黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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悲しい戦い

今回は俺が先陣を切らせてもらう。

躱されるのを承知で斬りかかり、躱された直後に技を放って追撃する。

「[モータルヴォイド]」

 

だが、これも躱された。

迅速な2連撃を避けるのは、ある程度訓練された奴でないと出来ない。

やはり、それなりに技量と経験はお有りのようだ。

 

「刀の使い手なんて、えらく久しぶりに見たわ…」

奴はそう言いながら反撃してきた。

 

「[スパイルポール]!」

槍をねじこむように突き出す技。

回避したが、威力はなかなかのものだろう。

と、そこにラニイの技が飛んできた。

「[ベフライアンスレイブ]!」

 

「っ!」

奴の背中を掠ったが、傷は瞬時に癒えた。

 

「相変わらず再生力だけはすごいわね…!」

 

「だけ、なんて失礼ね。この体は…力もすごいのよ!」

ラニイに飛びかかり、槍を突き立てようとした。

…ように見せかけて、懐に飛び込んでラニイを押し倒し、噛みつこうとした。

 

「危ねえ!」

斬撃をぶちこんで阻止した。

すると、奴は俺に槍を投げつつラニイを蹴り飛ばし、アレイに飛びかかった。

 

「[針氷樹林]!」

アレイは咄嗟に無数の鋭利な氷を生成して攻撃を防いだ。

奴は若干怯んだが、すぐに舞い上がって上からアレイに襲いかかった。

 

「[ハイスナイパー]!」

上に矢を放つ技を放って迎撃したがそれでも向かってきたので、今度は氷の魔弾と矢を撃って撃退した。

 

もちろん、俺達とて突っ立っていたわけではない。

あくまでも身構えたまま、反撃の構えを取ったり、隙を伺ったりしている。

そして、奴に隙が見えた時に攻めるのだ。

 

「…あら、失礼。あんたにも構ってあげないとね!」

俺の方にも攻撃してきたので応戦する。

「奥義 [ヤミノタマシイ]!」

いかにも闇属性らしい複数の黒い魔弾を槍から打ち出してきた。

「奥義 [雷鳥返し]!」

電光斬りという技から派生させた奥義。

こいつで魔弾を打ち消しつつ攻撃を受け止める。

 

奴はガンガン仕掛けてくる。

「闇法 [シャドーロール]!」

 

「雷法 [エレクトバック]!」

先ほどよりも大きく早い魔弾を飛ばしてきたので、電気の壁を張って防ぐ。

その上で、電磁嵐を呼び起こして攻める。

「雷法 [ボルトストーム]!」

 

「闇法 [ダークバリア]!」

 

結界で弾かれたが問題はない。

なぜなら…

 

「投技 [疾風の一刃]!」

 

「斧技 [マッハドライブ]!」

 

この通り、キャルシィ達が援護してくれるからだ。

というか、これが狙いだったまである。

 

数で勝っている相手を攻める時は、誰かが囮となって攻撃を受け止めつつ相手の手を止めている間に他の奴で攻撃するのが基本だ。

ここで切り返せればなかなかだが、吸血鬼狩り以外でそれを出来る奴はまずいない。

…と言いたい所だが、今回はちょっと違うようだ。

 

奴は翼を器用に使ってラニイの攻撃を防ぐ…というか跳ね返し、キャルシィの技も同様に防いだ。

「っ…!跳ね返された…!?」

ラニイが驚いているが、キャルシィはやはりこうなるか…という顔をしている。

 

「これは…!」

 

「そうよキャルシィ…私の異能(ちから)、覚えてるでしょ?」

 

「ええ…母さんの異能は[強化]…

一時的に、ものの強さを上げる能力…」

 

「そう!そして、私は硬化魔法も得意なの。

私の能力と硬化魔法…その2つを組み合わせれば、あるゆるものの強さを上げられる!

そしてそれは、モノに限らないわ!」

なるほど…な。

自身の能力と魔法で自身を強化する。

単純だが一番確実かつ強力な方法だ。

 

「へえ…それで自身の身体能力、ひいては肉体そのものの強度を上げて…って訳だ」

 

「そういう事…」

 

「っ…![五体樹氷]!」

 

「[トルネイドショット]!」

アレイ達は術を放っていたが、無駄だろう。

実際、奴はやはり翼を用いて二人の術をガードしていた。

「どうやっても無駄よ…。私にこの力がある限り、私は無敵よ!誰にも負けないわ!」

 

「くっ…!どうにか…どうにか策を打ち出さないと…」

 

「防御も攻撃もブーストできる…こんな化け物、どうやればいいのよ…!」

 

「化け物?まあそうね…確かに化け物かもね。

でも、心配しなくていいのよ」

奴は紅い目と牙を光らせた。

「私のこの姿は、いずれあなた達がみんななる姿なのだから!」

その言葉に、ラニイが反論して見せる。

「私達は、あんたみたいな怪物にはならない!

私達は、生きた水兵よ!」

 

「へえ…生きた、ねえ…

一体何のために、生者である事に執着してるのかしら。生物はいずれ死ぬものよ。

…いや、気持ちはわかる。死、って怖いわよね。でもね、それはあくまでも死んだら動く事も話す事もできなくなるからでしょ?

私のようになれば、死してなお動き話す事ができるわ。だから…ね?」

 

奴は再び翼を広げた。

「最高じゃない?水兵の体を持ちながらにして、永遠の時を生きる事が出来るの…。

そしてかつてのように、みんなで近隣の町を襲いましょう!そして、どんどん仲間を増やしましょう!

なに、恐れる事はないわ。生物はいずれ死ぬ。でも私と同様の存在になれば、それすらもなくなる。生物の定めを逸脱した、選ばれた存在になれるのよ!」

 

アレイ達をふっ飛ばし、奴は語りだす。

「さあ、どうするの?このままだとあなた達に未来はない。私につくなら、喜んで迎え入れるわ。私とキャルシィとリヒセロをリーダーとした、新しい社会を一緒に作りましょう!」

キャルシィは、それを聞いてメグに強い眼差しを向けた。

「母さん…!」

 

「あら、当然でしょ?みんなを変えるのは私。

そして、その私の娘であるあなたとリヒセロがみんなのまとめ役になって、私が支配者となるの。

うふふ、想像しただけでワクワクするわぁ…水兵みんなが吸血鬼になって、永遠の世界を作るの…。

町が末永く繁栄するなら、水兵長にとってこれ以上の喜びはない。そうでしょう?」

 

「それは違う!」

キャルシィは叫んで、メグに斬りかかる。

「私達は、今まで何があっても生き残ってきた種族!

陸の者からは好かれ、海人からは憧れられる、誇りある種族!

その誇りを捨てるなんて、絶対に許されない!

昔、私とリヒセロにそう教えてくれたじゃない!

…母さん、忘れちゃったの!」

 

「命にも肉体にも限りがある奴の言う誇りなんて、たかが知れてる。

それに、誇りなら私達の方がよっぽどあるわ。

吸血鬼は、それ自体が高位のアンデッド…低級な海人が陸に上がっただけの水兵とは、訳も格も違うのよ」

 

「っ…!」

熱弁しながらも互角に切り合うあたり、キャルシィの腕はかなりのものだ。

 

「…」

と、キャルシィは槍を押さえたまま黙った。

そして、

「私達は、あくまでも水兵という生きた異人のままであり続けたい!

たとえ町が滅びようと、たとえ肉体が死のうと、私達の魂は死なない!でも、吸血鬼になってしまったら、それすらも消えてしまう!

私達の存在を認めてくれるものが、いなくなってしまう!」

と、反撃を始めた。

 

「あら、そんなことないわ。同じアンデッドのみんなが、私達を認めてくれる。そして、いずれ死の始祖が蘇った時は、さぞや私達を褒め称えて下さるでしょう」

 

「死の始祖…?そんな奴に褒められた所で、私達にはなんの価値もないわ!

私達が求めているのは、今の種族と生活、そして歴史に、誇りと生き甲斐を持って生きること!

例え限りがある命だろうと、低級な種族だろうと関係ない!

私達は…陸に上がった海人、水兵よ!」

 

娘の言葉に何か思ったのか、メグは槍を下げた。

「そう…わかった」

 

「母さん…?」

 

キャルシィはどこか安心しているようだが、俺とラニイとアレイは違う。

 

「あなたの言いたい事はよーくわかったわ。…」

 

吸血鬼狩りなら、言葉にせずともわかる。

これは言いくるめたとかじゃない…

むしろ、怒らせて本気にさせちまっただけだ! 

 

「あなたがそう言うなら…母さん、あんたの事、絶対に許さないから!!」

 

 




メグ・ファンド・レームド・メニーム
第20代目ニーム水兵長にして、キャルシィとリヒセロの母親。
物や生物の身体能力及び組織の強度を上昇させる「強化」の異能を持ち、武器には槍、属性は闇を扱う。
かつては生の始祖らと共に楓姫を打ち破ったが、その後幼いキャルシィとリヒセロを残してニームの宝玉である潮の心と部下と共に姿を消した。
キャルシィ達の想いも空しく、現在は消息不明だが…。
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