ポケットモンスター 食   作:めかぶ人間

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第2話 ディッシュ学園

 

「ここがディッシュ学園……!」

 

 電車を乗り継いで約2時間。

 学園と呼んでいいのか躊躇うほど巨大な建物を前に、ジキは生唾を飲み込んだ。

 

 ディッシュ学園。

 それは広大なトーヨケ地方の中央に位置する巨大都市『ホワイトシティ』のど真ん中に(そび)え立つ巨大な料理学校。その敷地面積は、約100km²にさえ及ぶ。

 もはや、この学園だけで1つの都市のようなものだ。

 料理人を目指す者で知らない者はおらず、料理界の発展のために万人の料理人見習い……なんならプロでさえ入学を受け入れるマンモス校である。

 

「しかし、何度見てもこの街はすげぇな」

 

 ディッシュ学園の存在が目立つホワイトシティもただの街ではない。

 現時刻、朝7時にもかかわらず、食品関連を扱う多くの店が開店しているのだ。個人店、専門店…食材にまつわるあらゆる店舗がホワイトシティに集約され、その数なんと1000を優に超える。

 この街は、料理の根本が詰まった街なのだ。

 さすが、ディッシュ学園を構えるだけの都市だろう。

 

 そう、この街──ホワイトシティは、料理への探求が詰め込まれた街。料理人による、料理人のための街なのだ。

 憧れの学園への胸の高鳴りを抑えつつ、ジキが校門をくぐる────と。

 

「お前が作ったもんなんて、料理なんて言わねー! さっさとディッシュ学園から出ていくんだな!」

「そ、そんな……っ!」

 

 そこに映る光景は、この学園の生徒と思しき制服の少女が、黒いコック姿の男に負かされた姿だった。地面に料理が散らばり、女生徒は涙を流している。

 周囲は「こんな朝から何の騒ぎだ」と言いたげに野次馬を成すが、誰一人として少女へ手を差し伸べない。むしろ、スマホで写真を撮り、SNSに投稿しているではないか。

 

「ちょっといいか、何が起きてるんだ?」

 

 気になったジキは、野次馬の一人を捕まえる。

 

「知らないのかい? この学園の生徒、この街に住む人なら誰でも知ってるよ。“ポケモン料理バトル”さ」

「俺、今日から入学する転校生でさ、その“ポケモン料理バトル”…?ての知らないんだわ。教えてくれよ」

「し、知らないのかい!?!?」

 

 すると、野次馬の男は驚いた様子。

 その表情は“ポケモン料理バトル”を知らないジキを馬鹿にしてるようにも感じられる。

 

「他の地方ではポケモン同士を戦わせる“ポケモンバトル”が主流みたいだけど、トーヨケ地方ではポケモンに料理を『手伝ってもらって』料理バトルをするんだよ」

「ほーん、勝ったら何か貰えるのか?」

「賞金や物……勝者は敗者から何かしらを奪うことができるんだ。一番の目的は『敗者より“上”っていう料理人としての地位』だろうね。まあ、ガストロ団みたいに『敗者の退学要請』は流石にやりすぎだと思うけど」

 

 ガストロ団……とは、少女を打ち負かした黒いコックのことだろうか。

 ジキは考えながら黒いコックへ視線を送った。

 

「もしかして、ガストロ団まで知らない感じ?」

「おう! そいつも教えてくれると助かる」

「自信満々に言われても困るよ……まあいいさ、教えてやる」

 

 男はそう言うと、周りに聞こえないよう声を潜めながら、黒いコックを指差した。

 

「ガストロ団ってのは、『この世の料理は全て品格を持つべき』って思想を掲げて、B級グルメとか型にハマらない料理を消し去ろうとする連中だ」

「めちゃくちゃ悪いやつらじゃねぇか」

「ああ、だから好んで関わっていい連中じゃねぇんだ。お前もディッシュ学園で過ごすなら、これだけは覚えておけよ? じゃないと、あの子みたいに大衆の前で下っ端に負けて、料理人って地位を奪われちまう」

「ちょい待ち、なんであいつが下っ端ってわかるんだ?」

 

 すると、男は黒いコック…下っ端の胸元を指差した。

 

「あいつは『星なし』……つまり下っ端って証拠だ。ガストロ団は階級が上がるほど、胸に星が増える。ボスは三つ星なんて言われてるが、実際に見たことある奴はいねぇ。まだ見る連中は二つ星だが、絶対に関わっちゃいけないからな!」

「情報提供あんがとな〜」

 

 そして、ジキは礼を述べながら野次馬たちを掻き分け、少女とガストロ団の下っ端の前へ身を乗り出した。

 つい先程まで話してた男は驚いて、口をあんぐりと開く。

 

「なんだテメェ、俺が誰かわかってんのかぁ!?」

「さっきガストロ団って教えてもらったぜ。お前ら、優れた料理以外を消したいんだって?」

「当たり前だろ。この世には素晴らしく完璧な料理こそ残るべきだ。この女の料理はディッシュ学園の恥だ! この学園の格を下げる! 直ちに退学すべきだと思うだろう?」

 

 下っ端は凄まじい険悪で睨みつけるが、ジキはヘラヘラと笑っていた。

 だが、地面に落ちたステーキが映るジキの瞳は、奥底でドス黒い怒りに燃えているような気がした。

 

「お前も料理人としての品位を失いたくなかったら、美食こそ信仰するんだな、ガハハッ」

「あ、そういえば聞きたいことがあったんだ」

「お? もしや美食の素晴らしさに気付いたか。先輩としてガストロ団のことならなんでも教えてやるぞ」

 

 

 

「えーっと、

 

 どうやったらアンタと料理バトルできる?」

 

 

 直後、空気が凍る。

 誰かのポケモンが絶対零度でも撃ったのかと思うほどに。

 

「お前……今なんて言った?」

「あれ、聞こえなかったか? ガストロ団の“くだらねぇ”思想が気に食わないから、アンタを倒して料理人の地位を落としてやるって言ったんだよ」

「テ、テメェ……!」

 

 ディッシュ学園に大きな風が吹き込んだ。

 

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