黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
最初に細い電撃を放ってきたので、私は氷の壁を作り出して防いだ。
氷は電に強いので、属性の相性的には悪くはない。
でも、麻痺効果のある技を使ってこられると厄介だ。
「こいつは…」
「スペクターの類いね。でも、自身で電気を生成できるようになってる。
恐らく、プラズモとスペクターをかけ合わせたとか、そういう事じゃないかしら」
「その通りだ…こやつは、プラズモとスペクターを組み合わせた生体兵器。
我らはボルスペクターと呼んでいるが、あくまでも通称だ。正式な名称は今のところない」
スペクターは、中位の霊体系アンデッド。
プラズモは、電気を生成する能力を持つエレメント系の異形。
その2つを組み合わせて、電気を生成できるアンデッドを作り出した、といった所か。
次にそれは、両手を広げて大量の電撃を飛ばしてきた。
氷だけでは防げないと判断し、魔力を多めに使って強めの結界を張って防いだ。
(っ…これはちょっとまずいかも…)
海人は総じて電撃に弱く、勿論水兵である私もその例に漏れない。
氷を使えるとは言え、強力な電撃を直接浴びればまずい。
そう思った次の瞬間、
「きゃっ!」
電気がいきなり強くなり、結界を壊されてもろに電撃を受けてしまった。
全身が痛い。
電撃が流れたのは一瞬だけど、まだ手足がビリビリと痺れ、動かしづらい。
「水兵などになったのが仇となったな。人間であれば、そこまで苦しまなかったものを」
「人間だったら…あっさり死んでた。
異人に…なっててよかった…わ」
「私としては、お前にはせめて
「バカな事言わないで…私は、純粋の水兵よ」
でも、私は人間上がり…人間から異人になった身。
故に混血種族とは縁もゆかりもないし、純粋な水兵である事に誇りを持っている。
「電気を生み出せるアンデッドとは…新しいな」
龍神さんも、見たことがないのか。
「当然でしょ。これは尚佗様が造られた、全く新しいアンデッドなのだから」
エリムは手を合わせ、目を閉じた。
「偉大な主よ、私めにあなた様のお力を…」
そして、エリムは目を開いて、
「雷法 [プラズムネット]」
蜘蛛の巣のような形の電撃を飛ばしてきた。
「させるか!」
龍神さんが飛び込み、電撃を切り裂いてくれた。
でも、彼は分かれた電撃を浴びてダメージを受けた。
「ぐっ…!」
「龍神…!?どういうことだ…!」
驚く樹さんに、エリムはにんまりと笑いかけた。
「これが、再生者の力…相手の属性耐性に関係なく、傷を負わせられる」
「…!」
やはり、そうか。
となると、もはや頼れる人はいない。
私が、自力でこいつらを…
「なにしてやったり感出してんだ」
龍神さんが立ち上がった。
次の刹那、彼はエリムの胸を斬って払い抜けていた。
エリムは血を流し、へたれこんだ。
すると、次はメバロが彼を狙う。
「鎌技 [鎖鎌縛り]」
鎌に魔力で鎖をつけて巻き付ける、相手の動きを封じる技を放った。
「[アクアカルチェレ]」
樹さんが、水の檻を作り出して防いだ。
「ちっ…!」
メバロは舌打ちをして、鎌を戻した。
ワーグルはそんなメバロとエリムの様子を見て、
「やはり、先に始末するべきは探求者のようだな」
と言い、スペクターに樹さんを狙うよう命じた。
「っと、やべっ…!」
樹さんは、飛んできた電撃を回避した。
でも、その後も追いかけるように飛んでくるので、当たらないように逃げ回った。
彼は水属性だから、電気に弱いのだろう。
よく見れば、メバロがエリムを回復していた。
龍神さんと私は奴らの中に飛び込もうとするが、スペクターのせいで近づけない。
せめて、ワーグルがスペクターを操るのをやめさせられればいいのだけど…なかなかタイミングを見計らえない。
そうこうしているうちに、エリムは回復してきた。
そして、
「[アンデッド・イリュージョン]」
エリムの術で、スペクターが一気に増えた。
「まずい…!」
「これで、もはやお前達は終わりね」
「案ずるな…そこの探求者以外は殺しはせぬからな」
ワーグルとエリムがそんな事を言った直後、
「…」
メバロが倒れた。
「メバロ…?」
メバロの身を案じたエリムも、続くように倒れる。
「なんだ…何者だ!?」
ワーグルは、間一髪で「それ」の奇襲を食い止めた。
それはアリス三世だった。
「アリス、三世…!」
彼女は、龍神さんのものとは違う、反りのない刀でワーグルを押していた。
「貴様…いつの間に!」
「私はずっといた。今までは、存在を消していたに過ぎない」
そう言えば、今までアリス三世の事をすっかり忘れていた。
…そうか、彼女は[存在]の異能を持っていて、自身や他人の存在を人の意識や視界に映し出したり、逆に消したりする事ができるんだ。
「っ…小癪な真似を…!」
「お前達には言われたくない」
アリス三世はワーグルを蹴り飛ばした。
そして、これによってスペクターが全て消えた。
残りの祈祷師二人が立ち上がり、アリス三世を見る。
「愚かな吸血鬼ね…尚佗様の力を得た私達に、不意打ちをするなんて!」
「再生者の下僕となるとは…祈祷師は、どこまでいってもそんなものなのね」
「…お前、我らを侮辱するか!我らは、誇り高き異人だ!」
「真に誇り高き者は、再生者の部下になるなどという事はしない」
「不意打ちなどという汚い事をしておいて、よくそんな事が言えるな!私達は、お前などより余程誇り高いし、格も高いわ!」
「そう…」
アリス三世は、息を吸い込んで言った。
「なら、やはりお前達は三流の異人。
まず、不意打ちは歴とした戦術…汚いなどと言う事自体が間違っている。
次に、格が高い、という言葉は他者から言われるからこそ意味がある。真に格の高い者は、自称したりはしない」
穏やかな口調だけど、並々ならぬ威厳と迫力がある。
「言ってくれるな…!ならば、ここで決めようではないか…
我々と貴様らと、どちらが正しいか!」
「…何?勝った方が正義とでも?」
「ああそうだ…我らは実力主義!勝者が正しく、強い。敗者は間違っており、弱いのだ!」
「…はあ。呆れたものね。
いいでしょう。この町の伯爵として、高位の吸血鬼として、お前達を倒してくれるわ」
アリス三世は、こちらを見た。
「申し訳ありません。さあ、共に戦いましょう」
「はい!」
「ああ!」
「よしゃ!」
私達と祈祷師。
三対三の、対等な戦いが始まろうとしていた。