~絆~大切なモノ   作:高部裕加

59 / 72
《中学1年生編》

【朔也side】

 

「……『頼み事』?」

俺を見詰めるクリアの瞳が、30分前とは違う色をしているように見えた。

この短い間に、一体何があった…?

「はい。僕は今から、ご隠居様に喧嘩を吹っ掛けます。あなたを、守る為に…そして、僕自身の《矜持※》の為に…」

【※《矜持(きょうじ)》:自分の能力を、優れたものとして誇る気持ち】

お祖父様に…喧嘩を…?

俺を、守る為に…?

どうして、俺なんかを守るんだ…

 

何をするつもりか分からないが、そんな事をして無事で済む訳が…

「……やめろ…俺なんかの為に、お前が危ない橋を渡る必要などない。俺は、もう…誰かを犠牲にして、自分だけが生きていくなんてしたくはないんだ…」

それでなくとも、俺の従者でもないクリアが俺を守る必要はない。

「クリア様!あなたは、まだそのような事を……ッ!?」

抗議の声を上げた高木が、言葉を詰まらせた。

言葉の途中で、クリアが振り返ったから…

 

自然と俺に背を向ける形となった為に、俺からクリアの表情は見えなくなる。

「この計画を僕1人で実行したら、間違いなく社会的地位を剥奪されるだろうね。父さんへの言い訳とか、色々考えてたのに…決心、揺らいじゃったよ…お前達のおかげでね…」

決心が揺らいだ、という事は…

今は、『犠牲』になるつもりではない…?

与えられる情報が断片的過ぎて、頭が混乱している。

「高木先輩、説得に成功したんですね」

 

後ろの方から桐生の声がして振り向くと、安堵した表情で高木を見ていた。

言葉を聞く限り、何も知らなかったのは俺だけ…

いつも、俺だけ蚊帳の外…

「……『説得』とは、どういう意味だ?」

自分でも、驚く程の低い声が出た。

悲しみより、怒りの感情が心を支配していく。

俺の問いかけに、言葉を返したのは水無月だった。

「さ、朔也様…全てが終わり次第、ご報告しようと…」

終わった後の報告など、いらない!

 

「……ふざけるなッ!いつも…いつも事後報告で聞かされて、俺だけが何も知らない!お前達は、俺を何だと思っているんだッ!」

これでは、完全な八つ当たりとしか言えないな…

《問題が発生すれば使用人が解決に尽力した上で、それぞれの主(あるじ)へ報告》

このような取り決めを、忠実に守る使用人に八つ当たりしている。

「あなた様は、私共の大切な御主人様でございます」

決まり文句ばかり並べる水無月を、睨み付けた。

 

そのような言葉が、聞きたい訳じゃない。

俺は、何をやっているのか…

我が儘を言って、使用人を困らせて…

これでは、嫌っている父親と同じではないか…

「美空君…戻って来ないから、心配したよ。何か、あった?」

声が聞こえてきた方へ振り返ると、桐生がこちらへ近付いて来ていた。

俺の中にあるこんな醜い感情を、桐生にだけは知られたくない。

何かを言わなければ、不審に思われてしまう。

どうすれば、誤魔化せる?

 

「……あ…えっと、クリアが『喧嘩を売る』らしい…」

「朔也様…もう少し、言葉を付け足して下さいよ…たったそれだけじゃ、意味が分かりませんって…」

俺の言った事に、当事者であるクリア本人から抗議された。

咄嗟(とっさ)に思い付いた言い訳に、そんな高度な技術を求められても困る。

「『喧嘩』って、どういう事ですか?もしかして、それで悩んでたとかですか?」

ここにいる4人の視線が、クリアに集中する。

 

クリアの迷いのないグレーの瞳は、真っ直ぐに俺を見詰めている。

「さっきまではね…『悩んでた』よ。でも、僕はもう決めた。ご隠居様が力付くで来るなら、それ以上の力で叩き伏せればいい。なまじ権力があるせいで、何をやっても許されると思ってる。ああいうタイプは、自分の手駒が無くならないと愚かさに気付かないんだよ。久々に、暴れまくってやる」

『喧嘩を売る』=お祖父様の『手駒』を、1人残らず潰すという事か…

 

しかし…クリアがどれ程強くても、向こうの人数も分からないのに無謀すぎる。

「クリア様、お待ち下さい。そのような事、私は承服致しかねます」

高木の申し立てに、水無月も同意する。

「私も、承服出来ません。ご隠居様の護衛は、この屋敷1番の手練れ…あなた様お1人では、闘う前から結果が見えております」

……何も、そこまで言わなくても…だが、《当を得た※》意見だとは思う。

【※当を得た:道理にかなっている】

 

俺から視線を外したクリアは、異議を唱えた2人にその視線を向けた。

「随分、はっきり言うね。でもさ…『1人』で闘うつもりは、もうないよ。お前達が、僕に力を貸してくれるんでしょ?……って、何でそこで固まるの!?その為に、あんな説得したんじゃないの!?」

動きを止めた高木と水無月の顔の前で手をひらつかせながら、焦りを含んだ声を出している。

「……ッ…!申し訳、ございません…正直、これ程上手くいくとは…」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。