黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
アレイが空中に映し出したのは、サリスの元で聖道の修行に励む、生前のイゼルの姿。
それは、何やら書物を読んでいるようだった。
「聖魔書を読んでいるみたいですね」
その後、サリスが読書中のイゼルに何か言っているシーンが映った。
音声が入ってないので、何を言ってるかはわからない。
さらにシーンが変わり、杖を構えて呪文を詠唱しているらしいイゼルにサリスが何か言っているシーンや、イゼルを叱責しているらしいシーンなども流れた。
「これが、かつてのサリス司祭とイゼルの日々…」
「見た限り、ごく普通の日々だな」
すると、イゼルが怒りの声をあげた。
「なんで大事な所映さないのよ!」
「大事な所…?」
アレイは無言で手を伸ばし、こう呟いた。
「2人の真実を、私に見せて」
場面は、サリスがイゼルを叱り責める場面に切り替わった。
サリスはかなり怒っていて、イゼルは涙目になっていた。
「これは…」
「そうよ…これが真実!サリス様は、私を怒ってばっかり!サリス様は…」
と、イクアルがイゼルを火の玉に閉じ込めた。
「黙りなさい…」
「なっ…!」
そして、場面はさらに切り替わる。
今度は、今怒られていたイゼルのその後。
イゼルは部屋に戻り、涙を拭いて机上に広げたノートに向かった。
イゼルは、これまでサリスに言われた事や学んだことをすべてノートに書いていたようだ。
正直、勉強熱心なものだ、と関心した。
俺なんて、学校で教師の話を聞きながらノートを取る、という事が出来た試しがないし、まともにノートをつけた覚えもない。
当然、成績はお察しだった。
さて、イゼルはさらに聖魔書を開き、今日やったであろう箇所の復習を始めた。
実に勉強熱心だ。全く、敬服してしまう。
「意外とまじめですね…」
「当たり前よ!私は、どうしてもカラックに…サリス様の後継ぎになりたかったんだもの!
そのためなら、どんな事でもする覚悟があった!
でも…でも!サリス様は、どうあっても私を認めてくれなかった。だから…だから…!」
「さて、それはどうでしょうか」
アレイが、意味深に言った。
「はあ?あんた何言って…!」
「これを」
アレイが次に見せたのは、今映ったイゼルの様子と同じ頃のサリスの様子。
サリスは、手書きの文章が書かれた冊子をパラパラとめくり、時折ため息をついたり唸ったりしながら、それに印をつけたり追記したりしていた。
「これだけでは分かりづらいでしょうから、場面を変えます」
次に映されたのは、サリスが一人で考え事をしている場面。
そして、サリスの考えている事も音声で流れた。
『そろそろ私の後継ぎを決めないと。
でも、誰にしようか…。オームの魔導書を与える事を考えると…やっぱりトーラが妥当かしら』
またイゼルが騒ぎ出したが、それはすぐに止まった。
何故なら、サリスの考慮はまだ終わっていなかったからだ。
『いや、イゼル。彼女には、確かな力がある。
でも、まずはトーラを先に昇格させて、イゼルに関してはしばらく様子を見ましょう。
あの子は優秀。トーラを先に昇格させれば、きっと自身を見直して、課題に気づくはず。時が来たら、これからも心身を錬磨するようにと言い聞かせて、私の後継ぎにしましょう』
「…」
皆が黙り込んだ。
結局、サリスはイゼルをしっかり評価していた。
ただ、イゼルの心の弱さを見抜いて、魔導書を与えず、昇格も見送った。
しかし、それはイゼルが自身の弱みに気づき、成長する事を期待してのことだった。
イゼルはそれらの事情も何も知らずに、勝手にサリスを逆恨みしていたに過ぎなかったのだ。
「これでわかりましたね、イゼル」
サリスが神妙な面持ちで語りだした。
「サリス、様…」
「確かに、私の対応にも問題がありました。しかし、お前にはまだ、欠けているものがあります。それは司祭としての『心』です」
「心…?」
「そう。お前は、確かに魔力や技量、采配は優秀です。でも、お前は力に執着し過ぎている上に、他者と自身を悪い意味で比べる。故にオームを与えず、昇格も見送ったのです」
しかし、とサリスは続ける。
「私は、弟子の中で最もお前が優れている。しかし、最も危険なのもまた、お前であると思っていました。
それ故、お前が心を磨きさえすれば、すぐにでも昇格させるつもりでしたし、いずれは私の後を継がせようと決めていました。
なのに、その事情も知らずにこんな事を…それでは、かつての
「尚佗と同じ?…それは光栄ですわ。私があの方と…
うっ…!!」
イゼルは突然、喉を押さえて苦しみ出した。
見れば、イクアルが手を伸ばしていた。
「半端者の司祭よ…私が鍛えてやろう」
そしてイクアルが手を戻し、イゼルが落下した所で、アレイが叫んだ。
「奥義 [あの頃の私に]!」
イゼルは白い光に包まれた。
時折、その隙間から、生きた司祭の顔や四肢が覗いた。
光が消えた時…
イゼルは、床に両手を突いた状態で元の姿に戻っていた。
それは茶色の整った長髪に美しい肌と茶色の瞳、青い線で何かの紋章が刻まれた白い帽子、襟首だけが青い白のきれいなローブの、紛れもなく生きた司祭だった。
「へえ、結構いいなりじゃない」
朔矢が関心したように言った。
「これが、イゼルの本来の姿…」
イクアルも、その美しさに見惚れているようだった。
「さ…」
イゼルは起き上がるや否や、
「サリス様!私が間違っていました。許されるとは思いませんが、どうか…どうかお許しを!」
とサリスに許しを願った。
サリスは、イゼルを力いっぱい杖で殴った。
その上で、こう言った。
「イゼルよ、私はお前を憎んだり、軽んじた事は一度もありません。今あなたを殴ったのは、あくまでもイクアル陛下やアレイさんに迷惑をかけた事への裁きとして行ったまでです。
そして、私はもうお前に怒ってもいません。むしろ、お前が心配です。そんな荒んだ心のまま、司祭として生きられるのか…」
イゼルは泣き出しそうな顔になった。
しかし、サリスはこう続けた。
「お前は多くの者達の憧れです。私を含め、お前の帰りを待っている者が多くいます。
その者達を、裏切るつもりですか?」
すると、イゼルは明るい顔をした。
「と、言うことは…!」
「イゼル。戻ってきなさい。
煩悩を捨て、かつて思い描いた理想を理想で終わらせぬよう、努力しなさい。
私もお前への対応を見直します。…さあ」
イゼルは涙をこぼしながら礼をした。
そして、イクアルに頭を下げて謝罪し、自身が殺した者達をすべて無償で生き返らせると約束した。
そして、自身の左腕に聖紋が復活しているのを見て、とても喜んでいた。
最後に、イゼルはアレイにも謝った。
さらに、アレイが陰の手をはめているのに気づくと、
「それはもしや、陰の手では?」
と言った。
「ええ…何かご存知で?」
「それは生の始祖様が残した、最強の篭手。
豊かな魔力を持つ者が扱えば、その魔力を増幅させ、第三、第四の手として顕現させて扱う事が出来ます」
「つまり、手が増えると…?」
「いかにも。あなたが真に生の始祖様の末裔であるならば、きっと役に立つでしょう。
そして、それを使えば、尚佗にも打ち勝てるかもしれない。
…気をつけなさい、尚佗は、どんな手を使ってでもあなたを捕まえようとしてくるでしょう」
「…わかりました。ありがとうございます」
そんな様子を見て、朔矢がふてくされていた。
「後半、ほぼあたしの出番なかった。
…面白くないわね」
◇