黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
「…どうした?」
樹さんは、驚きつつも聞いた。
唐突な彼の行動に驚きと疑問を感じたのは、なにも樹さんだけじゃない。私だって驚いた。
「いや、こいつの目的はこんなことする事じゃないだろ…って思ってな」
「どういうこと…ですか?」
「そのまんまだよ」
そして、彼は喋りだした。
「尚佗、お前の本当の目的はアレイじゃないだろ?」
「なら、何だと言うんだ」
「俺たちさ。お前は、本当はアレイは二の次で、俺と戦いたいんじゃないか?」
「なぜそう思う?」
「そうだな…だって、俺達は昔から何かと争ってきた仲だし、それに…お前の心情は、何となくわかるしな」
「お前に人の気持ちがわかると言うのか?」
尚佗は、呆れたように言った。
「俺は、人の気持ちを考えるのは苦手だ。
でもな、自分と似た者の気持ちはわかる」
「…私が、お前に似ているだと?」
「そうさ。まあ似すぎてるって程ではないけど…俺達は、共に無駄な知識ばっかり持ってる者同士だったろ?
図太い自分の芯を持ってて、他人の話を聞かないのも一緒だ。
独自の考えや興味を持つのも、何かに集中すると周りが見えなくなるのも、常に人より優れていたいと思ってるのも…みんな、一緒だ」
尚佗は、彼の話を黙って聞いていた。
そしてそれが終わると、すぐに口を開いた。
「言いたい事はわかった。
だが、お前は大きな間違いを冒している」
「ほう?どれが間違ってるんだ?」
「まず、私は普通の人間だった。
人と上手く関われるし、友人も沢山いた。
学校でも、職場でも、人間関係には苦労しなかった。
対してお前は、学生の時から皆に変人呼ばわりされていたな。
私の見ていた限り、お前は友達はほとんどおらず、いつも一人だった。
大方、職場でも上手くやれなかったのだろう?
私は、最初の職場でも上手くやっていけたぞ?
これだけでも、多くの仲間に囲まれ、日々を楽しく過ごしていた私とは雲泥の差だ」
学校…か。
そう言えば、
―学校に通えている、というのはとても幸せな事だ。
ここでしか味わえないもの、手に入らないものが山ほどある場所だから…
「次に、私は相手に合わせて話す事が出来る。
お前はどうだ?唐突に一方的かつ無意味な自分語りを始め、相手が首を傾げると怒る。
それも、結論がよくわからない話ばかり。
私の話と、お前の話では、周囲からの評価が違う」
そう…だろうか。
確かに、彼はコミュニケーションの仕方が独特なようにも感じられるけど…
「そして…これが最大の違いだ。
私は、自身に鞭を打ち、気持ちを抑え、世の中で生きていく事が出来た。
お前は、自分を抑えられず、世の中で…社会で、生きていけなかっただろう?
私は、大多数の者と同じ…『普通』の人間だった。
お前のような少数派の…『変人』とは、何もかも違うわ」
「こいつ…黙って聞いてれば…!」
樹さんが怒ったけど、私は彼を止めた。
「樹さん。今の尚佗の言葉は、全て事実です」
私は今の話を聞きながら、龍神さんの遠い過去を見ていた。
既に知っていた事だけど、彼は元々
そして、子供の時から振る舞いが変わっていた。
人の気持ちや場の空気を読めず、思った事をそのまま言う事が多く、友達が出来なかった。
人と感情や達成感を分かち合う事に興味が湧かず、一人で自分の好きな事をする方がずっと好きだった。
一度自分で決めた事には徹底的にこだわり、どんな状況になってもそれを変えようとしなかった。
彼は、世界の全てを自分の考えを軸にして見ていた。
故に、他者を理解する事が出来なかった。
そして…
周囲は、そんな彼を変人扱いした。
友達がいなくても平気な顔をし、いつも一人で、周りからすれば変わった事に打ち込んでいる。
人と話す時は自分の事しか喋らず、相手の話は聞こうとしない。
しかも、一度喋りだすと止まらない。
一方で、周囲の常識は全く知らない。
でも一方で、好きな事に関しては誰よりも熱中し、豊かな知識を持っていた。
彼は読書が好きで、様々な分野の知識をたくさん身につけており、度々それを周囲に見せていた。
彼のような人は、周りからすると変わり者、おかしな人に見えてしまうかも知れない。
彼はあくまでも特性上そうなっているに過ぎず、本当におかしい人ではないのだけど…
―まあ、人間にそのようなものを求める事自体が、無駄骨おりなのだが。
「えっ…?」
「樹さんも、彼と同級生だったんですよね。なら、ご存知なのでは?」
樹さんは腕を組み、しばらく黙った後にあっ、と呟いた。
「言われてみれば…」
尚佗は続けた。
「私は、長らくお前という存在がなぜ生きているのか疑問に思っていた。
だが、その答えは、とうとう出せなかった。…いや、出なかった、というべきか。
なぜなら、たった今見つけられたのだからな…」
そして、尚佗は薙刀を振りかぶる。
「お前は、私と争い、そして今日、ここで散るために生きていたのだ!
数千年ぶりの再会だったが、あいにく今はすべき事もあるんでな、さっさと終わらせよう!」
薙刀から、無数の稲妻が迸る。
私は樹さんと共に結界を張り、どうにか防いだ。
龍神さんは…
黙って稲妻を受け止めていた。
「龍神さん!」
「龍神…!」
私達の声は、彼に届いただろうか。
「どうした?我が力を思い知ったか!」
龍神さんは、その重い口を開いた。
「尚佗…いや、
それを聞いて、尚佗は動きを止めた。
「今…何と言った…?」
「聞こえなかったか?山埜将汰と言ったんだ」
すると、尚佗は歯を食いしばり、わめき出した。
「お前…なぜその名を!」
「なんでだろうな。あ、俺の名前を呼びたいなら呼べばいい。そうした所で、何もないからな」
となると、今のは奴の…尚佗の、本名か。
本名を呼ばれて怒ったあたり、奴は自身の本名に何か特別な因縁を感じているのだろうか。
「どうした?」
龍神さんは、意地悪く笑った。
「馬鹿にしやがって…!この上は、お前達みな、惨殺してくれる!」
「元からそうするつもりだったんだろうが。まあいい」
そして、彼は私達に笑いかけてきた。
「さあ、お二人さん。出番だぜ。
俺と一緒に、こいつに裁きの雷を落としてくれ」
「…はい!」
「よっしゃ、やらいでか!」
私達が結界を解くと、
「[
龍神さんが私達を回復してくれた。
私は弓を構えて言った。
「再生者尚佗。あなたの相手は、龍神さんだけじゃない。
私は、彼を尊敬する者として。樹さんは、彼の友人として。あなたを、倒す!」
それに対して、尚佗はこう答えた。
「っ…そうか、まだそんな口を聞く余裕があるか。
良かろう、やってみろ!」
空中に、真っ黒い雲が現れる。
「水使いどもよ…この雷に耐えてみるがいい!
奥義 [雷光・ボルテクスセル]!」