黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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警戒

狭い空間の中に、張り詰めた空気と殺気が満ちる。

「お姉ちゃん…龍神さん…」

アレイが心配するような声で言った。

「アレイ、こいつに何かされてなかった?」

 

「え?別に悪い事は何も…」

 

「そう…」

 

「…お姉ちゃん、なんで龍神さんを知ってるの?」

 

「こいつは殺人鬼の吸血鬼狩り。それも、世界最大の吸血鬼狩り集団、「カオスホープ」のリーダー。

…そう言えば、アレイには吸血鬼狩りと殺人者の事を言ってなかったわね。

吸血鬼狩りは、古くから存在するアンデッドを狩る組織。殺人者は、生まれつきアンデッドを殺す力を持つ種族。

殺人鬼は私にとって、種族としての敵。そして、家族の仇。

覚えてるでしょ?私と私達の家族は、他ならぬ殺人者に殺されたのよ」

 

「…」

アレイは黙ってしまった。

 

「それで?

あなたは何のためにアレイについてきたの?」

 

「何の事はない、アレイと旅に出る準備をするためについてきただけだ」

 

「ふーん…」

奴は鎌を下げた。

だがその声調と目付きからして、すぐにでも首を落とす用意ができている、と言葉にせずとも伝わる。

「それだけ?

おおかた、他に目的があるのでしょう?」

 

「…もし、お前にこぎ着くのが目的だと言ったら?」

 

「簡単よ。姉として、再生者として、あなたを片付ける。私を目当てにしてアレイを利用した、という事なのだから」

 

「ほう」

奴は落ち着いた声で淡々と話しているが、その全身から殺意がひしひしと伝わってくる。

「回りくどい言い方をしてないで、早く本音を言ってくれる?

さっさと終わらせたいのよ」

 

「終わらせる…死にたいのか?」

 

「それはあなたよ。こっちには使用人だっている。

対してそっちは一人…

人数的にこっちが有利なのは言うまでもない」

 

「頭数に驕る奴は、本当に強い敵相手にはあっけなく潰されるぞ?

…ま、所詮アンデッドなんてそんなもんか」

 

「ずいぶん腹立つ言い方してくれるわね」

先の見えない会話が続く中に、アレイが割り込んできた。

「お姉ちゃん!聞いて!」

 

「アレイ?どうしたの?」

 

「この人は悪い人じゃないの!

殺人鬼だけど、私たちを全力で助けてくれたし、私を強くもしてくれた!

何より、今まで私を殺さなかった。

この人は、信じてもいい人だと思うのよ!」

 

「アレイは知らないのよ。こいつらが見せる優しい顔は、獣の顔の上に被った仮面に過ぎない。それに騙され続ければ、いずれは自分の身を滅ぼす事になる。

何があっても、信じてはいけない存在なのよ」

こりゃ、ただ再生者だから、家族の仇だから…という理由だけで殺人者を恨んでるのではなさそうだ。

 

「でも、この人は違う!少なくとも私は、この人は信じていい人だと思うの!

それに、私はこの人に助けて貰った恩返しがしたい!

だからお姉ちゃん…お願い!」

 

「アレイ…」

必死に懇願する妹の姿を見て何か思うところがあったのか、奴はやがてため息をつき、

「…わかった。

それで、こいつをどうすればいいの?」

 

「今日ここに彼を泊めてあげてほしいの。

あと、明日から彼と旅に出たいから、それを許してほしい。

店にはもう言ってきたから、あとはお姉ちゃんさえいいと言ってくれれば…」

 

「こいつを泊めて、しかもあなたと2人で放り出せ…って言うの?」

 

「ええ…

大丈夫よ、彼は私を殺さないと言ってくれたし、私も彼についていきたいの。

だから…!」

そして、アレイは頭を下げた。

「わかった、わかったわよ。

旅…ってのについては二人で話し合うとして、とりあえずこいつを…」

 

「やった! 

じゃ、龍神さんを案内するね!」

 

「待って。あなたとこいつは別室にする。

少し待ってて、手頃な部屋を用意してくるから」

奴は奥に行こうとした…

がすぐに振り向き、

「そうそう、あんた…私が見てないところでアレイに何かしたら許さないからね?」

と釘を刺してきた。

「わかってるって…

ま、信じてくれとは言わないが」

 

「言われても信じないわよ。

殺人鬼で、しかも吸血鬼狩りの奴の言葉なんて…

信用するに値しないもの」

奴はそんな言葉を残し、去っていった。

 

 

 

「大事にならなくてよかったです…」

 

「そうか?俺にとっては十分に大事だよ。

願ってもない大物に会えたんだからな」

 

「どういう事ですか…?

そう言えば、なんでお姉ちゃんの名前を…?」

 

「言わなきゃないな。君の姉…星羅こころは、八大再生者。

アンデッドを最初に産み出した"死の始祖"に仕え、生者の命と領土を狙う、8人の高位のアンデッドの一人なんだ」

 

「…!」

 

「そして俺は、奴らを全て見つけ出して倒すため、このジークの地に来た」

それを聞いたアレイは、ひどく衝撃を受けたようだった。

まあそうだろうな…

 

 

と、ここでこころが戻ってきた。

「…殺人鬼、あんたの部屋を用意したわ。

部屋はそこの廊下の突き当たり。トイレは部屋を出てまっすぐいった先よ」

 

「そうか… 

じゃ、上がらせてもらうぜ」

靴を脱ぎ、持ち歩いている袋に入れて上がる。

部屋に向かう間、ずっと視線を感じていた。

それはアレイのもあったが…

それ以上に、こころの殺意に満ちた視線が刺さってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

用意されたのは、物が溢れた汚い部屋だった。

一応窓やベッド、机や時計はあったが、ほかにも様々な物がごちゃごちゃ散乱している。

どうやら物置として使っているらしかった。

まあ別にいい。

昔いた家もこんな感じだったし。

 

念のため電膜を張って調べてみたが、盗聴機などの類いはなさそうだ。

 

 

そのままベッドに入って寝ようとしたが、寒さ故か慣れない枕故か、いつも以上に眠れない。

こりゃ、朝まで寝付けないパターンかもしれんな…

 

結局その後全く寝付けず、寝返りをうちながら時間を無為に過ごすこととなった。

 

 

 

ふと用を足したくなった。

トイレは…ここを出てまっすぐ、だっけか。

 

それとなく時計を見たら、10時23分を指していた。

この部屋に来たときは確か、6時15分くらいだったはず。

もうそんなに時間がたっていたのか…

 

 

ドアを開ける。

二人はもう寝たのか、人の気配はない。

暗い廊下を進み始めてすぐ気にかかったのは、廊下の両脇の壁に、一定間隔で石像が立っていたことだ。

 

すれ違いざまに見た所、古代遺跡なんかによくある、腕組みをした人をかたどった棺…のような石像だった。

 

 

なんでこんなもん並べてんだか…と思いながら奥に見えるドアを目指して進む。

 

 

 

 

 

石像のうちの一つの前を通りすぎる振りをして刀を抜き、振り返り様に突きつけた。

「…何者だ」

 

「ありゃ、あっさりバレたか」

返事をしてきたのは女の声だった。

 

「バレない方がおかしいだろ。

特有の腐臭を消してないんじゃあな」

 

「あれー?

臭いは大幅に減らしたはずなんだけどなあ?」

 

「普通の奴ならともかく、俺をそれで欺ける訳がないだろうが」

 

「それもそうね。

全くさすがだね、"最強の"吸血鬼狩りさん」

そして、そいつは姿を現した。

「お前は…」

紫色の手を見る限り、そいつは腐人だった。

腐人とはゾンビの一つ上の種で、簡単に言えば感情と自我があり、普通のゾンビを束ねているアンデッドだ。

一部のものは、より上位の種である吸血鬼やリッチに仕えていると聞く。

しかしここは再生者の館。

吸血鬼やリッチの城とは訳が違う。

ただの腐人が、再生者に仕える事なんてあるのか?

そんな疑問が一瞬湧いたが、すぐに消えた。

 

向こうが全容を露にした時、そいつが4000年の歴史と確かな実力、そして欲望を操る力を持ち、アンデッドは勿論、吸血鬼狩り及び殺人者にもよく知られている腐人…セン·ランであるとわかった。

「いやはや、驚いたな。

再生者だけでなく、大物の腐人もいたとは」

 

「大物って、嬉しいこと言ってくれるねぇ。

けどね、そんなこと言われても私の首は渡さないよ」

 

「面白い、守ってみろ」

そうは言ったが、こいつがここにいるのには何か目的があるだろう。それを聞き出すのが先だ。

「…で、お前はここで何をしてる?」

 

「わかんない?監視だよ、監視」

 

「俺のか」

 

「そそ。こころに頼まれてね、あんたを今晩中ずっと視てる事になったんだよ」

 

「ほう…

だが、気付かれていいのか?」

 

「別に。第一、あんたを殺せとも追い出せとも言われてないしね。

私はあくまでも、あんたを見てるだけ。

あんたがこころと妹に何もしない限りは、あたしからはあんたに何もしないよ」

 

「そうか…

てか、お前こころとどういう関係なんだ?」

 

「昔からの友達、ってだけだよ。

ま、戦いの時に雇ってくれたりもするけどね。

ほんで、今日ここに泊まってたらたまたまあんたが来て…ってわけ」

 

「なるほど、偶然だったと」

 

「でも正直嬉しいよ。今の最大の吸血鬼狩りのトップに、それも戦い以外で会えたんだもん。こんな経験、今までにしたことないよ。

ま、喜ぶだけにしとくけどさ」

 

「それが身のためだな」

 

「んじゃ、おやすみー」

奴はそう言い残し、闇に消えた。

 

 

 

「はあ…」

さっさと用を済まして、寝室に戻ろう。

 

 

 

 

部屋に戻ってベッドに入ると、あら不思議。

あっという間に寝付く事ができてしまった。

 

 

 

 

 

目覚めたのは6時ぴったりだった。

目覚ましをかけた訳でもないのに、だ。

しかも俺は本来、4時間も眠れば十分な体質だ。

こんなに長く寝たのはいつぶりだろうな…

そんな事を思っていると、

「龍神さん!」

元気よくアレイがドアを開けて入ってきた。

「おぉ…」

 

「おはようございます!

ご飯出来てるので、食べてって下さい!」

 

「あ、ああ…」

 

 

いつになく長い睡眠をとったせいか、頭が変にボーッとする。

リビングに入ると、窓から差し込む朝の光がえらく眩しく感じられた。

「お姉ちゃん、龍神さんをつれてきたよ」

 

「そう…」

奴は、部屋の中央のテーブルを取り囲む7つの椅子の中の一つに座っていた。

そして卓上には、何やら豪華な食事が並んでいるのが見える。

「龍神さんは、適当な席に座って下さい」 

 

「ああ…」

 

 

改めて見ると、広いテーブルの上にはオムレツ、ポテトサラダ、フレンチトーストなどの洋風料理がところせましと並んでいた。

食事が始まっても、こころはムッとした表情を変えないので、

「おはようさん。ずいぶんと豪勢な朝食なんだな?」

と切り出した。

「いつもは二人分しか作らないんだけど…

今日はあいにく、大きなゴキブリがいるからね」

奴はそう言ってオムレツをすくい取る。

「はいはい…

いちいち俺を拾わなくてもいいだろうに」

 

「あんたこそ、態々私に話しかけてくる理由はないと思うけど。

どうせすぐにいなくなるんだし。

あ、アレイ、このケーキ食べていいわよ」

 

「どうだかなぁ…」

そんな事を言いながらフレンチトーストにかじりつく。

「しかし、これだけの量をよく…」

 

「私がつくってるんじゃないわ。

使用人にやらせてるのよ」

 

「使用人?」

奴は黙って俺の後ろを指差した。

振り向くと、台所で料理の後始末らしき事をしている女の使用人の姿があった。

「あれか。しかし、あれはどう見ても…」

 

「ゾンビよ。当然でしょ?この館に生きてる奴なんていないんだもの」

 

「それもそうか。

奴らは使用人としてはどうなんだ?」

 

「そこそこ優秀、ってとこね。

感情がないから、何を命じても忠実にやってくれる。

ただ、昨日のあんたの監視だけは嫌がったわ」

 

「ほう?」

 

「一応命じてはみたんだけど、みんな殺されたくないって言って嫌がったのよ。

だからセンを派遣したわけ。

昨日、あいつに会ったんでしょ?」

 

「ああ。しかし、死人のくせに殺されたくないとか、いい笑い種だな」

 

「てことは、私のことも笑い者扱いするつもりなのかしら?」

奴の目付きがよりきつくなった。

 

「んなわけないだろ。

てか、そんなきつい顔しなくていいんじゃないか?

ほら、素敵な美貌が台無しになってるぜ?」

すると、奴は一瞬間をおいて少し表情を緩めた。

「…へえ、多少はいい口を利けるのね」

 

「昨日あれだけ信用しないとか言っといてそれか。

ま、別にいいんだけどな。

改めて言っておくが、お前もお前の妹も殺すつもりはない」

 

「そうですよね…

私は信じてますから」

アレイはそう言いながら、サラダを箸で一掴み取って口に入れた。

「アレイ…少しは警戒しなさいよね。

それで、昨日アレイと話したんだけど…」

 

「おっ?」

 

「あなたとアレイが旅に出る、って話自体は別にいいと思うわ。

あなたは敵だけど、それは私にとっての話であって、アレイや他の水兵にとっては違うのなら、そこには干渉しない。

それに殺人鬼…もといあなたの強さは、私自身が嫌と言うほど知ってる。

あなたほど強い奴が同伴するのなら、途中でアレイを死なせるなんて事もないだろうし」

 

「じゃ、妹の願いを聞き届けるんだな?」

 

「ええ。ただし一つだけ言っておくわよ。

私はあなたを信じてないけど、アレイは信じきっている。

その思いを…無駄にしないでよ。

そんな事したら許さないからね」

奴は少々意外な形で釘を刺してきた。

 

「そういう事なら大丈夫だ」

最後に紅茶を流し込み、朝食を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走さまでした!

龍神さん、ちょっと待ってて下さい!」

アレイは完食するや否や、自分の部屋へ戻っていった。

そして数分後…

「お待たせしました」

白い帽子をかぶり、緑のジャンパーと白いタイツを身につけ、青いリュックを背負ったアレイが部屋から出てきた。

 

「制服の上から着てるのか?」

 

「ええ、水兵とわかるように」

 

「わかるようにする必要があるのか?」

 

「一応…

昨日ユキさんにそう言われたので」

 

と、ここでこころがやってきた。

「準備はできたのね。

それじゃ、行ってらっしゃい」

 

「うん。お姉ちゃん、ありがとね」

 

俺は一足先に玄関に出ていた。

「アレイ、行くぞ」

 

「は、はい!」

そうして館を後にした。

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