黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
「それは、一体どういう意味ですか?」
「俺達はここに来るまでに、一人仲間とはぐれたんだが…そいつの事か?」
デルハは頷いた。
「彼は、ある遺跡に住み着く不死者に捕らえられている。
今はどうにか脱走して抵抗しているが、長くは持たない」
不死者、とはすなわちアンデッドの事だ。
「不死者に…!その遺跡は、どこに!?」
「裏の崖を飛び降りればすぐにつく。ただし…」
デルハは、私達をぎらりと光る目で見てきた。
「この崖は、飛び降りるには勇気と覚悟が必要。
資格があれば、飛び降りた先は目的の地。
資格が無ければ、飛び降りた先には死あるのみ」
正直意味がわからない。
でも、ここで引く訳にはいかない。
「そこの崖、だな?よし、行くぞアレイ!」
彼にならい、私も小屋を飛び出した。
その崖は、下が黒い霧に覆われていて見えなかった。
「なるほどな…」
龍神さんは、私の方を見て念を押してきた。
「わかってるよな?」
「はい!」
そして、私達は崖から飛び降りた。
落ちた先は、灰色の石レンガをベースに作られた遺跡だった。
「アレイ、大丈夫か…?」
「え、ええ…」
不思議な事に、落下の衝撃はまったくなかった。
上を見上げると、普通にきれいな青空が広がっていた。
「ワープしてきたって感じですね」
「ああ。…俺達には資格があったんだな。まず、マリルを探そう!」
遺跡の入口らしき扉の前には、先住民風の格好に槍を持ったエスケルがいた。
「[スレイブレイト]」
魔弾をぶつけると、一撃で粉砕出来た。
エスケルは骨のアンデッドで、矢や槍、剣の攻撃は効きづらい。
なので、ここでは必然的に術がメインとなりそうだ。
覗いてみた感じ、遺跡の中は真っ暗だった。
そこで、まずは今しがた倒したエスケルの骨の中から手ごろなものを取り出し、枯れ草を巻き付けた。
次に、近くに生えていた松の木に傷をつけ、そこから垂れる樹液をからめて火をつけた。
「松明なんて、久しぶりに持ちました…」
「まあそうだろうな。けど、俺は今まで何回もこいつにお世話になってきたぜ」
「え、そうなんですか?」
「冒険は何回もしてきたし、仕事でも何かと使う機会があるからな」
そう言われると、妙に納得した。
この火を見ていると、なぜだか懐かしい気分になる。
こんな経験、したことないんだけどなあ。
少し進むと、盾と槍を持ったエスケルが2体現れた。
両方とも突っ込んできたので、足を撃って転ばせつつ魔弾で倒す。
あちこちが崩れていたり大きな植物の根などで塞がっていたりして、なかなか思うように進めない。
視界が悪いのも相まって、何度か転びそうになった。
そして、何度もエスケルが現れては襲いかかってくる。
でも、大した問題じゃない。
しばらく進むと、広い部屋に出た。
部屋の中央の天井には一つの穴が空いていて、そこから日光が差し込んでくる。
そしてその光に照らされ、立っていたのは…
「マリル!」
彼は、松明の明かりでこっちに気づいたようだった。
「…!あんたら!よかった、無事だったんだな!」
「そっちもな。さあ、早くここを出よう!」
「いや、それがな…」
彼は、何やら渋っているようだった。
「どうした?」
「奴らから逃げる途中で、大切なものを落としてしまったんだ。取りにいかないと!」
「大切なもの…?」
「ああ…あれはどうしても捨てられないんだ、悪いけど取りに行かせてくれ!」
「わかった。それはどこにある?」
「逃げてきたのは…こっちだ!」
マリルについていくと、途中の通路に剣を持ったエスケルが大勢現れた。
私が倒そうとしたら、マリルが爪で片付けてくれた。
爪の使い手は久しぶりに見た。
爪という武器種は、細かく分けると2種類あるけど、彼のは腕につけてそのまま振り回すタイプのものみたいだ。
そしてしばらく走って…
「あった!」
彼が、モノを見つけたようだ。
それは、緑色の石を加工したもののようだった。
「それがお探しものか?」
「ああ、見つかってよかった。さあ、すぐに脱出しよう!」
とはいえ、ここは結構遺跡の深い所だ。
「ここから戻るのは大変そうですね…」
「いや、そんな事はないよ」
マリルは、先に鉤爪のついたロープを取り出した。
それを見て、龍神さんはにわかに微笑んだ。
「お、用意がいいな」
私達は彼に掴まる。
そして、彼は鉤爪を天井めがけて放り投げた。
「ふうー、脱出できたな」
「まさか、あなたが抜け出しの紐を持ってたなんてね」
抜け出しの紐は、ダンジョンや建物などを抜け出してその入口に戻る事が出来る魔法道具。
安価で店売りされてるし、作るのも割と簡単な、冒険者や探検家の必須アイテムだ。
「本当は捕まってどうしようもない時に使うものなんだけどな」
「ま、いいだろ。時短になるし、何よりそんな貴重なものでもない」
「まあ、そうだな。てか、もしかして僕がここにいるってわかってたのか?」
「ああ。マスカーの集落にいたペルソナから聞いてね」
「ペルソナ…ああ、デルハか。まったく世話好きな奴だ」
彼が、デルハを知っているのは意外だった。
「あの人を知ってるの?」
「うん…今まで何回か、あそこに行ったことがあるからね。そもそも、僕らとマスカーは遠い親戚だし」
そう言えばそうだ。
白水兵は殺人者の仲間。
そして殺人者は、マスカーと共に同じ「ジョーカー」という種族から血を分けた種族だ。
「そうだな。じゃ、こっちからも質問させてもらうが…
さっきの大切なもの、って結局なんなんだ?」
「あ、これね」
マリルは、例の加工された石を取り出した。
「これは、昔アリクから貰ったものでね。僕の魔力を高めてくれる効果があるんだ」
「なるほど。こいつと同じようなもんか」
星気霊廟で手に入れた、銀色の魔力石。
それを彼が取り出すと、マリルは顔色を変えた。
「そ、それは銀月の石じゃないか!なんであんたが持ってるんだ!?」
「星気霊廟の試練で手に入れた。知ってるのか?」
「知ってるも何も…てか、それを持ってるってことは…あそこの試練を乗り越えたのか!?」
「ああ」
「マジか…すげえ。あの試練をクリアできる奴がいたなんて…」
「それより、なんでこれがあそこでの試練の報酬だってわかったんだ?」
「いや、あんた知らないのか?それは生の始祖が残した「始祖の七つ道具」って言われる物の一つ、銀月の石。生の始祖が使ってたらしい魔力石だ。
もし手に入れれたら、最強の月術士になれる、なんて言わる代物なんだぜ!」
「ほう、こいつがねぇ…」
彼は、石をまじまじと見つめた。
「ん?良く見たら何か、文字が刻まれてるな」
「本当か!?」
「小さすぎるな、拡大してみよう。[満月の鏡]」
龍神さんが月術を唱えると、空中に石の拡大映像が映し出された。
それを見ると、確かに何か刻まれている。
「何だ…なんて書いてあるんだ?」
「わからんな…」
二人は困惑しているようだけど、私にはわかる。
ニーム手稿の時と同じく、読める…というか、なんとなくわかる、という感じだけど。
「読める…」
「え?」
「私には、この文字が読める…」
「本当か!」
「教えてくれ、なんて書いてあるんだ!?」
「『私の・・・、不死者・・・。
・・・力は・・・。・・・汝の心・・・、
・・なもの・・・・か。
忘・・るな、・・・は、・・・に・・・・・事を』」
二人は首をかしげた。
「ん?意味わかんないぞ?」
「なんだ、切れ切れに書かれてる感じか?」
「はい。ニーム手稿の時とは…」
ここで、思い出した。
モニン神殿で見た、ニーム手稿。
あれの内容、読めなかったんじゃない。
読めたけど、とても口に出せなかったんだ。
あの書物は、いわば予言書。
そして、あの時見たページに書かれていたのは…。