黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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お楽しみ

「え…!?」

アレイが驚きの声を上げる。

そして、俺とマリルも凍りつく。

 

「あ…アリク…!?」

なんと、俺達の目の間に現れたのはアリクだった。

アリクだった…のだが、白水兵の服ではなく白い網目のレオタードを着込んでいた。

いつもは結んでいる髪を下ろしており、その色もまた変化して、元の白い色から薄い緑になっていた。

頭には、いつもの白水兵帽のかわりに白いカチューシャをつけている。

 

「あら、誰かと思えば。

あんた達がここにくるなんて意外ねえ。

でもまあ、いいわよ?ここに来たからには、思う存分楽しませてあげるから」

 

アリクは、そう言ってにんまりと笑った。

よく見れば、瞳の色も白から赤に変化している。両手両足が綺麗に見えるレオタード姿なのもあって、なんとも妖艶な出で立ちになっている。

「あ、アリク…!

やめろ…君は、そんな軽い女じゃなかっただろ…!」

 

マリルの悲しげな声に、アリクは冷淡にもこう答えた。

「マリル…何もわかってないわね。アタシは、元々こういう女よ」

 

何気に一人称も変化している。

精神力の強い白水兵をここまでさせるとは…ここのボスは、一体どんなやつなんだろうか。

 

「アリク…!」

 

「アタシはね、もう身も心もすっかり変わったの。試合に勝ってここに来た奴に、最高の報酬を与える存在に生まれ変わったのよ」

 

「う、生まれ変わった…?」

その言葉で、俺は全てを察した。

 

「そう…。この町を作られた、偉大なお方…異形魔王バジャス様。

アタシは、その忠実なしもべ。

あの方に、半永久的に尽くす異形…

もう、あんたとは違うのよ、アリク」

 

やはりそうだったか。

大方のイメージはできたが、念のためアレイに過去を見せてもらった。

 

アリクは最初、ある目的で一人旅をしていた。

そしてその途中でこの町に立ち寄ったが、その時にはすでに町が異形に占拠されつつあった。

アリクはそれを阻止するために町に乗り込んだが、この町のボスであろう異形に術をかけられ、異形にされてしまった…ということらしい。

 

「…」

アレイや俺よりも早く、そして強く、マリルが悲しみの声をあげた。

 

「そんな…!じゃあアリク、君はもう戻らないのか…!?」

 

「そうね、戻る気なんてないわ。

だって、ここにいたほうが断然楽しいもの。

試合で優勝して、ノコノコ来た男を堕としてペットにする。それが、アタシの今の一番の楽しみだもの」

 

「…!」

身構えるマリルに、アリクは歩み寄る。

「さあ…いらっしゃい。あんた達も遊びたいでしょ?

あんな小娘より、アタシとやった方がよっぽど楽しいわよ?」

 

文句を言うアレイの方を見て、アリクはため息をついた。

「あんた、全然ダメね」

 

「それは、どういう…」

 

「女としての格好がなってない、って意味よ。

脚と顔はまだしも、そんな体じゃ誰も寄ってこないわよ。背も低いし、胸も平べったいし。

そんなんで、よく水兵やってこれたわね」

 

「な、何ですって…!」

珍しくアレイが怒っているが、まあ仕方ないだろう。

残念だが、俺からみても今アリクが言ったことはもれなく当たっている。

 

「あら、何?まさかこんな事でキレてるの?」

 

「怒って当たり前でしょ…!」

もしかして、気にしてたのか?

アレイも俺と同じで、異性に興味がないんだと思ってたが。

 

…いや、よく考えれば当たり前か。

本人は一人の女として、それなりに気にしていたのだろう。

まして、アレイの周りには女しかいなかった。

周りの成りと本人の成りには、相応の差がある。彼女らと比べた時に、劣等感を感じてしまうのは仕方あるまい。

 

「気にしてたの?なら変えるよう努力すればいいじゃない」

 

「…!!」

アレイは顔を真っ赤にし、拳を握って歯ぎしりをして震えた。

 

こりゃ、かなり怒ってるな。

でも…なんかちょっと、かわいげもある。

最も、だからといって意図して怒らせたいとは思わないが。

 

「ま、正直女には興味ないからいいんだけどね。

それより、龍神とマリル…だったわね。あんた達は、どんな遊びがお好みなのかしら?」

 

答えないでいると、アリクは腕組みをして、

「じゃ、質問を変えましょう。あんた達は、上と下、どっちが好き?」

と聞いてきた。

 

「そ…そうだな…」

かなり攻めた質問である上、えらくリアクションに困る。

まともに答えたら、たぶんアレイに殺される。 

いや、そうでなくても、マリルにぶちのめされかねない。

 

「ぼ…僕は下がいいかな…」

意味わかって言ってるのか、と突っ込みたくなった。

 

「そう。結構攻めるのね」

それはお前もだろうが。

 

「それで?あんたはどっちがいいのよ?」

 

「あ…俺はな…」

 

背後からものすごい視線を感じる。

正直、アリクよりアレイの方が怖い。

 

そうだな…

とりあえず、ここは無難に答えよう。

「上…だな」

 

そう答えた瞬間は、生きた心地がしなかった。

 

 

 

         ◇

 

 

 

 

アリクさん…いや、異形の言葉に、物凄く腹が立った。

私は胸も小さいし、背も低い…それはわかってるのよ。

このところ知り合いの女性に会わなかったし、言われないから忘れかけてたのに…。

 

てか、あんな堂々と言ってくれた奴は初めてだわ。

同じレークの水兵でさえ、気を遣ってくれたのに。

 

私をバカにしてくれた上、龍神さん達にふざけた質問をした事で、私の中の何かが切れた。

 

 

 

決めた。

あいつ、絶対に許さない。

 

私を女として貶した上、龍神さん達に下劣極まりない質問をし、汚い返答をさせたのだ。

元が誰だったとかは関係なく、ただ、叩き潰す。

それだけだ。

 

しかも、彼らの答えを聞いた異形は、「それじゃ、楽しみましょう」とか言ってマリルにキスをし始めた。

 

体が芯から震える。

あんな下品で不快な異形が、私と共に旅をしてる仲間に手を出すなんて絶対に許せない。

 

私は息を大きく吸い込み、怒りを込めて術を唱えた。

「氷法 [白銀河]」

 

異形を雪と氷に閉じ込め、マリルからその汚らわしい手と唇を離させた。

あえて弱めの術にしたのは、マリルや龍神さんを巻き込まないため。

そして、この異形を私が直接蹴飛ばすためだ。

 

残念だけど、私には腕力はない。

だから、殴らずに蹴り飛ばす。

 

 

蹴り飛ばしてもなお、異形はその気持ち悪い表情を変えなかった。

 

「荒っぽいわねえ、もう…。アタシはこれからこの二人と楽しむからさ、邪魔しないでもらえる?」

 

「ああそう。なら悪かったわね!

残念だけど、あんたみたいなのに彼らを渡したりはしない!」

 

弓を構えたが、向こうは私には全く興味がないのか、今度は龍神さんを誘っていた。

「ほら…好きにしてくれていいのよ?

長旅で疲れた体を、たっぷり癒やしてあげる…」

 

彼が困惑しているのを見て、私は我慢の限界を迎えた。

 

 

「…やめなさい!!」

私は叫びを上げ、その胸に向けて矢を放った。

もちろん、怒りを込めた矢だ。

ちょっと嫉妬の感情もあったけど。

 

 

異形は矢を胸に受けた事が気に障ったのか、途端に私に殺意の目を向けてきた。

 

「アタシに傷をつける小娘には、お仕置きが必要ねえ…!」

 

もちろん龍神さん達も出てきた。

言葉には出さないけど、心の中で二人に言った。

 

 

この汚れた異形を、私達の手で倒しましょう、と。

 

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