黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
あまりに突然の事だった。
まさか結界を壊して入ってくるとは思わなかったから、焦った。
龍神さんが危険を承知で電撃を放ったけど、それでも致命傷には至らなかった。
これはまずい…
そう思った瞬間、異形は突然うめき声を上げて倒れた。
「…!?」
異形を鎌の一撃で仕留めたのは、変な緑の仮面を被ったローブの異人。
そのまわりには、白や黄色の仮面を被ったローブの異人が何十人もいた。
彼らは私達を取り囲んできた。
原住民か…と思い警戒したけど、リーダーであろう緑仮面が近づいてきて、話しかけてきた。
「大丈夫か?」
「え、ええ…」
「お前らは…?」
「我々はこの森に住むマスカーだ。貴殿らに危害を加えるつもりはないから安心されよ」
「マスカーか。助かったよ。ありがとう」
「礼には及ばぬ。娘さんも、大丈夫か?」
「ええ…ありがとう」
「まず、ここは危険だ。我々の集落へ行こう」
連れて行かれたのは、いかにも先住民族の集落という感じの所だった。
失礼かもしれないけど、白水兵の集落にも似てる。
「詳しい話は明日伺う。今は、就寝されよ」
リーダーに通された家で、眠り込んだ。
翌朝、起きるとすぐにリーダーが現れた。
正確には、壁にかかっていた仮面がリーダーだった。
「そんな所で寝てたのか」
「うむ…客人が襲われては申し訳ないからな。
それで、話を伺いたいのだが」
「結構だ。何でも聞いてくれ」
「まず、貴殿らの名をお聞きしたい」
「俺は龍神。こっちはアレイ。
俺は殺人鬼で、アレイは水兵だ」
「殺人鬼…か」
リーダーは、眼を鋭く光らせた。
でも、それは仮面の奥の眼が光った、というよりは仮面の眼の部分そのものが光った、という感じだった。
「わかっておろうな?我々は、共にジョーカーの意思を継ぐ種族…争いは無用だ」
「ああ。あんたらと俺達は遠い親戚だ、襲う訳ねえさ」
ジョーカーはかつて存在した異人の種族。
見た目はマスカーに、性格は殺人者に近く、2億年ほど前にマスカーと殺人者に分化したという。
「その言葉が聞けて安心した。
では次、貴殿らは何の目的であそこにいた?」
これについては、私が説明した。
「私達は、元々白水兵も仲間にいて、三人だったんです。そして、彼と一緒に川を泳いでここの中流の集落へ行こうとしたんですが、急に流れが激しくなって…この流域に流され、彼ともはぐれてしまったんです。
それで、川を下っていたところなんです」
マスカーは、納得したようだった。
「そうか…それは災難だったな。しかし、幸運だったな、白水兵の集落は、ここからさほど遠くない。
半日程度休んだら、出発されるとよかろう」
「わかりました、ありがとうございます」
「ひとまず食事にしよう。ついてこい」
リーダーに案内されたのは、木の床にそのままカーペットを敷き詰めたような所だった。
そこに何台もの椅子があり、全てにマスカーが座っている。
…いや、座っている、と言えるのだろうか?
彼らは仮面が本体で、あのローブやワンピースの下には何もない。
まあそれは霊体系の異人全てに言えることだけど。
卓上に並ぶ料理は魚の丸焼きやキノコ料理など、どれも民族っぽいものだった。
その中には、何だか見覚えがあるような料理もあった。
(あれ、何だったっけ…)
昔見たことがある。
匂いを嗅いだだけでも物凄い嫌悪感を覚えた料理だ。
申し訳ないけど、あれは食べたくない。
「諸君、おはよう。今日は客人もいるのでな、いつもより豪勢にしてもらった。
諸君らも彼らに聞きたい事はあろうが、くれぐれも礼儀を忘れぬようにな」
…と、そんなことを思ってるうちにみんな食べだした。
私が魚やキノコ料理を食べていると、
「お姉さん、これ食べないの?」
と、隣に座ったマスカーに声をかけられた。
それは声が高く、身長が低いことから、女の子のマスカーと判断した。
「う、うん。これね、私はどうしても食べられないんだ」
「そうなの?美味しいのになー」
少女のマスカーは首をかしげながらも、それを取って食べてしまった。
でも、私からすればアレを美味しいなんて言う人の気が知れない。
たった今、あれが何か思い出した。
あれは、川に住む海人の一種である川人の肉を使った料理。
何年か前に、どこかの町で見たことがある。
最初は何の肉を使った料理なのかわからずに食べようとしたけど、匂いがものすごく不快に感じられて結局食べられなかった。
そしてそれ以降、私はあれを見るのも嫌になった。
まあ、食べられたとしても食べないけど。
そもそもな話、水兵も海人なのだ。
当たり前ではあるけど、私達の間でも共食いをする事は禁忌だ。
私はそこまでしないけど、ユキさんやシャレオさんなんかは、海人を使った料理を出されたりしたら、間違いなく怒り狂って主席の人を襲ってしまうだろう。
ここに、あの人達がいなくてよかった。
わかってはいたことだけど、陸と海では文化が違う。
それを、改めて実感させられた。
食事が終わると、龍神さんが声をかけてきた。
「アレイ、なんでミコリーリョを食べなかったんだ?」
ミコリーリョとは、丁度さっきの私が食べれなかった料理の名前。
川人のむね肉をお湯に通し、野菜と一緒に和えたものだというが…
「…え?」
「いや、あれはみんな好きな料理だからな。なんで食べなかったのかなーって思って」
察して欲しいものだ。
私は水兵。海人を使った料理なんか食べれる訳がない。
私が黙り込むと、彼は数秒後にあっ、そうか、とつぶやき、
「…ごめんな。嫌なこと聞いちまったな」
「…そういう事ですよ」
旅立つ前に、この集落の長を訪ねるといいと言われたので、長がいるという場所へ向かった。
そこは集落の外れ、切り立った崖の近くに建てられた小屋だった。
ドアを恐る恐る開けると、そこには青い髪の異人が後ろを向いて座っていた。
「入りなさい」
その声を聞いて驚いた。
それは、見た限りでは髪の長い男性なのに、声は女性のものだったからだ。
「お邪魔します…」
彼?彼女?は異様なオーラを放っており、只者ではないと感じさせられる。
「あんたが、この集落の長か?」
龍神さんの問いに、それはこう答えた。
「いかにも、私がこの集落の長。
名をデルハ、姓をゼス」
独特な喋り方に困惑したが、龍神さんがフォローしてくれた。
「は、あんたはデルハってのか。
てかその喋り方…もしかしてペルソナか?」
「そう。私は、この集落で唯一のペルソナ…」
そして振り返ったその姿に驚いた。
仮面を外している上に、ちゃんと人型の肉体があるのだ。
もちろん、顔もある。
その顔は…とても美しい、美青年と呼ぶに相応しいものだった。
「ペルソナ…ねえ。マスカーの上位種族が、なんでここにいるんだ?」
「この集落は私の故郷。そして、以前まで主がおらず統制の取れない状態になっていた。
それ故、私がここの長を務めている」
そういう事か。
しかし、マスカーとほぼ同じフォルムをしているのに肉体があるというのは何か、変な感じがする。
「なるほど。てか、こんなこと聞くのもなんだが、あんたは男なのか?女なのか?」
無礼な質問だとは思う…けど、私も気になっていた。
「私は…」
デルハは、髪をかきあげて言った。
「私はどちらかと言えば女。しかし、体は男…」
「…どういう事だ?」
「私達は、仮面に宿る魔魂を核とする異人。仮面を中心として生き、繁殖する。肉体は、弱点を隠すために得たかりそめの物に過ぎない。
私達にとって、性別は無意味。肉体と魂の性が異なる事はザラにある…」
何を言ってるのかよくわからないけど、つまり性別があってないようなものだということだろうか。
確かに仮面が本体なら、繁殖に性別は必要ないだろうから、そういう事なのであれば納得しなくもないが。
というか、マスカーは上位種になると肉体を持つようになるのか。
「えーと、つまり性別っていう概念そのものがあってないようなもんだってことでいいか?」
「その理解でいい。
それより、君たちがここに来てくれてよかった。
ちょうど、君たちに言いたい事があった」
「何だ?」
デルハは、神妙な面持ちで言い放った。
「君たちの仲間に、危険が迫っている」
異人詳細解説 マスカー編
マスカーとは、特有の文様が描かれた仮面(正確には仮面に宿る魂)を本体とする霊体系の異人。
仮面を被り、ローブやワンピース、ドレスなどで全身をすっぽり覆った人の形をしているが、実際には肉体を持たないためその下には何もなく、見方によっては不気味にも感じられる姿をしている。
その外見故に祈祷師などと誤認されたり、不気味がられたりする事が多いが、祈祷師とは無縁の種族であり、他種族のいない森や高地などで独自の社会を築いて生活する大人しい種族。
面倒見が良い者が多いとされ、中には人間や術士、防人(特に子供)を数年から数十年の間守っている者がいるという報告もある。
仮面に宿った魂が本体であるため寿命はないが、仮面を破壊されたり魂を抜き取られたりすると死亡する。
数百年の年月を生き、多くの異種族と交流したものはペルソナと呼ばれる上位種に昇格する事がある。
異人・ペルソナ
様々な文様が入った仮面を身に着けたマスカーの上位種族。マスカー同様仮面が本体だが、マスカーと異なり人間に近い形の肉体を持つ。
また、性別という概念がうやむやで、肉体は男性でも中身は女性だったり、その逆ということもある。
マスカーとは別の社会を構築して生活しているが、マスカーの集落にリーダーとして参加している事もある。