黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
「…やったのか?」
マリルの台詞で不安になるけど、大丈夫そうだった。
ラトナさんは、静かに床にふしていた。
「龍神さん…!
一体、何をしたんですか?ラトナさんの攻撃をあそこまで激しく受けておいて、切り返すなんて…」
「簡単な事だ。興奮してる奴は、攻撃にだけ目がいって冷静な判断ができなくなる。
プライドが高い奴は、特にな」
…そういう事か。
確かに、私も興奮すると周りが見えなくなる。
彼はあくまでも冷静なままでいておいて、そこを突くのか。
「ひとまずやったね。これで万事解決だ」
「そう…ね。…ラトナ、さん…」
異形になったとはいえ、私の最初の指導者だった人だ。
この人には、色々と恩がある。
かつて、洗礼を受けて間もなかった私の担当者になり、色々と教えてくれた人。
綺麗な赤色の髪と青い瞳を持った、私よりずっと上の階級の人。
それが、今は血に塗れた異形の死体となっている。
…あら?
よく見たら、何か変だ。
これは、もしかして…。
と、すれば、まだ手がある。
ラトナさんを、元に戻せるかも知れない。
「アレイ…」
マリルが同情するように言ってきたけど、それで何か変わる訳でもない。
「行こう」
龍神さんが歩き出そうとした。
でも、私は…。
「…ん?アレイ、何するつもりだ?」
私は錫杖を出し、地面に突き立てる。
そして目を閉じ、術を唱える。
「陽道 [破呪の日光]」
◆
アレイが錫杖を出したかと思えば、地面に突き刺して術を唱えた。
すると、ラトナの真上からまばゆい太陽?の光が飛んできて、それを浴びた異形の体がみるみる元の姿に戻ってゆく。
そして光が消えた時、異形は水兵の姿に戻っていた。
それは赤い長髪に緑の帯が入った帽子を被り、緑の水兵服を着ている。
「な…異形が、異人に戻った…!?」
マリルが驚くのももっともだ。
異人が異形になる事は珍しくないが、逆は珍しい。
それには異形の本能に呑まれて理性を失うから、というのもあるが、一番は異形になった奴を元に戻すのが魔法学的に難しい、というのが理由だ。
それを破れるとしたら、相当上位の種族でなければならない。
それこそ司祭とか魔王とか、陰陽師とか…。
ん?そういや、アレイはまたあの錫杖を出してたな。
とすると、やはりアレイは意図して陰陽師の術を使えるのか?
考えていても仕方ないので聞いてみる。
「アレイ、君はやっぱり陰陽道を使えるのか?」
「いえ、意図しては使えません。今のは…ラトナさんを助けようと思って…」
「え?」
「ラトナさんは、死んではいなかったんです。辛うじて息がありました。なので、どうにか助けたい、水兵に戻してあげたい…と強く願ったら、自然と体が動いて…」
なるほど、そのパターンか。
つまりは、アレイは自覚がないだけで、陰陽師の力を持っているのだ。
まあ、今更であるかもしれない。
今までにも再生者を直接封印したり、地鬼の館で扉のロックを外したりと、おおよそ普通の水兵にはできない事をやってのけてはいたしな。
となると、課題と疑問が生まれる。
課題は、どうすれば力を任意で使えるようになるか。
疑問は、どうして力を任意で使う事ができないのか。
そう言えば、アレイは過去を見る能力を持っているが、自分には使えないと言っていた。
それも、何か関係があるのだろうか。
「んんっ…」
と、ここで水兵が立ち上がってきた。
「!ラトナさん!」
「…アレイ?私は、一体…?」
「よかった…よかったです!」
「な、なに?てか、これどういう状況?」
この感じだと、異形化していた間の記憶はなさそうだ。
「ラトナさん、さっきまでリヴィーになっていたんです。
それで私達と戦って、私が元に戻したんです」
ラトナは、その言葉に驚いたようだった。
まあそりゃそうか。
「え?…あ、そう言えば!…それで、あなたが私を異形から戻してくれたの?」
「はい。この錫杖の力で」
「錫杖…って、あなたいつの間にそんなものを?」
「話せば長いんですが…とにかく、私はこれを使ってラトナさんを元に戻しました。
彼ら二人は、異形になっていたラトナさんを倒して静めてくれた人達です」
ここで、ラトナはこちらを見る。
「あなた達が…。ありがとうね。
私は…あっ!そうだ!」
「どうした?」
「手短に話すわね。アレイから聞いたかも知れないけど、私はラトナ・ニュート、ここのニサに駐在してる水兵。
で、ある人から、アルノが異形に乗っ取られたって聞いてね、奴らが町に入ってこないよう、ここの警備を固めていたの。
そしたら、変な異形が来てね。何故か攻撃が通らなくて、襲われて…意識を失ってしまったの。
まさか、異形にされるなんて思ってもなかったけど…助けてくれたのには感謝するわ」
「助けたのはアレイだ。
それより、リヴィーになってた間の事は覚えてないか?」
「…ええ、申し訳ないけど。
てか、白水兵も一緒にいるなんてね…」
「なんだ、僕が怖いのか?」
「いいえ。ただ、この町から早々に去った方がいいと思うわよ。あなた達には、あまり良い印象はないからね」
「そうか…まあ仕方ないな。
あ、そうだ、アルノって町が異形に乗っ取られたって話は誰から聞いたんだ?」
「あー、それなんだけどね…」
ラトナは、返答に困ったようだった。
「ラトナさん?」
「私と同じ、管理職の水兵なのは間違いないだろうけど、何と言うか…見たことない人だったのよね。
銀髪で、背が高くて…なんか、どことなくユキさんに似てたわ」
ユキに?
とすると、そいつはユキの子供か何かか?
…ダメだ、わけがわからなくなる。
ユキに娘なんていないだろうし、いたとしても大きくはあるまい。
となると、一体誰だ?
可能性があるとすれば、朔矢がそれっぽい姿に化けている事が考えられるが…。
「ユキさんに…ですか。でも、銀髪で背が高い人なんて管理者にいましたっけ?」
「私もそんな人知らないし、彼女の顔も今までに見たことない。でも、あの服は間違いなく本物だった。
あの人、一体何者だったのかしら」
「…。とにかく、考えていても仕方ありません。
アルノに向かいましょう」
「本気なの?…なら、気をつけてね。
あなたは見違えるほど強くなったわ…精神的にも」
「ラトナさん…?私、別にラトナさんとやり合っては…」
「それくらいわかるわよ。殺人鬼と一緒にいたんなら、なおさらね。
…ほら、行ってきなさい。そして、帰ってきなさい」
「…!」
アレイは、ラトナに礼をした。
アルノへの道中では、もう山賊や異形やアンデッドは現れなかった。
よくわからんが、白水兵がいるからだろうか。
白水兵は「偽水兵」として有名で、殺人者と同じ嫌われ者の種族だ。
なもんで、奴らも寄って来ないのだろう。
そして、アルノに到着した…