黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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旅支度

「とは言え、最初はどこに行くおつもりなんです?」

出てしばらく歩いて、アレイが言い出した。

「そうだな…

まずは情報集めがしたいな」

 

「情報、というと?」

 

「こころ以外の八大再生者に関する情報…

なんでもいいから、奴らについて詳しく知る事ができるものが欲しいな」

 

「詳しく知らないんですか?」

 

「ああ…多少調べた程度だからな」

 

「じゃ、どこにいるのかも…」

 

「詳細にはわからん。

だが、この東ジークのどこかにいる事は確かだ」

 

「なぜです?」

 

「俺の知っている所では、奴らは約6000年前にシエラとその仲間たちによって倒され、それぞれが異なる「封印の祀(さい)具(ぐ)というアイテムに封印された。そしてそれらは全て、ジークの東の沿岸地域のあちこちに置かれた。

シエラはそれら全てを繋げて"スタールの結界"を張り、強力な力を持つアンデッドの残党と殺し損ねた死の始祖をジーク北東の枯れた大地に追いやり、生者の領地に戻る事はないようにした、ということだ」

 

「そうなんですか…

あれ?でもそしたら、お姉ちゃんやセンさんは…」

 

「ああ、高位のアンデッドである奴らがレークの近くにいるなんて事は本来できないはずだ。

だが今は出来てしまうんだ…」

 

「それは一体…?」

 

「あれだよ。

…25年前に起きた、復活の儀。覚えてるだろ?」

 

「復活の儀…?」

 

「君の場合は…当時5歳か。

日中に突然真っ黒い霧が出てきて、空を…太陽を覆い隠したあの日を…

大半の動植物が死に絶え、大規模な飢饉が起こったあの年を、覚えてるだろう?」

 

「…?」

アレイの表情からすると、覚えていないようだ。

「あれ、覚えてないのか?」

 

「はい…全く。

それとアンデッド…姉がどう関係してるんですか?」 

 

「まず大前提として、復活の儀は数千年に一度、死の霧が空を覆い、世界の全生命の三分の一が死に絶える現象だ。

そしてその後には必ず、【忌み子】と呼ばれる優秀な魔導の才を持つものが現れる。だがこの忌み子は、生まれつき不死者となる定めを…死後にアンデッド…もとい再生者となる定めを背負う。

実際、今まで復活の儀が起きた時、後に新たな再生者が一人ずつ現れ、その度に世界に災いをもたらした。

ただし今から7000年前、8回目の時だけは違った。

やはり忌み子は現れたが、その子は死と闇の誘惑をはね除け、豊富な才を正しい方向にのみ使った。

そして、多くの仲間と協力してアンデッドと戦い、やがて7人の再生者と死の始祖を倒し、封印した。

それが生の始祖…シエラだ。

ここまではいいか?」

 

「はい」

 

「で、大事なのはここからだ。

シエラが死の始祖と7人の再生者を封じた事で、復活の儀はもう起こらないはずだった。

だが25年前、突如9回目が起こった。

そしてその原因は、シエラの血を継ぐ娘が命を落とし、再生者となったことによるものだった」

 

「…」

愕然とするアレイ。しかし構わず続ける。

「シエラは奴ら自身を封じる"アルピアの封印"と、奴らの力を封じる"スタールの結界"を残していった。だがそれは、奴の血筋をひく者が生きているからこそ保たれていたものだった。

だから奴の血を引いているこころが再生者となった事でアルピアの封印がとけ、奴らもまた甦ったんだ」

 

「そんな…

あれ?でも…」 

アレイは気づいたらしい。

「そうだ…確かにこころは再生者となった。

だが、シエラの血を継いでるのは奴だけじゃなかった。

奴の妹である君が生きている限り、奴らの力の大部分を封じている結界…スタールの結界は解けない。

だから奴らは自由には動けるが、完全に力を取り戻すことは出来ていないはずなんだ。

とは言え、一刻も早く奴らを倒して再度封印しなければならん。奴らは奴らで、もう一人のシエラの子孫である君を狙っているはずだしな」 

 

「どうして私を…

私を殺して、その結界を解いてどうするのでしょう?」

 

「君が死ねばスタールの結界が解け、奴らはかつてのような力を取り戻す。

そして枯れた地に封じられた死の始祖を呼び戻し、間違いなく生者の世界に攻め込んでくるだろう。

そうなれば、奴らを止める事は一気に難しくなる。

だからその前に、殺りにいかなきゃないんだ」

 

「私が死んだら、そんな事に?

じゃ、龍神さんが私と旅をすると言い出したのは…」

 

「奴らを皆殺しにするため。

そして…生者の最後の希望である君とその関係者を守るためだ」

 

「…」

アレイは黙りこみ、うつむいた。

そして少し間を置いて、

「…レークの南のほうに向かいましょう。

あそこには大きな図書館があったはずです」

と言った。

「図書館…か。

わかった、行こう」

 

 

 

図書館があるというレークの南部までは最寄りの門から道のりに行って3キロほどで、決して歩いて行けない距離ではない。

だが俺は指名手配犯。

水兵達は理解してくれているにせよ、外部から町に訪れている客に気づかれれば面倒だ。

なので、遠回りにはなるが山伝いに向かう事にした。

その旨を話したらアレイも納得してくれた。

 

 

 

「すまないな、俺の勝手な都合のために…」

 

「いいですよ。

あれ、でもこの辺は確か…」

 

「どうした?」

すると突然、目の前に一隊の山賊が現れた。

「なんだよ?」

 

「大した事じゃあないさ。

持ってるものとその孃ちゃんを置いてって貰えばいいだけよ」

 

「断れば?」

 

「言わなくてもわかるだろ?」

確かに、手に持つ棍棒やら斧やらを見ればわかる。

だが山賊なんぞ敵ではない。

「そうだな、わかるな…」

わざと無防備のまま奴らの中に歩いていき…

「[影抜刀·雷雲]」

抜刀と同時に、触れた者を感電させる黒い煙を焚く。

そしてその間に、煙の中の敵を全て斬る。

これで迅速に解決だ。

 

   

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

龍神さんが、山賊の群れの中に突っ込んでいったかと思えばいきなり煙を焚き、それが晴れた時には、胸に返り血がついた彼の姿が。

その後ろには、血まみれの死体がごろごろ転がっていた。

そんな惨状を後ろにして、

「さあ、行こう」

彼は何食わぬ顔で言ってきた。

「は、はい…」

彼の優しさに甘えて忘れてしまっていたけど、やっぱり彼は殺人鬼なんだな…

と思った。

 

 

その後、しばらく行くとまた山賊が現れた。

今度はマチェットや棍棒を持った二人組。

これは私が弓の技の「マルチステッチ」で仕留めた。

 

このあたりには山賊がうろついている。

だからこの辺にある町の門は厳重になっているし、敷かれた道から外れてはいけないことになっている。

それに対して、今私たちが歩いているのは正規の道ではない。それも、山賊たちが根城にしている森の近くだ。

「龍神さん、走りませんか?

ここは…その、あまり長居はしたくないですし」

勝てるとは言え、山賊との戦闘はなるべく避けたい。

それに、返り血が体に付けば町に出た時驚かれてしまう。

「そうだな…そうしようか」

 

幸い、山賊の頻出地帯はそこまで広くない。

それにここの下り坂になっている草原を抜ければ、すぐに正規の道に入れる。

そうすれば町の門まで一直線。逃げ切るのは簡単だ。

 

 

走り出して数分後には、門と山の向こうをつなぐ正規の道に入る事ができた。

「意外とすぐ道に入れたな」

 

「ですね。これで、山賊はもう出てこないでしょう」

あとは道なりに進むだけだ。

 

 

 

門をくぐり、街道に出た。

この街道をまっすぐ南東に行けば図書館につく。

本当は、家を出てすぐに中央の門をくぐれば、中央広場から道なりに南下してくるだけでついたのだけど…

仕方ない。  

「ここをまっすぐ行けば図書館があります」

 

「そうか。

だが油断はできないな」

龍神さんはフードをかぶり、俯いて早足で歩きだした。

今は寒いからいいんだろうけど、姿だけ見るとまるで不審者か、指名手配犯だ。

…いや、彼は後者か。

こんな賑やかな町の中に、数百万単位の賞金がかけられている殺人鬼がいるなんて、誰も思わないだろうな。

そんな事を思いながら、ついていった。

 

 

 

 

図書館に着いた。

図書館はこの町には2つしかない。

ここはそのうちの一つ。もう一つは、ユキさんの住むシルミィ神殿の近くにある。

どっちも蔵書は同じなので、私たちやお客さんは自分のいる場所から近い方を利用すればいい。

 

 

 

龍神さんは、さっさと古文書や図鑑の置かれているコーナーに行って、数センチはある分厚い書物をパラパラと捲(めく)っていた。

(うわぁ…)

私は本はあまり読まない。

それに、ああいう図鑑とか辞典みたいな分厚い本は見ただけで気が遠くなる。

けど龍神さんは、熱心にそれらの1ページ1ページを端から端まで見ていた。

 

(そうだ、私も調べないと)

まだ彼が読んでいない書物を抜き出し、机に持っていって広げる。

そして読み始めたのだけど…

数ページも読まないうちに頭が痛くなってきてしまった。

(これには参考になるような事は何も書かれてないんじゃないかしら。

それにいずれ龍神さんが読んでくれるよね)

私は勝手にそう納得し、本を本棚に戻して別の本を取った。

そして開いた…

 

 

(あれ?)

さっきは十ページも読めなかったのに、気づいたら50ページ近く読み進めていた。

この本は術について書かれている書物だけど、先ほどの本同様にびっしり書かれた文章がメインで絵はあまりない。

内容以外さっきとなんら違わないはずなのに、どうして…?

 

しかも、私は術はつい最近覚えたばかり。

当然、詳しい事は何も知らない。

なのに、この書物に書かれてる事は難なく理解出来るし、想像も出来てしまう。

なぜだろう?

 

 

 

 

 

「アレイ、何かいい情報は見つかったか?」

 

「いえ、何も…」

 

たまにそんな会話をしながら読書を続けているうちに、あっという間に昼になってしまった。

「もうお昼ですね…」

 

「だな。この近くに飲食店とかあるか…?」

 

「ありますよ。ついてきて下さい」

図書館を出て、街道をさらに先、東側へ進む。

すると、左側にレストランが出てくる。

「あれか?」

 

「そうです」

 

 

 

ここはいわゆるファミレスで、レークにあるレストランの中でもかなり大きい部類に入る店だ。

とはいえ、町の外れにありアクセスが良くないので、他のファミレスに比べるとあまり人気はない。

なのでここなら、龍神さんが中にいてもバレにくいだろうと思ったのだ。

 

 

店は意外にもそこそこ混んでいて、ちょっとドキッとした。

混んでるのにはお昼時というのもあるんだろうけど、その他にも何か理由があるのだと思う。

くわしくは私にはわからないけど。

 

私はチーズハンバーグ、龍神さんはピザを頼んだ。

料理がくるのを待っている間、午後はどうするつもりなのか聞いてみた。

「午後はどうするつもりなんですか?」

 

「そうだな…とりあえず買い物をしよう。

図書館ではあまりいい情報が取れなかったが、準備もしなきゃないからな」

 

「買い物…ですか?」

 

「ああ。

アレイ、魔法薬の店とか知らないか?」

 

「魔法薬の店、ですか。

それなら、丁度私の知り合いがやってる店がありますよ」

 

「日没までにここから行けるか?」

 

「はい。ここから道のりでの距離だと遠いですが、移動用ワープがあるので」

 

「そうか。なら大丈夫そうだな」

そんな会話をしているうちに、料理が運ばれてきた。

料理を平らげて店を出るまでの間、龍神さんがまわりの人に怪しまれている様子はなく、安心した。

 

 

 

ファミレスを出て街道に戻り、図書館を通りすぎた先を左に曲がる。すると、道に緑色の丸い光が置かれている。

これが移動用ワープだ。これに入ればたちまち、同じ色のワープで繋げられた遠くの場所に移動できる。

 

ワープした先は、巨大なキノコや幅の広い葉をつけた木々が生い茂り、その隙間から仄かな光が差し込む森の中。

 

「ファンタジー感がすごいな」

 

「そうですよね。

実際、この奥に住んでる人は私たちの中でたった一人の魔法の専門家です」

 

「それは期待できそうだ」

少し森の奥に進むと、すぐに建物が見えてくる。

扉を引いて中に入る。

 

 

「はい…

あ、アレイ。久しぶりー」

 

「久しぶり。今、お店大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。あ、そちらの方はもしかして…」

 

「そう、前に私たちを助けてくれた人よ。

殺人鬼のね」

 

「そうだよね…以前は、ありがとうございました。

それで、何が必要なの?」

ここで龍神さんが口を開いた。

「即効治癒の薬と聖石、あとスタミナ持続系の薬はあるか?できれば五つくらいずつ欲しい」

 

「ありますよ。少々お待ちを」

と言って彼女は奥に消えていった。

 

 

「…結構しっかりした魔法店だな」

店内を見渡して、龍神さんは感心したように言った。

「そうだと思いますよ。だって彼女は魔女の血を引いてるんですから」

 

「魔女の血を?水兵なのにか?」

 

「はい。詳しくは知りませんけど」

 

 

「お待たせしました!」

ここで奥から彼女が戻ってきた。

手には複数の試験管のような入れ物に入った赤い薬や手頃な大きさの白っぽい石、黄色い薬の入った袋を持っていた。

「聖石と…この赤い薬が即時治癒薬です。飲んでもかけても大丈夫ですよ。

そして、こちらは体力維持薬。

飲んで貰えば、10分間疲労を感じなくなります」

 

「おお…良さそうだな。助かるよ」

 

「ねえ、聖石って何?」

私は聖石というのが気になり、思わず割り込んだ。

「光の魔力を結晶化したもの。身につけておけば光系の術の威力を増幅したり、即死効果を無効化したり出来る。

他に、魔力を解き放って光の術を放つこともできる。

まあそうすると石はなくなってしまうけど」

 

「そういう事だ…

あれ、でもこの石は結構純度が高いんじゃないか?だいぶ重たいぞ?」

 

「私の魔力を練り固めて作った聖石ですので」

 

「自分の魔力を?ってか、材料それだけで作ったのか?」

 

「はい」

 

「へえ…こんなに高純度な石を、自分の魔力だけで作れるのか…すごいな」

私は彼と同意見だった。

(本当ね…みた感じ500gはある。

あれだけの大きさなら、光の装身くらいは軽く使えそう)

 

「ありがとうございます。

あ、合計で11500テルンです」

 

「わかった」

11500テルンと言うと結構な額だけど、日頃から彼女の薬にお世話になっている私たちにとってはまだましな額だ。

龍神さんはそそくさと会計を済ませ薬を受け取った。

 

 

 

 

 

帰りはワープを使わず、歩いて森を出て町へ向かう。

これは龍神さん自身が希望したのと、私も一度やってみたいと思ってたから都合がよかったのと2つの理由があった。

この森はあまり広くはないし道も一本なので、出るのに時間はかからない。

ただ…

龍神さんが言う通り、雰囲気が最高だ。

 

 

 

昔読んだ絵本に、魔女の家…なんてものが出てきた。

それは深い森の中にあり、根元から曲がりくねった大きな木々と沢山の不思議な動物に囲まれている。

家は木をベースに作られていて、軒先には小さな花壇があり、家の裏には沢山のキノコや薬草が栽培されていて…

 

あの時は、あのお話…というかあの場所の描写がすごく好きだった。

そして今は、あのお話の舞台と同じような場所にいる。

 

なんだろう、この気持ち。

懐かしいような、嬉しいような…

 

 

 

森を出て町に戻るまでの道中、なぜワープを使わなかったのか聞いてみた。

森は町の外れに位置していて、中央広場までだと結構な距離がある。

龍神さんいわく、ここの風景を目で見たいというのと、地形をある程度把握しておきたいということだった。

地形を把握してどうするの?と思ったけど、彼には彼なりの考えがあるのだろうからそこには触れないでおいた。

 

 

 

町についたころには日が暮れ始めていた。

龍神さんに、今夜はラグジュアリーナイトというイベントがあるので来ませんかと誘ったら快くのってきてくれた。

 

 

     

 

 

 

 

 

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