黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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涙の戦い

向こうから来る前に、こちらから仕掛ける。

「ラニイ…!」

手を差し出すと、ラニイは察して近づいてきてくれた。

その手を取り、二人で協力して術を放つ。

合術(あわせじゅつ) [トルネードサンダー]!」

 

さして効かないとは思うが、多少の削りにはなるだろう。

空中に飛び上がり、術をガードした後、奴は翼を開いて言った。

「…今のが、あんた達の全力?ぜんぜん、大した事ないわね」

 

…しかし、今の台詞がハッタリである事は見え見えだ。

少々分かりづらいが、今ので奴の左翼に複数の小さな傷がつき、羽ばたきかたも不規則になっている。

 

吸血鬼の翼や牙などのパーツは、見た目以上に重要な役割を持っている。多少なりとも傷つけば、体に無視できない影響を及ぼす。

今の一撃で翼を傷つけられたということは、相性の良し悪しはあれど、術なら通るということ。

そして、こちらにも打つ手があるということだ!

 

と、その前に…

「ウソでしょ…!?今のが最高火力だったのに!」

ラニイが芝居を始めたので、俺も付き合う。

「さすがは高位の吸血鬼、ってとこだな…

だが、俺達はそうやすやすと死ぬ訳にはいかん!

ラニイ!この上は、最後までもがいてやろう!」

 

当然、これは接待とかお世辞なんてもんじゃないレベルの大嘘だ。

俺とラニイが合術を撃つのは今のが初めて。

相手の強さを考え、魔力を調節して放ったのだ。

 

だが、こんな見え透いた提灯持ちの演技でも効く奴は結構いる。

それが、こいつのように元から高い能力を持っていた奴。

そして、自身の力に自惚れている奴だ。

 

「ふふっ…健気なものね。

いいわ、あんた達の始末は後にしてあげる。

まずはキャルシィと、その子から行きましょう」

 

奴は無数の黒い羽を打ち出し、それを俺達の回りに打ち付けてこちらの動きを止め、キャルシィとアレイの方に向かった。

ここまでは順調だ。あとは…

 

「母さん…!」

 

「よく覚えておきなさい!子供が母親に楯突けばどうなるか…!」

キャルシィが負けずに持ちこたえてくれればいい。

 

「本当は苦しめずに変えてあげたかったんだけど…。気が変わったわ。部下達の前で、無残な死にざまを晒して変わりなさい!

闇法 [イビルスポット]!」

 

「闇法 [シャドースパイラル]!」

おお、これは面白い。水兵長と水兵長、闇使いと闇使いの戦い。しかも空中戦だ。

こんな戦いは、多分もう二度と見られない。

どうせ今は動く理由もない。じっくり観戦させてもらおう。

 

「闇法 [ネクロスファン]!」

 

「闇法 [ダークスライド]!」

 

「…奥義 [一夜の夢物語]!」

 

「奥義 [エイエンノヤミヨ]!」

強力な闇の術同士がぶつかり合い、こちらにまでその衝撃波が飛んでくる。

その衝撃で、俺達の動きを封じていた羽が全て消滅し、動けるようになった。

 

「そろそろシメにしましょうか…」

メグはそう言って、再び術の構えを取る。

 

「キャルシィ!連れの二人もろとも、堕ちなさい!

死霊霊術 [死人のための歌(デスナーサリーライム)]!」

 

メグの手から黒光りする波動が放たれる。

 

ラニイがアレイをかばい、俺はラニイをかばった。

そして…

 

「か…[陰りの盾]…!」

キャルシィが、俺をかばってくれていた。

 

「っ…!」

それを見たメグは、魔力を高めて波動をさらに強化した。

キャルシィも対抗し、魔法盾の効力を上げる。

 

「うぐぐぐぐ…」

キャルシィは何とか踏ん張っているが、徐々に後退していっている。

こうなれば、できることは一つだ。

 

「んっ!!」

魔法盾を押さえ、魔力を流し込む。

「!?あなた…」

 

「説明は無用だ…!今は…」

 

と、新たに4本の手が現れ、同じように盾を押さえた。

「キャルシィさん…!」

 

「長…!協力します…!」

 

「みんな…ありがとう!

よし…このまま押し切りましょう!」

皆のパワーを得たからか、キャルシィは盾の表面から青い波動を打ち出し、メグの波動を少しずつだが押し返し始めた。

そして、ついに…

 

メグの波動を完全に押し切り、奴をふっ飛ばした。

 

まだ翼が生きているのか、メグは羽ばたいて上空へ逃げようとした。

 

「待ちなさい!」

キャルシィが高々とジャンプして攻める。

 

「[影の処刑人]!」

キャルシィが、斧に闇の力を込めて斬りかかる。

「[宵闇の槍]!」

メグは槍にバフをかけ、斧を受け止める。

 

「んんんっ…!!」

やがてキャルシィは技を外し、別の技を放った。

「[黄昏の(トワイライト)大切断(メガカッター)!]」

 

防ぎはしたものの、メグは若干後退した。

それを見て、キャルシィはさらに追撃をしかけた。

「[夜の衝撃]!」

 

「っっ…!キャルシィ…!」

 

「[暗冥斧撃]!…奥義 [夢追い人の力]!」

 

「ぎゃっ!」

 

娘の怒涛の追撃を受け、かつて水兵の長だった吸血鬼はさしたる抵抗も出来ずに地べたに落ちた。

 

そして…

 

「うぅ…キ、キャルシィ…あんた…!」

降り立ってきた娘を見て、奴は怒り、悲しみ、疑問など、様々な感情がこもったであろう声を上げた。

 

「母さん…」

キャルシィは倒れた母に寄り添い、何やら優しい言葉をかけ始めた。

「ごめんなさい。今まで辛かったでしょう…。

私が、もっと早く来てあげればよかったわね…」

 

すると、メグも急に言葉遣いが優しくなった。

「いいえ、そんな事ない。あなた達の顔を思い出せば、どんなに苦しくても、辛くても、耐えられた。

いつかまた、あなた達と一緒に暮らす日々を想像すると、それだけで幸せな気持ちになれたの…」

 

「私達だって、何回母さんに会いたいと思ったことか…。

でも、もう会えないんだなって、そう思ってた。

また一緒に暮らす事も、一緒に町を治める事も出来ないんだなって…」

 

「…そう。ごめんね、あなた達を悲しませてしまって…」

駄弁はいいから、早いとこ話を進めていただきたいものだ。

 

「ねえ、母さん。最後に聞きたいんだけど、潮の心は…ニームの宝玉は、どこにあるの?」

 

「私の部屋にあるわ。あれさえあれば、例え吸血鬼になろうと、冷たい海の水に触れても平気よ」

 

「そう。よかった、最後に教えてくれて…」

 

「いいのよ。愛する娘のためだもの…」

 

奴は優しく微笑んで、キャルシィの手首に噛みつこうとした。

 

 

「…ふんっ!!」

見るが早いか、キャルシィは母の顔に全力の肘打ちを決め、立ち上がって蹴り飛ばした。

 

「ゔっ…!?」

 

「それさえわかれば十分!ありがとう、母さん!」

 

「キ…キャルシィ!あなたどういう…!」

 

「ごめんね、母さん。…私、誰に何と言われようと、今のこの立場を捨てるつもりはないの!

ニームの子達も、誰にも渡さない!そして…うら若いこの子達の事も、傷つけさせはしない!」

 

「えっ?」

 

「キャルシィさん…」

 

いい感じの流れになってきた。

あとは、もう一言あれば完璧だ。

 

「母さん。あなたはもう水兵ではない。

従って、もう私達の仲間じゃないわ。

もちろん、私の母でもない。

…堕ちた水兵よ!ニーム水兵長の名において、あなたを死刑に処する!

死の始祖と楓姫に宜しく頼むわね、母さん!

…いや、かつての水兵…私の母であった吸血鬼よ!」

キャルシィは翼を現し、振り向くことなく言ってきた。

 

「さあ、出番よ私の同族達…あと、殺人鬼さん!

闇に堕ちた水兵に、裁きを下しましょう!」

 

その言葉を待っていた。

「おう!ラニイ!アレイ!喜べ、ようやくまともに仕事が出来そうだぞ!」

 

「そうね!レジェンド、ここからは私も本気を出させてもらうから、絶対見逃さないでよね!」

 

「私は吸血鬼狩りじゃありませんが…キャルシィさんのお母さんを救うため、精一杯頑張ります!」

 

「おー、頼もしいな!

て訳だキャルシィ、喜んで協力させてもらうぜ!」

 

「ありがとね。リヒセロがいない事だけが残念だけど、あとは悔いはないわ。みんなで協力して、この吸血鬼に裁きを与えましょう!」

 

相手に不満はない。

あとは、力の限り戦うまでだ!




メグ・ヴァルト・ジーム
楓姫の呪いを受け、変わってしまった先代ニーム水兵長の成れの果て。
外見はすっかり朽ち果てているが、最高位の呪霊となり、半永久的に生き続けるその肉体は、数千年の年月が経った今でも、かつて水兵の長であった日と変わらぬ美しさと強さを持つ。
楓姫の呪いを受けてもなお生き続けたいと願った彼女が与えられたのは、かつて自身が三聖女と共に打ち倒したものと同類の肉体と、それを持って暮らす苦痛の日々だった…。
蝙蝠のような2枚の翼と4本の牙を有し、名前に「ヴァルト」という姓を持つ事からもわかる通り完全に負の吸血鬼と化しており、元の水兵としての心は失ってしまっている。
娘の事は覚えていたようだが、その娘すらもニームの水兵達もろとも吸血鬼化させようとしている事から、すでに正常な理性を失っている事が窺える。

世界観・堕ちた水兵
おもに水兵の間で使われる言葉で、自らアンデッドや異形・闇の者に身をやつした水兵を指す。
水兵の世において最大の悪行を侵した者につけられる称号であり、該当する水兵は町にいる資格を剥奪され、追放されると同時に、全ての水兵からその「命」を狙われる事となる。
しかし、それは彼女らなりの最後の情けであるのかもしれない。
それをほのめかすかのように、初代レーク水兵長の時代に著され、水兵の掟を記した書物である「海潮の心得」の原典にはこのような記述がある。
『一度堕ちた水兵は、決して許してはならない。また、捨て置いてはならない。堕ちた水兵には、いかなる手を使っても裁き、また、救いを与えよ』…
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