黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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理由と役目

「ふう…これで終わりだな」

 

「ええ。御三方、本当にありがとうございます」

 

「いえいえ。私達はただ、生き残る為に戦っただけです」

樹さんの言葉には、どこか重々しさがあった。

龍神さんと何度も旅をしたことがあるなら、『生き残る』というのがどんな事か、よくわかっているだろう。

 

「生き残る…ですか」

アリス三世は、龍神さんの方を見た。

「ん?」

 

「あなたは確か…吸血鬼狩りの頂点と呼ばれていましたよね?」

 

「よくご存知で」

すると、アリス三世は感心したように言った。

「あなたは、本当にすごい方です」

 

「…申し訳ないが、どういう意味か教えてもらえないか?生憎、言葉の裏の意味は読めないんでね」

 

「あなたは殺人鬼。経緯はどうあれ、この世界で生き残っていくのは、とても大変な事でしょう…私達とも、彼ら二人とも違う意味で」

 

「それは…まあ、な。

俺は社会では生きられなかった。だから人を、異形を殺し、物を奪い、罪を犯し、生きている。

生きてくってのは、本当に大変だよ。でも、世に生まれたからには、精一杯最後まで生きなきゃな…って思ってる」

 

私は、彼の生き方に異常性を感じる。

でも、一方で理解できる部分もある。

 

実は、彼のように仕事をせず強盗殺人や殺人を行って生きるというのは、殺人者はもちろん、戦士や守人と言った種族でも決して珍しい事ではなく、人間や修道士などの種族においても稀にある事なのだ。

それには、社会の行き詰まりが関係している。

 

この世界にはたくさんの種族が、社会が存在する。

でも、その中で生きていける者だけではない。

そしてそのような者には、大抵残酷で辛い運命が待っている。

極端に野垂れ死ぬか、常人より遥かに苦しみながら生きるか、のどちらかだ。

 

そして後者を選んだ者は、文字通り茨の道を進む事になる。

体と心に鞭を打って働いたり、罪を犯したり…

 

彼らは、自分たちが道を外れた存在である事、自分たちの最期が惨めで悲惨なものになることを、よくわかっている。

それでも、彼らは生きる。

それは、なぜか。

 

その答えは、私にはわからない。

でも…

 

 

少なくとも、生きていなくていい存在というものはいないと思う。

「生きているだけで素晴らしい」とは、よく言ったものだ。

 

現に、私もこうして転生して、水兵として生きているのだから。

 

私は、まだまだ経験も知識も足りない。

だからこれ以上はわからないし、考えられない。

でも、龍神さんやアリス三世は、きっともっと深く考えられるのだろう。

 

 

 

 

 

城に戻る途中、私は龍神さんの過去を見ていた。

 

彼は、子供の時から周りとは何かが違っていた。

自身が何者であり、何のために生きているのか。

それを、幼い時からずっと考えていたのだ。

でも、その答えは出なかった。

 

彼は、苦しんだ。

人と上手く関われず、他者が出来る事ができず、周囲には変人扱いされ、社会に馴染めなかった。

 

でも、彼は生きた。

心に眠る葛藤と苦しみ、そして異常な衝動を抑えながら。

 

その果てに彼が見つけた、自身が生きる理由。

それは、この世の特異な歯車となる事だった。

 

人を殺すのは、人間社会ではタブーとされる。

でも、この世に必要ないかと言われると否だ。

平然と人を殺せる怪物も、この世には必要だ。

故に、猟奇殺人者(シリアルキラー)と呼ばれる人間が存在する。

そして、そうなる運命を背負った者達がいる。

 

そして、人間の社会で生きられないのなら…

人々に受け入れられず、居場所がないなら…

自身に眠る衝動が、その運命にある証なら…

稼ぐ事ができず、他に生きる道がないなら…

 

 

彼は、そういった考えの果てに、異常者となる事を選んだ。

 

たとえ社会で罪とされる事であろうと、それが自身の生きる道ならば、それを全うする。

それが自身の定めなら、従うのみ。

 

彼は、そう考えたのだ。

 

 

私には、彼の考えが正しかったかはわからない。

でも、一人の人間として考えを巡らせ、辿り着いた考えなら、尊重すべきだとは思う。

 

 

殺人者とは、本当に恐れを抱き、人々の敵とすべき種族なのだろうか。

私は、もはやわからなくなってしまった。

 

 

 

みんなが立ち止まった時、私は現実に戻ってきた。

「はい、ただいま…っと」

 

「ふふ。では、こちらへ」

 

アリス三世は、私達に正式に護りを与えてくれるという。

 

…そうだ、私達には役目があるんだ。

今は、こんな事で思い悩んでいる場合ではないのだ。

 

 

 

玉座に腰掛け、アリス三世は喋る。

「3つのスカイストーンを、出しなさい」

 

スカイストーンを出すと、彼女は頷いて、目を閉じた。

「再生者の打倒に燃え、空への道標を集めた者よ。

汝らの功績と決意を讃え、この護りを授けます。

天空の帝国の主…霹靂の帝に挑み、そして戻ってくる汝らの姿を、私は心より望んでおります」

 

そして、3つのスカイストーンは白い光を放ちながら浮き上がり…

 

 

「おお…!」

スカイストーンが消え、代わりに出来上がったのは、不思議なデザインの腕輪。

それは、ちょうど3つあった。

 

 

「これぞ雷神の護り。これがあれば、かの帝国を包む雷の力にも打ち勝てましょう」

 

「てことは、これがあれば電撃が平気になるんだな!」

樹さんは何か勘違いしているようだ。

 

「いえ、これはあくまで、彼の居城に乗り込むためのアイテムです」

 

「そうです…残念ながら、尚佗(しょうた)の放つ雷から身を守る事はできません」

 

「そうか…残念だな」

 

すると、龍神さんが口を挟んだ。

「樹、無茶言うな。あいつの電撃は、そこらの電術士のそれとは根本的に格が違うんだからな」

 

「そうですよ樹さん」

私がそう言うと、彼ははっと驚いた顔をした。

 

「てか、結局あいつの居場所がわからんな」

そう言えばそうだ。

 

「大丈夫です。彼は、オズバの山上空で封じられた。

そして、今はミゴル山の山頂上空にいるはずです」

 

「なんでわかる?」

 

「彼の復活後、あのあたりにだけ常に雷雲がかかっていると聞きます。それに、ワーグルもそう言い残していたでしょう?」

 

「…あ、そう言えば」

 

「ミゴル山へは、この町を出て北西に行くとよいでしょう。

登るのは、きっと辛い道のりになるでしょう。

しかし大丈夫。それはかつて、生の始祖達も登った道。

あなた達に登りきれぬはずがありません」

 

樹さんは、嬉しそうに笑った。

「言ってくれるな。よーし、登りきってやるぜ!」

 

「ふっ、お調子者が。…っしゃ、そうとわかればすぐに向かおう!」

 

そして、私達はミゴル山の山頂…

もとい、尚佗の元へと向かう。

 

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