠居様からの言伝てを預かって、朔也様へ報告する為に離れの廊下を足早に歩いていた。

…………ん?どうして、楓ちゃんは障子の影にいるんだろ…?

大和は…話を、してるのか。

ちょっとした悪戯心で……いや、話の邪魔をしないように気配を消して近付いた。

何、これ…え?僕の話!?

なんか、恥ずかしいな…

昔の自分の事が、大和の口から語られていく。

ただ…何でそんな、難しく言うのさ…

 

そして、無駄に長いよ…

はぁ…いつまでも、隠れていても仕方ない。

そろそろ、いいかな?

タイミングよく、大和の説明が途切れた。

「その後は、どうなったんですか?」

う~ん…道場に行かなくなって、それから…

「ぶちギレて、不良になったんだよ」

あ、驚いてる。

ちょっと、気分いいな。

「あなたは…どこから、聞いていたのですか?」

聞いてた事は、バレてる訳ね…

睨んでくる大和に苦笑を返して、頭をかいた。

 

「どこから、ねぇ…僕が才能を開花させて、頭角を現したって辺りかな…?」

拗ねてる大和の頭を軽く撫でると、また睨まれちゃった。

「……話の腰を折ってすまないが、お祖父様と話は出来るのか?」

あ、そうだった…ちゃんと、報告しなきゃ…

大和より少し前の位置に、正座して一礼をする。

「本日は、お時間が取れないそうで…ご隠居様からの言伝てを、お預かりして参りました」

朔也様の眉間のシワが、深くなったような…

 

「……聞かせてくれ」

心なしか、声も若干…低く聞こえる。

「かしこまりました。ご隠居様の言伝ては…『明日の朝食時に、話をしよう』との事です」

言伝てを言い終えると、後ろにいる大和からの視線が背中に突き刺さるのを感じた。

今回のいざこざで、腕に擦過傷までこさえたんだから…お前が、言いたい事は分かる。

分かるけど…その怒りは、持ち前の理性でなんとか抑えてよ…

「……分かった。桐生、話を中断させてすまなかった」

 

「あ、ううん!俺に、謝らなくていいよ」

そういえば、僕が壊れていったのって…今のこの2人と、同じくらいの時だったなぁ…

期待される事が苦痛になって、誰にも相談なんか出来なくて…

何もかもが信じられなくなった時、僕は今までの自分を捨てた。

大人達に言わせれば、単なる《反抗期》で片付けられそうだけどさ…

あの頃の僕にとっては、人生最大の試練だったんだよ…

下手な、意思表示だったな…

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