黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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詩人

「これは?」

 

「始祖の七つ道具の一つ、陰の手です。シエラ様は、それを篭手として装備していたと聞きす」

 

「篭手…」

恐る恐るはめてみると、ぴったりはまった。

この篭手からは、何かの魔力を感じる。

「これには、何か特殊な効果があるんですか?」

 

「詳しくは存じませんが、「手数を増やす」事ができると言われています。

以前、別の大陸の大司祭様から預かったのです。いつか"生き残った妹"が現れたら、これを渡すようにと」

 

「へえ…アレイ、どうだ?」

 

「どうって…」

これは見た限り、魔力がこもっているだけの普通の篭手だ。

手数を増やす、ってどういう事だろう。

 

「ま、今は何も起こらないだけかも知れないな。

シエラの持ち物なら、なんか効果あるだろ」

 

「では、私はこれで。…あっ、そうそう」

サリスさんは、去り際に振り向いて龍神さんに杖を向けた。

 

「騎士団からの通達は承っていますが…改めて言っておきます。

町や都市及びその近隣エリアで、無用の殺傷はくれぐれもしないように。

万一これを侵した場合は、速やかに捕縛します」

 

「捕縛…って、じゃあなんだ、僕らずっと監視されてるのかよ」

 

「そう思ってもらって結構です」

 

「いやだなあ…」

すると、サリスさんは厳しい顔をした。

「当然のことでしょう。国の領地内で殺人者を自由にさせるのだから。

しかも、白水兵だけでなく手配中の殺人鬼までいる。

それも、私達にとって極めて重要な方と一緒に。

…言っておきますが、私もあなた達を信用してなどいません。少しでも妙な真似をすれば、すぐに捕らえて処刑者の所へ送りますからね」

 

「あー、そうかいそうかい。そりゃ恐ろしいな」

龍神さん…サリスさんが怖いのか、バカにしてるのかどっちなんだろう。

 

「あなた…死ぬのが怖くないと言うのですか?」

 

「ああ別に。けどな、志半ばで死ぬのはごめんだな」

 

「僕も同意だ。それに、僕には助けたい人がいる。

彼女を助けるまで、死んでなんかおれないよ」

マリルの決意の台詞を聞いて、サリスさんはため息をついた。

 

「助けたい人…ですか。殺人者というものは、なぜ同族以外を助けようという発想に至らないのでしょうか」

 

「おいおい、今こうして至ってるじゃんか」

龍神さんの言葉を聞き、サリスさんは再び彼を睨んだ。

 

「…はあ。とにかく、もう行って結構です。

アレイさん、どうかご無事で」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

 

 

町を出てすぐの所の左側の岩に腰掛けた男性がいて、私達に話しかけてきた。

 

「失礼ながら、旅のお方ですか?」

 

「ああ。あんたは?」

 

「私は…旅の詩人です」

 

詩人なんて初めて見た。

少なくとも種族としては。

 

「詩人か…でもなんで町の外に?」

 

「ここの方が、様々なものを見ることが出来ますから」

 

「異形とかに襲われないか?」

 

「大丈夫ですよ。私とて異人、最低限の自衛はできますからね」

 

「そっか。ならいいんだけど」

 

「それより、一曲いかがですか?」

 

「どんな詩があるんだ?」

 

「そうですね…八大再生者の一人、儡乃尚佗の詩なんてどうでしょう?」

 

「尚佗の?ぜひ聞かせてくれ」

マリルは尚佗のことをよく知らないのかもしれない。

 

「では…」

詩人はフィドルを取り出した。

マーシィもそうだけど、詩人はフィドルを持ってるものなのだろうか。

 

「静かなるカマールの空。

そこに浮かぶは雷雲まといし古の亡国。

そこに住まうは死人従えし不死者の帝。

彼はまだ見ぬものを求める探求家であり、またかつての探求者であった。

彼の究めに参加することなかれ、帝の雷に打たれることなかれ…」

 

当たり前かもしれないけど、マーシィの詩と雰囲気が似てるような気がする。

 

「へえ、なかなかいい詩じゃないか。

てか、カマール…ってことは、尚佗って本当にこのあたりにいたんだな」

 

「ええ。彼は、このカマールの地にかつて栄えていたクルイア帝国の遺跡をまるごと空に浮かせて、一つの国を作りました。

そしてそこを拠点として、各地の人々を脅かしたのです」

 

「尚佗の話は聞いたことあるよ。でも、どんな再生者だったのかよく知らないな」

これには、龍神さんが回答してくれた。

「奴は電と薙刀を操る再生者だ。ノワールに来てからは探求者になったらしいが、元は俺と同じ、人間界の人間だ」

 

「え、あいつ人間界から来た奴だったのか?」

 

「ああ。転移か転生かは知らんがな。

あいつは元々、俺の知り合いだったんだ。ある意味でライバルみたいなものだったけどな。

でもまあ、賢いし根はいい奴だったのは間違いない。

なんで再生者なんかになったのか、俺には理解できんよ」

 

知り合い…って。

生きてた時代が違いすぎると思うのだけど。

 

「じゃ、あいつがなんで人間をおもちゃにしてたのかもわかるか?」

 

「いや、そこまでは。ただまあ、あいつは科学とかに興味があるみたいだったからな…思い当たる節が全くない訳でもない」

 

「探求者…か」

私はそうつぶやいた。

探求者は人間から分化する種族の一つで、まだ見ぬものを求め、研究や学問に身を投じると言われる。

最終的には、冒険者や巡り人という異人になるらしい。

 

尚佗もかつての私の祖先のように、順調に昇格していけばよかったのに。

いや…でも、結果的にはむしろ彼が探求者で終わってよかったのかもしれない。

上位の種族がアンデッドになれば、それだけ危険度が増す。

 

「所でお嬢さん、あなたは水兵さんですよね?」

 

「ええ。レークという町の所属です」

 

「レークですか。私も行った事がありますが、良い所ですよね」

 

「ありがとうございます」

 

「レーク…と言えば、先日気になる話を聞きました。

なんでも、レークの近くの町が異形に占拠されたとか…」

 

その言葉を聞いた途端、私は焦った。

「本当ですか!?」

 

「聞いた話、ですが…」

 

「わかりました!龍神さん、マリル!すぐに向かいましょう!」

 

「でも、レークの近くの町ってだけじゃ…」

 

「恐らく、アルノだと思うの。マリルがアリクさんのおおよその居場所として感じた場所とも重なるわ」

 

「アルノか。確かにあそこならレークのすぐ近くだな。

よし、行こう!」

 

「ちょっと待ってよ、ここからどうやって向かうつもりだ?」

 

「これを使うのよ」

マリルに、舵輪が描かれたバッジを見せる。

「これは水兵の紋章(セイマーエスブル)と言って、要はワープ装置。これを使えばいつでもレークに戻れるの」

 

「そうか。なら話が早いな」

 

「ええ。さあ、行きますよ」

 

バッジの絵柄に触れ、レークへワープする。

 




世界観・七大再生者
かつて死の始祖により生み出された7体の高位のアンデッドの総称。
それぞれが光と黒以外の各属性を司る。
約2000年周期で起こる復活の儀の度に一人ずつ、必ず「忌み子」と呼ばれる異人から現れ、最初に生まれた再生者である王典の時代から数えて12000年もの間、死の始祖と共に大陸各地で暴れまわり、恐怖政治を強いた。
しかし、八人目の再生者となるはずだった人間の娘シエラは、死と闇の誘惑をはねのけて生き延びた。
彼女はやがて祈祷師系の最上位種族である陰陽師となり、多くの仲間を得、ついに再生者を全て倒し、東ジークのあちこちに封印した。
そして、倒し損ねた死の始祖を東ジーク北東の枯れた地に追いやった、とされる。

異人・詩人
芸者の仲間に分類される異人。
世界各地をまわり、ゆく先々で情報を集めながら様々な詩を作り、詠う。
その性質上、様々な国や町の知識を持っている。
戦闘では、フィドルや剣などで戦う事が多い。
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