黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
ルイリ、という名前には聞き覚えがあった。
「ルイリ…って、川の?」
「そそ。あの川の中流に、僕の仲間の集落があるんだ」
「そういうことね。じゃ、泳いで行きましょう?」
ミジーの近くには、シゾ川という川がある。
そしてシゾ川を下って行けば、ルイリ川に出る。
「そうだね。よし、行こう!」
彼は走り出したのだけど…
その速さは、私には追いつけないものだった。
何なら、龍神さんより速いかもしれない。
「ま…待って…!」
「おいおい、遅いぞー?」
「し、仕方ないでしょ…!私達は、走るのはあまり得意じゃないの…」
水兵は海人だ。
泳ぐのは得意だけど、陸を走るのは未だに苦手だ。
「そっか…水兵は海人だもんな。ごめんね」
「いいのよ…その代わり、泳ぎでは負けないんだからね!」
すると彼は、にたりと笑った。
「言ってくれるな?よーし、その喧嘩買ってやるよ」
「いいわよ?水兵と白水兵、どっちが泳ぎが上手いか決めましょう!」
「望むところだ!」
龍神さんがため息をついているけど、気にしない。
真正の水兵と白水兵の、純粋な能力を比べる。
これこそ、異種族間の真剣勝負だ。
さて、シゾ川に到着した。
龍神さんに私が力を与えると、マリルは怪訝な顔をして、
「なんだ、僕じゃダメだってのか!?」
とふてくされた。
「さあね。私とあなたのどっちが正しいか、試してみればわかるんじゃない?」
「ちっ…!バカにしやがって!」
「バカにしてなんかないわ。さ、早く泳ぎましょう」
そして、私は龍神さんを連れて川に飛び込んだ。
川は水がきれいで、そして流れが早くて…
「…おい、ちょっと待て!」
龍神さんが焦る理由もわかる。
これは、明らかにおかしい。水の流れが早すぎる。
「なんだ…!?これはまずい、上がろう!」
マリルが上がろうとした瞬間、急に流れが早くなった。
(私でも抗えないなんて…この水流、何かおかしい)
そう思った直後、私達は流されてしまった。
「…!」
私は、右腕の痛みで目を覚ました。
見ると、右腕に木の枝が刺さっていた。
恐る恐る触ってみると、それだけで強い痛みが走った。
でも、このままというわけにもいかない。
意を決して、枝を引き抜いた。
「つっ…!!」
血が溢れ出し、激痛が走る。
抜いた枝をよく見ると、表面に複数のとげがあった。
それは、心なしか、私の血がついて妖しく光っているように見えた。
あたりを見ると、龍神さんが岸辺に流れ着いていた。
「龍神さん!」
彼の体を揺すると、彼はすぐに目を覚ました。
「…うう!」
「よかった…大丈夫ですか!?」
「ああ。アレイは…って、その傷は!?」
「あ、これは…枝が刺さってたんです。痛いですけど、大丈夫だと思います」
「いや…止血だけでもしたほうがいいぞ。こういう所で血を流すと、ろくでもない奴らが寄ってくる」
彼の言う通り、水中で血を流すと何かと危ない。
そこで、治癒魔法をかけて止血と痛み止めをした。
「マリルはどこだ?」
「わかりません。もっと下まで流されたのかも…」
「そうか…厄介な事になったな」
「あの水流、一体何だったんでしょう。私でも逆らえないなんて…」
「わからんが、誰かの仕込みだった事はほぼ確実だろうな」
「とすると…」
「この先何があるかわからん。気をつけていこう」
「はい。でもその前に…」
私は目を閉じ、能力を使う。
私達がここに流れ着いたのは1時間前。
私達は岸や枝に引っかかって止まったけど、マリルは意識を失ったまま、さらに下流へ流されたようだ。
泳ぐとまた流されるかもしれないので、陸路で川を下っていく。
どうやら、ここは結構深い森のようだ。
このあたりの植物はとげがあったり、やたら繁茂していたりする。
道なりに行ったほうがよさそうだ。
しばらく下っていくと、緑の異形が数体現れた。
「あれは…モリール、ですね」
「ああ。面倒な奴が出てきたもんだ」
モリールは落葉樹が異形に変化したもの。
元が木なのもあって硬く、物理は通りづらい。
属性では、植物由来なので火や電に弱く、氷や水に強い。
「龍神さん、電撃で倒せませんか?」
「やれなくはないが、ここでやったら大火事になる!」
「そうですか…それじゃ、仕方ないですね!」
マチェットを抜き、剣の技を使う。
「剣技 [分裂剣]!」
剣を構え、相手の周りを回転して連続攻撃する技で、使い手の腕によって威力が変動する。
私の場合は中の下程度の威力で、あまり強いとは言えない。
でも、すぐに続けて技を使うので問題はない。
「剣技 [グリーンカッター]!」
この技には植物特効があるので、硬いモリール相手でもどうにか削れる。
そして、この一撃で一体を倒す事ができた。
龍神さんはというと、
「[影抜刀・雷雲]」
電気を帯びた雲?をおこして電ダメージを与えつつ斬りつけて、異形を倒していた。
あの硬い肌の異形を一撃で叩き斬れるあたり、彼はかなり力が強いみたいだ。
しかも、彼はどちらかというと近接重視。遠距離重視で、非力な私のパートナーとしてはちょうどいい。
「片付いたな」
「はい。先を急ぎましょう」
異形たちはお金の他、緑色の石も落としていったので一応拾っておいた。
「この森には、他にも異形がいるかもしれない。マリルを見つけるまで撤退は避けたいからな、なるべく傷つかずにいこう」
これはつまり、攻撃を受けずに敵を倒せという事だろう。
私はあまり回避には自信がない…とくに近接攻撃は。
なるべく避けるようにはするけど、無理がある時は結界を張って乗り切ろう。
この森にどんなモノがいるのか、この森がどこまで広がっているのかがわからない以上、油断は出来ない。
結局、その後は異形が何度か現れたけど、マリルが見つからないまま、日が暮れてしまった。
「これ以上進むのは危ないな。今日は、ここで野宿しよう」
野宿なんて初めてだ。
緊張するし不安もあるけど、彼が一緒なら何とかなる気がする。
「焚き火をしたい…が、火はつけれないな」
ここで、私の出番だ。
「大丈夫ですよ。私がつけます」
「つけれるのか?」
「はい。まずは、薪を集めましょう」
二人で生木を折ったり、地面に落ちている枝を拾ったりして、十分な量の薪を集めた。
そしてそれを一箇所に集め、術を使う。
「太陽術 [フェーン]」
木材はそのままでは燃えが悪いと聞くので、こうして一度乾燥させるのだ。
そして、瞬間的に乾いた木材に、別の術を使う。
「太陽術 [ヒートシャイン]」
木材に太陽光を照射し、火をつける。
「おお…すげえ」
「太陽術士なら出来て普通の事ですよ。まあ私自身の力じゃないですが」
「そ、そうだったな、はは…」
彼は引き笑いをする。
けれど、これくらいはいいだろう。
誰でも、ちょっと怖い面があるものだ。
このあたりは、川にいる魚も森の異形も食べられないものばかりだ。
なので、持ち歩いている保存食を食べる。
龍神さんはドライフルーツとビーフジャーキー、私はスモークサーモンとイリル(複数種類の魚のすり身で作ったつみれに似た食べ物。水兵の間では昔から食べられている)を食べた。
食べ慣れたものでも、こうして未知の環境で食べるとまた違った味になる。
その由来は空腹によるものか、あるいは不安によるものか。
私達は今は二人しかいないので、見張りはせずに結界を張って寝る事にした。
明日は早朝に起きて探索を再開することになったので、しっかり寝たい。
夜中に異形が襲ってきた。
それも、モリールよりずっと強力な、大木の異形。
それは強引に結界を壊し、私達に襲いかかってきた。