黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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先客

飛び立ったその速度は凄いものだった。

秒速300メートルはゆうにあるだろう。

ほぼ音速に近い速さで飛び、そして生身でそんな経験をしても平気である現実は、何というか…キャルシィも俺も人ならざるものなのだという事を痛感させられた。

ま、今更かもしれないが。

 

10秒ちょいで目的地についた。

「これが、楓姫の居城…」

 

それは屋根が赤く、壁が濃い茶色の木材で作られた屋敷だった。

ボロボロで、かなりの年季を感じさせる。

 

「ここは、マトルアでは通称「魂の魔法館」と呼ばれている建物です。かねてより楓姫がここにいるという噂があったようで、長い間誰も来ていなかったんです」

 

「でしょうね」

 

「しかし、つい最近ここを訪れた者がいました。

マスカーに守られた、マトルアの若い魔法使い…」

そこまでリヒセロが言った時、アレイが口を出した。

「!それって、ベクスじゃないですか!?」

 

「そうです…。彼は、本当に楓姫がここにいるのか確かめようとしたのです。いざとなれば、マスカーが守ってくれると安心していたのでしょう。

しかし、現実は違いました。楓姫の存在は確認出来たのですが、部屋を覗いた際に気づかれてしまい…結果として、マスカーはかつての楓姫の下僕の魂を吹き込まれ、それは彼の肉体を乗っ取って動き出したのです」

 

なるほど、そういう事だったのか。

ベクスに、というよりは奴にくっついてるマスカーに呪いをかけたわけだ。

 

「なるほど…そう言えば、楓姫の友達とかっていう死霊騎士もいたわね」

 

「ええ。ですが、十分に弱っているはずです。

改めて戦えば、きっと倒せます」

 

「だな。よし、行こう!」

 

ところで、他に誰も気づいていないのかわからんが、館のまわりにはやたらとニトロの死体が転がっている。

誰かが先に来ているのだろうか?

 

 

 

 

館の中に入ると、二階から何か物音が聞こえてきた。

それは、何かが揉めているような、ドタンバタンという音で…

 

「きゃっ!」

突然、何かが二階から落ちてきた。

 

「軋羽さん…!?」

なんと、霊騎士の軋羽光だった。

奴は、胸から血を流している。

「ぐうっ…む、君たちは…」

 

「軋羽さん!あなたがなぜここに!?」

 

「キャルシィ殿、リヒセロ殿…

あなた方こそ、なぜここに…」

 

「彼らと一緒に、楓姫を倒しに来たんです!

軋羽さんも、楓姫を倒しに来たんですか!?」

 

「いや…私は…」

しかし、それ以上奴が語る必要はなかった。

なぜなら…

 

「相変わらず無駄にタフね…」

声の主が降臨なされたからだ。

 

「…あんたは!」

 

「あら、誰かと思えば」

エイミはにわかに血がついた大剣を担いで舞い降りてきた。

「やはりまだ生きていましたか…!」

 

「私はとうに死んでるわよ。この館で生きてるのは、侵入者のあんた達だけ」

 

「そうね!一回死んでるのにまだ立って動いてるのは、この世界であんた達だけだけどね!」

 

「何とでも言いなさいな。さて、軋羽。そろそろ決着をつけましょうか」

 

「…!」

軋羽は槍を構える。

 

「軋羽さん、エイミと面識があるんですか?」

 

「ああ、こいつはかつての私の仲間…!

死の始祖との戦いの最中、突然寝返ったのだ!」

 

「死の始祖と…?」

 

いやはや、さすがは最古参の霊騎士さんだ。

きっと、死の始祖や生の始祖…シエラとも面識があるのだろう。

 

「寝返って当然でしょう?あの戦いは、もう行く末がわかりきってた。なら、勝てそうな方に身を置くのが普通でしょう?」

 

「…貴様は恥を知れ!例え負け戦であろうと、騎士の誇りを捨て、戦を投げ出し仲間を裏切った貴様の罪は重い!」

 

「綺麗事をどうも。仲間なんてのは、結局表面上の肩書でしかないのよ。それは、殺人者が何より証明してる。結局は、勝ったもん勝ちなのよ」

 

「そうか…ならば貴様らは敗者だな!例え戦に勝とうと、その先に成長が無ければ、敗れたのと同義だ!」

 

軋羽はエイミに飛びかかる。

しばし鍔迫り合いをしたが、敗れてしまい吹き飛ばされた。

 

「ぐっ…!」

 

「なんかさ、妙に弱くなってない?

昔のあんたは、タフで強くていい男だったじゃない。

もしかして、もう体がダメになったのかしら?」

 

「…あの時よりは老いぼれたが、まだ十分に現役よ。

少なくとも、貴様などには負けんぞ!」

 

「ふーん。でも、歳食った事に変わりはないでしょ?

性別、種族はどうであれ、年取った奴より若い奴の方が好みなのよねえ」

エイミは水兵達の方を向き、技を使う…

 

「[ガラームブレイク]!」

 

「っ!!」

俺と軋羽が、槍と刀を交差させて受け止めた。

 

エイミは俺を見て舌打ちをした。

「お前…!毎度毎度、余計な事しないでよね!」

 

「悪いが、黙って見てらんなくてな…!」

軋羽は、一瞬俺を驚いたような目で見つつも、

「貴様は既に死んでいる存在…無駄に命を欲する権利も、必要もない!」

と叫んだ。

どうにか押さえているが、このままではきつい。

そこで、左手を離して体術を放つ。

 

「[雷帝掌]!」

これで向こうを突き放し、仕切り直しに持ち込む事が出来る。

そして、軋羽は左手に緑のエネルギー弾を生成する…

 

「今、ようやく貴様と再戦出来る時が来たのだ…

これ以上貴様らの好きにはさせん!霊法 [アークリースタル]!」

弾は瞬時に巨大化し、光線となって飛ぶ。

見た目にはあまりインパクトがないが、相当な威力があるだろう。

 

エイミは、それを軽くガードしてみせた。

「お得意のやつね。生憎だけど、今の私には何でもない攻撃よ?」

 

「今の…!?」

 

「そう。再生者が復活した今、私達は前よりも大きな力を持っているの。だから!」

軋羽の攻撃をかき消し、

「もうあんたを恐れる必要なんてないのよ![ダークムーン・ドリッド]!」

剣を振り下ろし、すぐに切り上げて軋羽をふっ飛ばした。

 

「軋羽さん!」

 

「だ、大丈夫だ…奴は私の仇、私が…!」

 

「しかし、その傷では…!」

リヒセロが心配する通り、軋羽は腹から胸にかけて大きな傷を負っていた。

綺麗に体が裂けており、内臓が見えてないのが不思議なくらいだ。

 

「む…そうだな…。ならば」

軋羽は、恐らく中級…の治癒魔法をかけ、傷を塞ぐと共に血を止めた。

 

「…龍神」

いきなり俺の名前を呼んできた事に驚いた。

「…おう?」

 

「ひとつ、君の力を見せてもらおうか。私を…ひいては水兵達を助けてくれたら、当分は君らに手を出さないよう各国の代表に通達しよう」

 

「そうかい。そいつは光栄な事だ」

刀を抜く。

「賢明な判断だ。では…行くぞ!」

最初に電撃を飛ばし、次に斬撃を飛ばす。

「[メドールスラッシュ]!」

 

軋羽も黙ってはいない。

「[ソウルリーム]!」

槍の先端に霊力の刃を生成し、斬りかかる。

 

「[ネイムライジング]!」

エイミは俺達の攻撃を躱しつつ反撃してきた。

しばし続いた波動の連射を躱しきると、水兵組が参加してきてくれた。

 

「[カルネージストーム]!」

リヒセロが剣から暴風を巻き起こし、

「[セピアスラッシュ]!」

キャルシィが斧を振って斬撃を放つ。

 

そして、アレイは…

「[プリズムリバー]!」

光と氷の力を感じさせる弓の技を放った。

 

正面から3人の技を同時に使われても、エイミは若干後退しながらもガードしきって見せた。

「3人合わせてやっとまあまあ…って感じね。

でも、これなら…」

 

エイミは突然言葉を切り、動きを止めた。

そしてすぐに振り向き、背に手を伸ばした。

にわかに驚きながら取り出した…いや、抜き出したのは、己の血が滴る1本の矢だった。

 

 

 




死霊騎士エイミ
楓姫の唯一の友人にして、刀身全体が赤く見事な大剣を使いこなす赤髪の死霊騎士。
元々の霊力は弱く、胸の高さで浮かせている巨大な輪のような装身具で霊力を高めている。
かつての軋羽の仲間の一人であり、最初の再生者である王典が現れた時代より続いた死の始祖との戦いにも参加していたが、その途中で突如死の始祖側に寝返り、死霊騎士となった。
その後、楓姫もろとも生の始祖らによって倒され封印されていたが、再生者の復活に伴って蘇った。
本名は「エイミ・シルディー」。


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