黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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海賊の入港

灯台を出た後は港へ向かった。

実は、今日は海賊の入港日。

せっかくなので、龍神さんに見せようと思ったのだ。

 

海賊は水守人と探求者の混血の種族。

海に浮かぶ船を住処とし、各地の海を回って貴重な財宝を探し回る、海人の中の変わり者だ。

 

人間や陸の異人の海賊もいるけど、商業船なんかを襲って略奪と殺戮をするだけの、はっきり言って山賊と変わりない集団だ。

でも、幸いなことにそういう「陸の海賊」はこのあたりの海域にはいない。

 

私達と同じ海人の血を持つ「海の海賊」。

彼らは私達を信頼し、尊敬してくれる。

故に、こうして定期的に港に受け入れているのだ。

 

 

 

「港に来たはいいが…何するつもりだ?」

 

「もうすぐわかります。海を見ていて下さい」

 

しばらくして、水平線に一隻の帆船が現れた。

 

「なんだ?商業船か?」

 

「いいえ。あれは…海賊船です」

 

「海賊船…あれが?」

 

「はい。私達と同じ海人の海賊、海の海賊です」

 

船が港に入り、桟橋の横で止まる。

降りてきた乗組員達を、みんなは樽や大きな木箱と共に迎える。

 

「あ、来ました!龍神さん、行きましょう!」

 

私は雪の舞う中、彼の手を引いて船へ向かった。

 

 

 

私達にとって、海の海賊船はある種の貿易船のようなもの。

彼らは、価値の低くなった財宝や船旅の途中に出たゴミなどを置いていく。

そして、私達は彼らに食糧や武器、予備の帆やロープなどを差し出す。

 

彼らはもう必要のないものを置いていく訳だけど、それらはどれも私達にとって価値のあるものばかり。

朽ち果てたり壊れたりした金や銀の財宝は、溶かせば再利用できるし、ゴミとして出される貝殻や壊れた樽は砕いたり焼いたりして肥料にできる。

いずれも、私達が自力で集めようとするとなかなかに手間のかかるものばかりだ。

その見返りとして、私達は彼らに食べ物や水、砲弾などを差し出したり、船の修理を受け持ったりするのだ。

 

1週間から2週間の間町に滞在する海賊達は、私達にとってはいいお客さんだ。

彼らは活気があり、何かと私達の店を利用してくれる。しかも、旅先の冒険譚や遠い場所で聞いた話を土産話として聞かせてくれる。

女遊びしてばかりの海賊もいるけど、基本的にはたくましく活気のある同胞達だ。

 

「あ、海賊と取引してるのか」

 

「ええ。私達にとっては、沢山のメリットをもたらしてくれるお客さんなんです。

海賊がくるのはここだけではなくて、どこの水兵の町にも海賊は来ますよ」

 

「まさか、水兵の町が海賊の町でもあったとはな…」

 

「そんな変に感じる必要はないですよ。悪い人達じゃないので」

 

「へえ。しかしまあ、立派な船だなあ…」

 

彼らの帆船は、どれもデザインが異なっていて、見ていてなかなか面白い。

私達はここ1000年程の間に船を作るようになったのだけど、その技術や構造は彼らの船を修理させてもらう時に学んだものが大半だ。

 

「やっぱりそう思います?私、いつかこういう船に航海士として乗り込んでみたいんです!」

水兵は貿易船などの船員として雇われる事がある。

その中でも航海士や機関士として船に乗れるのは、何度も船に乗って、相応の経験を積んだ水兵だけだ。

 

私は何回か船に乗った事があるけど、短距離航行船に水夫として乗り込んだ事があるくらいだ。

いつか航海士になって、立派な帆船に乗り込んで、船長の側で他の船員達と共に船旅を楽しみたい、なんて思ってたりもする。

 

私は、人間よりずっと時間がある種族になった。

ならば、この人生のうちに色々と経験しておきたい。

 

―若く健康なうちでないと出来ない事もある。

例え異人になろうと、身体が崩れる時は一瞬なのだ。

 

 

「航海士か…。確かに、ありかもな」

 

龍神さんはあごに手を当て、大きく頷いた。

同時に、彼は何かぶつぶつと喋っていた。

 

 

 

桟橋から程近い所にあるミンロの酒場に向かった。

ここはよく海賊達のたまり場になる場所であり、フィルの勤める店でもある。

 

店に入ると、すぐに所狭しと座った海賊達がお出迎えしてくれた。

 

「お!新しい嬢ちゃんだ!可愛いねぇ!」

 

「あん?なんだ?彼氏持ちか?」

 

「いえ、彼は殺人鬼で…」

 

私がそう言うと、その海賊は驚いた顔をした。

 

「殺人鬼?ってこたぁ何だ…あんたら、まさか例の二人組か!?」

 

「ああそうだ。俺達がその例の二人組って奴だ」

龍神さんが、勝手に言った。

 

「おぉーそうか!そりゃいいな!」

 

「マジかよ…噂の二人組が、こんな所にいたとはなあ!

再生者をぶっ飛ばして歩いてるって話、本当なのか?」

 

「ぶっ飛ばしてる…ってか、まあ倒してるのは確かだな。

王典と楓姫は倒した、んで今は尚佗を倒そうと思ってる」

 

すると、海賊達は一気に騒ぎ出した。

 

「うっは、こりゃすげえ!

星羅こころの妹を連れ回してる殺人鬼、なんてもんが実在したなんて驚きだぜ!」

 

「いやいや、星羅の妹じゃねえだろ!こんな可愛い娘が、あのバケモンの妹なわけがねえ!」

 

「そうだ!てか、この子はたぶん、成りは小せえけどベッドに入りゃでっかくなるタイプだぜ!

水兵なんて、みんなそうだからな!」

 

「星羅こころの妹だろうと、水兵さんにゃ違いねえ!

ここにいるみんなで抱いてやろうぜ!きっと立派に奉仕してくれるぞ!」

 

…みんな下心ばっかりだ。

どうやら、そういう海賊ばかりきてしまったみたい。

私は、例えお金を積まれようと、誰かと関係を持つつもりはないのに…。

 

「…静かに!」

突然、カウンターでグラスを拭いていたフィルが叫んだ。

 

「彼女は男の相手をする事は望まない。

そんなにしたいなら、私が相手してあげる」

 

「え、あんたが?」

 

「なんなら、この店にいる子みんなで相手してあげてもいい。

だから、彼女には手を出さないで」

 

「いいのかい、お嬢ちゃん?」

 

「ええ、私は一晩で5人は相手できるわよ。ここの子はみんな経験があるからね、きっとあなた達を満足させられるわ」

 

「ほう…?それが本当なら、楽しみだな。

お前ら!今日は一晩中楽しめそうだぜ!」

 

「「っしゃー!!」」

 

「船長、どうかあっしを一番…いやいや、二番にしてくだせえ!お願いです!」

 

「そうだな…まあ俺の次ならいいだろう。他に希望がある奴はいるか?」

 

とりあえず、フィルのおかげで海賊達の目線は私から外れた。

フィルは見かけによらず男好きで、すでに誰が父親かわからない子供を2人産んでいる。

正直、普段はだらしない女だと思ってるけど…こういう時は頼りになる。

 

足はともかく、スタイルはあまり良くない私に寄ってくる男性は意外といる。

それは嬉しいんだけど…

私はフィルのような、猥褻な女じゃない。

私の体が目当ての男性は、まっぴらごめんだ。

 

 

店の奥に、一人お酒をあおる女海賊がいた。

彼女は青いバンダナを頭に巻き、赤い上着を着ていた。

「大丈夫?」

 

「え、えぇ…ありがとう」

 

「ごめんね、うちの男達は欲が強くてね。

私がいくら相手しても、足りないって言うのよ…」

 

「いえいえ。男性なんてそんなもんだと思ってるから…」

 

「…本当、ごめんね」

彼女も苦労しているのだろう。

ただ、頭が下がるばかりだ。

 

 

「ところでさ、あなた龍神よね?」

 

「ああ、なぜだ?」

 

「ちょっと旅先で嫌な話を聞いてね…それが、あなたにも関係がありそうな事なのよ」

 

「というと?」

 

「ジヌドに花摩流(げまる)組っているでしょ?あいつらがね、クラン・ザーロンとおっぱじめそうな状況になってるらしいのよ」

 

「本当か!…ったく、世話のかかる奴らだ。

てか、その話どこで聞いた?」

 

「リャスで聞いたわ。あそこにも殺人者はいるからね」

 

「わかった。アレイ、急で悪いが、明日ジヌドに行くぞ」

 

「わ、わかりました…」

 

ジヌドって、確か龍神さんが水兵が人身売買されてるのを見たって言ってた町。

なんか…行きたくない。

 

でも、彼が行くなら私も行く。

彼が一緒なら、きっと大丈夫だ。

 

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