黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
キャルシィは両手を右脇の前あたりで合わせ、手と手の間に水の球を作り出す。
そして、
「水法 [ハイドロカノン]!」
水の波動を打ち出した。
「刀技 [水月斬り]!」
楓姫は波動を両断しようとしたが、駄目だった。
「うぐっ…!」
水が当たったためか、奴の纏う不可視の炎が一瞬だけ見えた。
そしてそれは、水が当たった所だけ瞬間的に消えたように見えた。
「あれって…!」
「ああ!キャルシィ、頼むぞ!」
「まかしといて!リヒセロ、あなたもよ!」
「はい、お姉様!」
そして、水兵長姉妹はそれぞれ術を放つ。
「水法 [裁きの水]!」
「水法 [荒波喜望峰]!」
滝のように降り注ぐ水と、津波のように打ち付ける水。
2つの攻撃を受けた楓姫は大分弱っているように思えた。
「こ…このぉ…!!」
奴はなぜかアレイに飛びかかったが、頭を矢で射抜かれ、倒れた。
そして、水兵長姉妹がとどめを刺す…かに思えたのだが、そうはならなかった。
「リヒセロ、わかってるわね?」
「ええ、勿論です」
二人は楓姫に歩み寄る。
…ああ、なるほどな。
二人が何をするつもりなのか、言われずともわかる。
「キャルシィさん達、一体何を…?」
幸か不幸か、アレイはわからないようなので、黙って見ていろとだけ言う。
楓姫も察したのか、刀を振り回して足掻いてみせたが無意味だった。
「何その動き。まるで、おもちゃを振り回す子供ね」
「な…何をするつもりだ!私を封じるなら…」
「私達はあんたを封じたりなんかしないわ。だって私達は、あんたに報復しに来たに過ぎないんだから」
このキャルシィの一言でアレイも察したらしく、えっ…と固まった。
「な…!?」
「リヒセロ、やるわよ」
「はい…」
リヒセロの体が、黒く丸い光に包まれた―
次の刹那、リヒセロは3対の黒い翼を生やした、恐ろしい姿になっていた。
その見た目と威圧は、キャルシィのそれにも似ている。
しかし、今のリヒセロはキャルシィとは決定的に違う所がある。
それは、目が紅く光っていることだ。
「リヒセロさんが…怒ってる…」
アレイが、怯えるように言った。
「あれが、リヒセロが怒った姿なのか…」
「はい…長いこと見てませんでしたが。リヒセロさんは、怒った時だけ翼を現し、あの姿になるんです…」
と、いうことは…。まさか、まさか…。
いいねぇ…。
母の仇を討たんと、怒りに燃える姉妹の猛攻。
それを受けて苦しむ、非力と化した女の再生者。
正直、めちゃくちゃ好きなシチュエーションだ。
これはちょっと…拷問ショーばりに興奮出来そうだ。
多分俺らの出番はないが、まあいいとしよう。
ここは、黙って見させてもらおう。
いやぁ、久しぶりにいいもんが見れそうだな。
◇
リヒセロさんが正体を現すと、楓姫は急に怯え始めた。
「そ、その姿…まるで…」
「わかるわね?リヒセロがこの姿になったって事は、どういうことか」
「…!」
その直後、二人は楓姫に襲いかかり…
力を失った楓姫に、二人は時折怒号を浴びせながら猛攻をしかけた。
それは、もはや言葉にならない程だった。
キャルシィさんもそうだけど、リヒセロさんがあそこまで怒ってるのは初めて見た。
それだけ、母の件で深く悲しんでいたんだろう。
「がっ…ぁ゙…ぁっ…」
どれくらい時間が経っただろうか。
二人はようやく攻撃をやめた。
楓姫は、無惨な姿になっていた。
服も帽子もズタズタに破れ、全身が傷だらけ…
もはや、高位のアンデッドとは思えない。
「…お姉様。そろそろ終わりにしましょう」
「そうね。そろそろやめましょう」
その言葉を聞いた楓姫は、虚ろな目でリヒセロさんを見た。
「勘違いするな。お前を許してなどいない。
だが、いくらお前をいたぶった所で、お母様は帰ってはこない。
お前にはまだ晴らせないほどの恨みがあるが、アレイさん達の事があるから、これ以上の事はしない。
しかし、例えお前が死のうと、何をしようと、私達は絶対にお前を許さない。忘れるな」
リヒセロさんはそう言うと、剣を再び構えた。
そして、キャルシィさんも斧を構えて…
「「合技 [ジャッジメントクロス]」」
合技を受けた楓姫は、血を吐いて動かなくなった。
そして、ああ、これでいい。
これでようやく、私は開放されるのだ…と言うように、安らかな表情を浮かべて消滅した。
リヒセロさんが元の姿に戻り、こっちを見た。
「…アレイさん、封印をお願いします」
「はい…」
私は指輪に近づき、詠唱して結界を張った。
「星法 [昴の子らの歓声]」
これで、二人目の再生者を封印できた。
館を出た頃には夜になっていた。
キャルシィさんに抱かれて戻る時、リヒセロさんが泣いていたような気がしたけど、確証は持てなかった。
神殿に戻ると、いきなり龍神さんが元気よく喋り出した。
「いやー、お二人ともずいぶん気張ったな!」
「…えっ?」
「あんた方が楓姫をフルボッコにするところ、最高だったぜ!見ててすげぇ興奮したよ」
「興奮した…ねえ。ずいぶんな性癖持ってるのね」
「そうでしたか?」
「ああ、あんなのは殺人者のコロシアムでもなかなか見られねぇ。特にリヒセロさんよ、あんたのは凄かったぜ」
「…嬉しくないのですが」
「んな事言うな!あんためちゃくちゃ暴れてたじゃんか」
「…私は、ただ怒りに囚われていただけで…」
「それがいいって事なんだよなぁ…ま、いいよ。
結果的に封印も出来たしな」
「そうですね」
私がそう言うと、リヒセロさんは疲れたのでもう寝ます、とだけ言い残して部屋に行った。
「私も疲れたので寝ます。おやすみなさい」
「ええ、おやすみ」
部屋に行くふりをして、入口の柱の陰に一度隠れて顔を出し、二人の様子をこっそり見る。
勿論、これには理由がある。
「さて、今回はありがとうね、龍神」
「いあいあ。こっちも最高の体験が出来たぜ」
「ふふ、それはよかった」
そして、キャルシィさんはゆっくりと彼に近づく。
「…どうした?」
「あなたに何か、お礼をしたいのだけど…すぐには用意出来ないから、私で我慢してくれないかしら?」
…ああ、やっぱりそうなったか。
「…え?」
「今回のあなたの活躍は表彰ものよ。でもね、今はそれどころじゃないの。だから、私があなたを愉しませてあげる。それで納得してくれない?」
「いや、あんた…えぇ…」
「聞いたんだけどさ、あなた、ラニイの誘いを断ったんでしょ?彼女もなかなかだと思うんだけど…勿体ないことするわね。
まあそれはさておき、彼女ではあなたの求める基準に達しなかったって事よね?」
「いや、それは…」
「いいのよ、素直になって。私はこの町の長。誰よりも長く生きて、体と心を磨いてきたわ。
殺人者は女好きだって聞いた事あるし、あなたも多分そうなんでしょう?
殺人者に差し出すつもりはなかったんだけど…あなたは特別よ。この体を、思う存分楽しんでちょうだい」
キャルシィさんは妖艶な微笑みを浮かべ、体をひねってその見事なラインをくっきりさせ、ふくよかな体を彼にしかと見せつける。
(あぁ…もう…!あのスタイルと大きさは確かに憧れるけど…彼にそういうのは効かないから!)
「そりゃ、いいな」
えっ?と思った。
「そうでしょう?さあ、私の部屋に行きましょう。今日の戦い以上に興奮させてあげる」
いやらしい微笑みを浮かべて、彼を連れていこうとするキャルシィさんに、彼は「ん?何か勘違いしてないか?」というように言った。
「いや、そうじゃない」
「え?」
「ラニイから聞いてないのか?俺は女に興味はないんだ」
「あら、そうなの?ちょっと残念だわ。せっかくいい男を捕まえられたと思ったのに」
「俺はあんたに捕まった覚えはない。それに、俺はこの世界で最下層の男だ、もっといい男がごまんといるさ」
「どうかしら。少なくとも、私にはそうは思えないけど」
「…はあ。とにかく、俺ももう寝る。てか、もしアレイにこれ見られてたら恥ずかしくないのか?」
「別に。水兵は男を誘うものだもの」
「娼婦かよ、まったく…」
「強ち間違いでもないわね。今はそうでもないけど、昔はみんな気に入った男を落として子供を作ってたから」
「おっそろしい種族だな、水兵ってのは」
「失礼な言い方ね、種が存続するための知恵よ。ま、まず寝るなら早く行きなさいな」
「そうさせてもらうよ」
彼がそう言ったので、私は飛び上がって部屋に急いだ。