黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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テントの夜

出来上がったものを、二人はとても喜んで食べてくれた。

「ん、うまい!」

 

「中々いけるな。なんか入れたか?」

 

「ごま油で炒めただけです」

 

「ごま油か」

 

私も、食べようか。

 

簡易的な野菜炒めのようなものだけど、なかなか美味しかった。

まあ、キャンプっぽい料理といったところか…

 

「アレイ、キャンプしたことあるか?」

 

「龍神さんと旅をするようになってから、何回か」

 

「そうか。君みたいな料理上手い奴がいてくれると、キャンプももっと楽しくなるな」

 

「俺らはキャンプしに来たんじゃない。それだけは忘れるなよ」

 

「わかってるって。いやー、しかしうまいなあ!」

 

なんか、樹さん…子供みたい。

まあ彼は探求者だし、当然と言えば当然かもしれない。

 

探求者は肉体的にも精神的にも成長が遅く、20歳の探求者でも言動や顔は14歳くらいの少年のそれ…という事がザラにある。

大人になれない、という言い方をする人もいるけど、だからこそ、いくつになっても純粋な冒険を楽しみ、ロマンを追い求め続けられるのだろう。

 

 

 

 

 

食べ終わって片付けをしていた時、ふと思った。

本当は、龍神さんも探求者になるべきだったんじゃないだろうか。

 

彼は、本心ではとてもいい人だ。

殺人鬼になったのは、元々の特性や人格と環境との摩擦が大きすぎた結果、辛い経験をし続けて、心を壊してしまったからに過ぎない。

 

それに、なぜかはわからないけど、彼は口にしないだけで、冒険することを心から楽しんでいるように思える。

環境さえ整っていれば、彼も樹さんのように探求者となり、普通に働き、生きられていたのではないだろうか。

そう考えると、本当にもったいないと思う。

 

「本当は…」

 

「ん?」

 

「本当は、龍神さんも探求者になるべきだったんじゃありませんか?」

 

「…なんでそう思う?」

 

「いえ、ただ…なんとなく、そんな気がして」

 

「龍神が探求者?んー…意外とアリかもな」

樹さんは軽くそう言うけど、龍神さん自身は少し考えこみ、

「そう…だったのかもな。俺だって冒険は好きだし、ロマンを追い求めるのも大好きだ」

と、どこか寂しそうに言った。

 

「龍神さんが探求者だったら、喜んで海へ誘いますよ。殺人者でなかったら、とうに誘ってましたし」

 

すると、彼は苦笑いをして言った。

「誘ってナニをしてくれるんだよ」

 

私達がなぜ外部の人を海に誘うのか。

そして、誘って何をするのか。

彼は、なんとなく察したようだ。

でも、私は彼を利用するつもりはない。

「ふふっ…大丈夫ですよ、そんな変な事はしませんから」

 

「龍神なんか誘ってもつまんないだろ。…ま、オレは大歓迎だけどな?」

 

「樹さんは…まあ、探求者ですしね。みんな喜んでくれると思います」

 

「君自身はどうなんだよ?」

 

「もちろん、私も嬉しいですよ。ただ…私は海には誘っても、交わりはしない主義なので」

 

「え?…そっか、そうだっけか。ま、仕方ないな」

樹さんは残念そうに言った。

…本当、女好きなのね。

 

まあ、男好きの水兵はたくさんいるから、私の代わりはいくらでもいると言えばいるけど。

 

「ただ、樹さんは私が見てほしい所を見てくれてるので、そこは素直に嬉しいです。

私は人と関係を持たないだけで、異性を惹きつける事には興味がありますから」

 

私は、この部分に関しては他の大多数の水兵と違うと断言できる。

女を磨き、男性を誘うのは、ひとえに私の事を理解してくれて、性格が合う人を探すため。

そして、良さげな人を見つけられたら、しばらく一緒に暮らして親睦を深め、最後には結婚し、子供を作る。

それが、昔から理想としてきた生き様なのだ。

 

「変わった子だな。水兵って男遊びする子が多いって聞くんだが」

 

「確かにそれはありますね。でもそれは、種族の繁栄のため。水兵は同種同士での繁殖が難しいので、本能的に多くの陸人の男性と関係を持とうとするんです。

でも、私は元々人間だった事もあって、純粋に素敵な人を見つけて結婚したいな…って思ってます」

 

「なるほど、そこは人間の心が残ってる…って感じか」

 

「まあ、そんな所です。

私は無性愛者ですが、子供は欲しいと思ってます。

血筋を絶やす訳には、いきませんからね」

 

「血筋を…ねえ」

樹さんはため息をつき、真剣な顔つきになった。

 

「そう言えば、君の姉…こころは、君からすればどんな奴なんだ?」

 

「あ、お姉ちゃんですか…姉は、私からすれば、普通の姉です。

ただ、まあ…時々怖い面を見せる事はありますけど」

 

「だろうな。…はあ、しっかし不思議なもんだな。世界を支配しようとしてる再生者の妹が、世界を救おうとしてるとは」

 

「お姉ちゃんには、申し訳ない気持ちもあります。

でも、これは私の使命なので」

 

「使命?」

 

「…はい、なんとなくそんな気がするんです。

私は、転生した時から、自分には何か大きな役目があるような気がしていました。そして、龍神さんがユキさんに謁見したあの日、こう思ったんです。

私は、この人と一緒に旅をしなければならない。

そして、自分に与えられた使命を果たさなければならない…と」

 

「ふーん…」

樹さんは、物珍しそうな顔をした。

 

「君に与えられた使命…か。なるほど、それは確かに、龍神と一緒に世界を救うことかもしれないな」

 

そして、彼は今一度、真剣な顔をした。

「この世界は、アンデッドに支配されているも同然だ。

何人もの異人が、アンデッドに立ち向かい、再生者を倒そうとした。

だが、一人としてそれを成し得た者はいなかった。

君と龍神は、そんな再生者をすでに二人も倒した。

もしかしたら…いや、きっと、世界を救えるさ」

 

「そうだと…いいですね」

 

ここで、龍神さんが言った。

「雪が強くなってきたな。今日は、もう寝よう」

 

 

 

 

私は、寝袋の中で考えていた。

彼の言う通り、この世界はアンデッドに支配されているようなものだ。

再生者はまだ世界を完全に制圧していないとは言え、すでに十分過ぎるほどに勢力を伸ばしている。

人々は日々アンデッドに怯え、場所によっては事実上再生者に支配され、生活している。

 

私達水兵も、再生者の影響を受けている。

特に私達の町…レークは、再生者である星羅こころ…つまり私の姉を事実上受け入れている。

もちろん、本当はこんな事、したくない。

でも、逆らうと何をされるかわからないので、長であるユキさんも半ば諦め、やむを得ず姉を住まわせているのだ。

一応、絶対に町や近隣地区の者に手を出さない事を条件にした上で、郊外に住まわせてはいるけど…それでも、姉が住むようになってから、レークに来る人は減ったと聞く。

 

再生者を全て倒すことは、世界を救うには必須だ。

そして、恐らくはそれこそが私の使命であり役目。

でもそれは、私にとっては唯一の肉親を切り捨てる事に繋がる。

 

姉は私の大切な人であり、たった一人の家族だ。

でも、姉は世界を支配しようとする、生きた死者の一人。

 

私は、自身の感情を殺すか、与えられた役目を放棄するかのどちらかを選択しなければならない。

それはとても辛いことだ。でも…

 

 

考えているうちに、眠ってしまった。

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