黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
葉持廻の者達が花摩流から盗んだものを全て売りさばき、そのお金を武器に変えたと聞いて、朔矢さんは頭を抱えた。
「最悪…赤のスカイストーン、やっと手に入れたのに…!」
私はそれに反応した。
「やっぱりスカイストーンだったんですね!?」
「ええ…ちょっと訳があってね、この国の城から拝借してきたものだったのよ。
最近見ないなって思ってたら、盗まれてたのね…」
「いや、見ないなって…確認してなかったんですか?」
すると、朔矢さんは一瞬怖い目で私を見て、でもまたすぐに元の目つきに戻った。
「もちろん、確認は気づいた時にしてるわよ…でも、あたしはどうしても何かしら見落としちゃうの。
だから、他の組員にも手伝ってもらって…あっ、そうだ!うちの組員は大丈夫かしら!」
「ああ、みんな大丈夫だと思うぞ。まあ多少の怪我はしたかもしれんが…」
「ならよかった。それで…あれ?何の話してたんだっけ?」
「スカイストーンの…」
「…んだったわ。それでね、あの石はあたし達の集めたものの中でも価値のあるものだったの。
あ、もちろん金になるって意味じゃないわよ。あたしでも、あの石にまつわる話は知ってる…」
正直、ちょっと意外だった。
「あの石が何なのか、ご存知なんですか?」
「ええ。まあ伝説程度に…だけどね。
あれはスカイストーン、再生者尚佗のいる天空帝国に導いてくれるアイテム。けれど、一つでは効果がない。赤、青、黄の3色を全て集めた時、その力が発揮される…。
かつて、生の始祖達はあれらの力を使って尚佗の根城に乗り込み、奴を倒した。でもその後、石はどこかへ飛び散って、バラバラになってしまった…って話よね」
「そうです。実は、そのうちの青はもう私達が持っているんです」
私が青のスカイストーンを見せると、朔矢さんは酷く驚いた顔をした。
「うそ…あたし達が必死で探し回っても見つけれなかったのに…
ま、まあいいわ。それより、フルスの道具屋を詰めましょう。今度はあたしも行くから」
「わかりました。龍神さん、行きましょうか」
「おう」
そして事務所を出ると、なんと兵士に囲まれていた。
「え…?」
「どうしたアレ…おっと、これはこれは…皆さん、お揃いで」
「何よ?…あ、そういうこと」
紫の甲冑を着込んだ兵士が、一歩前に出た。
「花摩流組組長、甘燗朔矢…またも誓約を破ったな?」
「誓約?…ああ、そう言えばしたっけか」
「我々は貴様らが悪さをしないこと、騒ぎを起こさない事を条件に本部の設置を許しているのだと、何度言えば理解するのだ。
なぜ、何度も騒ぎを起こす?」
よく見れば、花摩流の組員たちも全員捕まっていた。
どうやら、さっきの悶着を人に見られて、通報されたらしい。
「騒ぎ…ってほどじゃあないでしょ。これは…ただ…」
「ふん、嘘の上手い殺人鬼でも今度ばかりはお手上げか。
とにかく、此度の貴様の仕業には国王閣下もお怒りだ。連れていけ」
と、ここで兵士は龍神さんの方も見た。
「お前は…」
「んん?まさかノグレからの通達が入っていないので?」
「いや、通達は受けている。だが、朔矢並びに花摩流とつるんでいたのであれば話は別だ。別にどうこうするという訳ではないが、とりあえず連れて行く」
という訳で、私達も連行される事になってしまった。
マトルアの時といい、なんで王国に来る度にこんな目に合うのか。
場内の玉座に引きずりだされた私達…もとい朔矢さんを見て、王は呆れの声を上げた。
「朔矢…貴様は、一体何度捕まれば気がすむのだ。
これで、何度目だと思っている?」
「さあね。そんなの一々数えてらんないわよ」
王に対しても全く態度を変えないあたり、さすがは殺人鬼だ。
「…。とにかく、以前誓約した通り、貴様と組員どもは全員死刑だ」
ここで、すかさず私が口を挟んだ。
「待って下さい!」
王と兵士の視線が、一斉に私に向いた。
「君は…水兵か。ということは、この男は…もしや!」
「あっ、やめて下さい!彼には手を出さないで下さい!」
「…うむ、もちろん。通達を受けているのでな」
よかった…。
心の底から安心した。
「私達の事をご存知なら、話は早いです!朔矢さんは、敵対する組に襲われて抵抗しただけです!どうか、皆さんを解放してあげて下さい!」
「いや、こやつらにはまだ余罪があるのでな」
「えっ…!?」
「一ヶ月ほど前、この城から貴重な宝玉が盗まれたのだ…美しい赤色の宝玉だ。そしてその犯人は、こやつらであるとついさっきわかった所だったのだ!」
すると、朔矢さんが文句を言った。
「盗んで当たり前よ…!あれは、再生者尚佗を倒すためには、どうしても必要なもの。
宝として懐に入れとくなんて、間違ってる!」
「ほう?貴様、スカイストーンの…もとい三聖女の伝説を信じているのか?」
「逆にあんたは信じてないわけ?ならさ…
誰が、どうやって七大再生者を倒したの?
誰が、どうやって死の始祖を封印したの?
誰が、どうやって各地に伝説を残したの?
これらの説明をどうつけるつもりかしら?
答えは簡単…生の始祖は、実在した。この子が、その生き証人よ!」
朔矢さん…。
「この娘が生の始祖の末裔、もとい星羅こころの妹であるという確証はない。
確かに通達にはそうあったが、物証が何もない以上信じる訳にはいかん。そもそも、殺人鬼に連れ回されているような者を信じろと言うのか?」
すると、朔矢さんの真っ黒な瞳に小さな火がついた。
「はあ…何?あんたあたし達の種族だけで判断する訳!?
ならこっちだって!あんた達みたいな騎士とか修道士ってのは、ろくな奴がいない!どいつもこいつも頭が固いわ、古いやり方にこだわるわ、血筋と思考だけで相手を差別するわ!あんた達はうちらを社会のクズだなんだって言うけど、あたしに言わせりゃ、あんた達の方がよっぽど最低な種族よ!!」
殺人鬼は殺人者にも増して感情が乏しいはず。
そんな朔矢さんがここまで怒るなんて、余程思う所があったのだろう。
「何をそんなに昂るのだ…。
貴様は人の道を外れた者、それは違いあるまい。
そんな外道に、そのような事を言われる筋合いは我々にはない」
すると、朔矢さんはますます怒り狂った。
「んだってぇ…!?
今日こそキレたわ、一人残らず惨殺してやる!!
龍神!この縄ぶった斬って!」
「…やめて下さい!」
私が叫び、場を牽制する。
「国王閣下、申し訳ありませんが、私はこれ以上あなた方の争いを見ていられません。
こうしましょう。何か、罪滅ぼしになるような事をご命じ下さい。いかなるものであれ、それを私達三人がこなしてご覧にいれます。
もし、それが叶わなかったときは…どうぞ彼らと一緒に、私も処刑して下さいませ」
「アレイ…!」
龍神さんが声を上げ、朔矢さんが私の方を見た。
もちろん、王と兵士達も目を見開いた。
「本気で言っているのか?」
「はい。遅くなりましたが、私は再生者星羅こころの実妹。アレイ・スターリィと申します。そして、これが証拠です!」
私は帽子を取り、白い髪飾りを取り出す。
これは19年前、姉と再会した時に貰ったもの。
そして…
「おぉ…!」
お姉ちゃんの魂と力が宿る、私の最後の武器だ。
「せ、星羅…こころ…!」
空中に現れたガス状の姉の姿を見て、王は酷く怯えているようだった。
もちろん、兵士達も恐れ慄いていた。
姉は王を睨みつけ、冷酷な表情で鎌を構える。
「や、やめろ…!」
王が目を瞑ったタイミングで、私は髪飾りをしまった。
「これで、信じていただけましたか?」
「あ、あぁ…恐れ入った。わかった、君の申し出を受け入れよう。
丁度、いい話があるのだ…朔矢も、聞いてくれ」
「なによ?」
朔矢さん、まだむくれてる。
まあ、当たり前か。
「じ、実はな。この国の北に小さな洞窟があるのだが、そこに吸血鬼が住みついておってな。昔から、我が国の民が襲われているのだ。
退治しようにも、我々ではどうしようもなくてな…ちょうどよい、お前たちが退治してきてくれんか?
そうすれば、花摩流と水兵の処刑は取りやめよう」
「吸血鬼?」
「ああ…女の…恐らくは姉妹の、二人組の吸血鬼だ。
お前たち、吸血鬼狩りなら殺せるであろう?だから…この通りだ、頼む!」
王に頭を下げられてしまった。
「…わかったよ。二人、で間違いないんだな?」
「うむ…幸いにも、襲われた者が吸血鬼化した事例は今のところないのだ。
だが、このままではいずれ…」
朔矢さんと龍神さんは、何やら顔を見合わせていた。
何か、気づいたのだろうか。
「…わかったわよ。ちゃんとやってくるから、終わってきたらあたし達の事、ちゃんと釈放しなさいよね」
「…約束しよう!さあ、頼んだぞ!」