黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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説明

(どうしよう…)

牢獄で、私は考えあぐねていた。

他の水兵と話をつけなくてはならないのに動けない。

何より私は脱走者だ。何も言われなかったにしても、投獄されたという事は、いずれ処罰されるのだろう。

(処罰か…)

これまでに何人か、仲間の水兵が処罰されるのを見てきた。

けれどこの城の処罰というのは、殆ど拷問に近いようなものだ。

無数の刺が生えた椅子に座らされたり、手を万力みたいな機械で潰されたり…

思い出しただけでゾッとする。

特に脱走は重罪だ。私は殺されるかもしれない。

(死なないためにも、何とかしてここを出ないと!)

けれど、どうすれば?

檻は鉄で出来ているし、扉には鍵がかかっている。

扉以外に出られる所はない。

今の私には弓矢があるけど、ここでは役立ちそうにない。

(どうすればいいの…?

こんな時、何か役立つ能力でもあればよかったのに…)

と、ここで思い付いた。

(能力?そうだ!)

私の能力はここでは何の役にも立たない。けれど、術は?術ならなんとかできるかも知れない。

(よし…)

檻から少し離れ、

「氷法 [冷(れい)棘(そう)の獄]」

頭に浮かんでくるままに言葉を唱えた。

壁から細長く鋭い氷がとびだし、檻を切断した。

 

「やった…!」

足元に少し残った檻をまたいで、階段を登る。先のドアに鍵はかかっていなかった。

ドアに手をかけたその時、少し思いとどまった。

(ちょっと待って…

今出たら、見つかるんじゃ…?)

ドアの向こうのホールからは誰かがいる気配はしてこないけど、本当に誰もいないかはわからない。

もし今ここを開けて見つかったら…

(いや、でも…!)

ここから動かなければプランは成功しない。誰も助けられない。

それに、今の私は丸腰じゃない。

やりたくはないけど、最悪追手に術を使うことも出来る。

何より、ここで動かなければ龍神さんと朔矢さんにも申し訳ない。

「よし…!」

覚悟を決め、ドアを開いた。

 

 

ホールには誰もいなかった。

でも、いつ人が通るかはわからない…

(どこに行こう?)

少し考えた末、3階の兵士居住区に向かう事にした。

 

 

 

3階へ続く階段は、ここから見て右の通路の先にある。なるべく足音を立てないように、しかし急いで向かう。

階段はどうしても足音が立ってしまうので、誰かが通らない事を祈りながら登った。

そして3階。

登ってすぐ左の扉を開いた。

 

「…みんな!」

入ってすぐに声をあげた。

ここが、以前私が所属していた三人グループの部屋だ。

相変わらず、噎せ返りそうなほど埃や汚れがたまった、不衛生な場所だ。

「…アレイ?」

そう言ってきたのはシャレオさん。

私よりずっと上の階級の人で、私の顔よりも大きいハンマーを扱う人だ。

「シャレオさん!」

 

「どうして戻ってきたの?もしかして捕まって…?」

 

「違います。みんなを助けるために戻ってきたんです!」

 

「え…!?」

 

「私たちを、助けるって…?」

私の言葉に、ユキさんも反応した。

ユキさんは28歳、現役の水兵の中で最高齢の人で、レークの全ての水兵を総括する「長」だ。

私たちが徴兵されそうになった時真っ先に兵士に挑んだけど、槍で滅多刺しにされて捕まった。

辛うじて生きていたけど瀕死の重症で、しかも能力も封印されたせいで、以前は立って歩く事すらまともに出来なかった。

「ユキさん…!動ける?」

 

「何とかね…それで、私たちを助けるために戻ってきたって、どういう事?」

 

「詳しく話すと長くなるけど、外から協力者を連れてきたの!みんなを助けるために!」

 

「その協力者って、何者なの?

城のスパイの可能性もあるけど…」

 

「彼は…殺人鬼。

でも、本気で私たちを助けようとしてくれてる。

だから…」

 

「あなた、殺人鬼を連れてきたの…?」

 

「…勘違いしないで!

彼は私を助けてくれたし、ここの現状を話したら、すぐに助けに行こうって言ってくれたの!

彼は、絶対にいい人よ!」

 

「でも、殺人鬼が私たちを助けようとするなんて…。

何か裏があるんじゃないの?」

 

「あの人に限って、それはないと思う」

 

「あなたは、なんでその人を信用しきってるの?

仮に本当に助けてくれたとしても、助けられた後で私たちみんな殺されるかもよ?」

シャレオさんは、なかなか信じてくれない。

「…とにかく!ここから出たいなら私を信じて!

今から私の言う通りにして…」

そして私は話した。

「何か、自衛できる武器を見つけておいて。

そして明日の朝、脱走者を知らせる鐘が鳴ったら、武器を抜いて。

あとは、彼と私に従ってもらえればいい」

 

「何それ?それで脱出できるの?」

 

「きっと。

それに、他に頼るものもないでしょう?」

 

「…そうね。どうせこのままじゃ私も長くない。

ダメ元でやってみましょう」

 

「ユキさんがそう言うなら…

あなたとあなたのお仲間さんを信じるわ」

 

「…!ありがとう!」

 

 

 

そして私たちは3階の武器庫へ向かった。

私は弓矢を隠し持っていたけど、ユキさん達は丸腰だからだ。

幸い武器庫には斧やメイス、鉤爪があった。

ユキさんはメイスを、シャレオさんは斧を、それぞれ手にとっていた。

「それ、使える?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

「じゃあ、部屋に戻ってゆっくり寝ましょう。

今日は舞踏会があって、貴族たちは早く寝るみたいだし。

明日のために、少しでも体力を回復させておかなきゃ」

 

「そうね…」

食事の代わりに、龍神さんから貰っていた栄養剤を寝る前に二人に飲ませた。

 

 

 

     

       ◆

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