黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
私が弓を構えると、グラスは言った。
「最近、弓使いの水兵の噂を聞いていたが…やっぱりお前だったか」
「私の噂?」
「知らんのか?お前らは色んな所で噂になっている。
それに、いつも町の外に出ている水兵なんて、本当に少ししかいない。
もし見かけられたら、途方もない幸運だ」
私はそれに問い返した。
「どういう事?」
返答次第では、最初から全力で行くつもりだ。
「言い方が悪かったかもな。水兵は珍しい種族だが、俺にとっては何の価値もない。だから、手を出す気はない。心配するな」
同族に手を出すつもりはない、というのには安心した。
でも、価値がないという言葉には怒りが湧いた。
「一応聞くけど、なんで水兵に価値を見出してないの?」
「水兵は人間や防人より肉は水っぽいし、血もさして旨くない。
一応、それなりに強いから戦う価値はある。でも、水兵の町に俺達は入れない。
だから、基本的に価値がないんだよ」
それを聞いて、私は矢を番えた。
「…なんだ?そんな顔をして?」
「よくわかったわ。つまり、私達…ひいては人間や他の異人の事を、何とも思ってない訳ね」
「だったらなんだと言うんだ」
「簡単よ。初めから全力で行く…」
矢に魔力を流す。
「ほう…面白い、来てみろ」
グラスは棍を取った。
私は
「[ブリザーショット]」
一見地味だけど、強力な技だ。
当たれば、相手の体を凍らせて致命傷を負わせる。
矢は、グラスの右腕の甲に上手く当たった。
そして、その腕を凍らせた。
でも、グラスはさして痛くないという顔をして、腕を棍で叩いた。
すると、腕に張った氷が解けた。
「えっ…?」
「この程度か?」
「…っ!それなら!」
再び矢を番え、弓に魔力を流す。
そして、「オーロラリバー」を放った。
これは効いた。
光と氷の二つの属性を持っている技だからか、軽減もされていないように思える。
すぐに「五点射ち」で追撃し、さらに距離を詰め、マチェットで斬る。
もちろんただ斬ったのではなく、「かもめ斬り」という剣の技を放った。
二連続で斬撃を放つ技で、威力は…まあ高いとは言えないけど、追撃に使う分には十分だろう。
私は、本来剣や刀の技は使えない。
そもそも、専門外の武器だし。
技を出せてるのは…何と言うか、このマチェットを手にしている時だけ思い浮かぶからだ。
浮かんできた技は知らないものばかりだけど、それがどんな技で、強いか弱いかもわかる。
なぜかはわからないけど、これを手に持っている間だけいろいろな技を使えるようになる。
原理は気になるけど、そんな事はいい。
「[乱心剣]!」
実戦で結果を出せれば、それでいい。
「お…おおぉぉあ…??」
グラスは変な声を出し、目をぐるぐる回してふらつく。
(え、効いた?)
今の技には混乱の追加効果があったけど…まさか、効くとは思わなかった。
でも、これは幸運だ。
混乱はわけがわからなくなって無意味な行動をしたり、敵味方関係なしに変に絡んだりと、酔っ払ったような状態になる異常。
一定の時間が経つか、ある程度の物理攻撃を受けると治るけど、逆に言えばそれ以外の方法では自然に治らない。
つまり、物理以外の攻撃で、かつ治るまでの間なら、いくら攻撃してもまともな反撃を受けないのだ。
今がチャンスだ。
身の周りに複数の氷塊を浮かべ、その全てを相手に向けて飛ばす「アイスブロウ」という術を使い、続けて星術の「アースメティオ」を使う。
これは水に包まれた巨大な岩を落として攻撃する術で、水を凍らせれば氷と地の2属性複合術になる。
もちろん、凍らせた。
ここまでやってもまだグラスは混乱したままなので、
「レインブリザー」と「異空氷晶」も使った。
前者は針状の氷を雨のように降らせる術で、後者は相手を魔力を込めた氷の中に閉じ込めて砕く術だ。
ここまで威力のある術を、それも技を連射した後に連発するとさすがに疲れる。
魔力的にちょっと無理があるような気もしたけど、地方ない。
今回の敵は、ちょっとキツい相手だからだ。
やがて、グラスの混乱は解けた。
そして、自身の受けたダメージを理解して反応する…こともなく、無言で突っかかってきた。
その武骨な見た目の棍から放たれる一撃の威力は凄まじいものだった。
即座に結界を張って辛うじて防いだけど、まともに受けていたら即死していたかも知れない。
さらに、一撃を凌いで油断していた所に連続で攻撃を撃ち込んできた。
幸い、結界を解く前だったので防御できた。
そうだった…
棍は、鞭や短剣と同じく連撃が容易な武器なんだ。
しかも打撃武器だから、相手をふっ飛ばしたり守りを崩す事もたやすい。
おまけに鞭同様元々のリーチが長く、それをさらに伸ばす技やトリッキーな動きをする技もあるので、多少距離があっても大した事はない。
だから、あまり長期戦に持ち込むのはよくない。
でも、どうしよう?
動きを止めてここまで攻撃しても倒れないとなると、大分キツい。
今結界を張るのに使った分も含めて、魔力の自然回復には少し時間がかかるから、しばらくは技と回避で乗り切る他ない。
考えてる間にも、向こうは連撃を放ってくる。
一撃でも食らえば、そのまま連続攻撃の餌食になるだろう。
こうなれば、策は一つ。
技と知恵を駆使して、死ぬ気で避けまくるしかない。