黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
「…」
尚佗は、膝をついた。
その胸から、夥しい血を流しながら。
「なっ…!」
樹さんも驚いていた。
尚佗は、電属性。
当然、電気には耐性がある。
なのに、今の一撃で大きなダメージを受けた。
それが、私達には衝撃だった。
私は、刀を収め、息を切らす龍神さんの様子と、呆気にとられながら胸を押さえる尚佗を見て、何が起こったのか何となく察した。
「…なるほど、そういう事ですか」
「なんだ?何か…わかったのか?」
「ええ…まあ、確証は持てませんが」
「一体…何なんだ?」
「今のは、間違いなく電属性の技です…でも、同時に無属性の力も持っています」
無属性とは、その名の通りいずれの属性の成分も含まない属性のこと。
この世界では、白属性と黒属性が無属性を含有する属性として知られているけど、それらは特定の種族の異人が扱う事が多く、実質彼らの専門属性だ。
本来の無属性魔法は、扱う人は少ない。
でも異人のみならず、人間も扱う事がある。
全属性と並んで、相性の概念がない数少ない属性で、どんな相手にも安定した効果を発揮できる。
その性質上、「魔法」というよりは物理攻撃に近いものだ。
ちなみに、昨今では滅多に見かけない「弾幕」も、本来は無属性術の一種だったりする。
「どういう事だ」
「あの斬撃には、彼の強い想いがこもっているんです。そして、それが本来電属性のみの技に無属性を付与した…」
「…マジか」
「あくまで、憶測ですが」
樹さんは、腕を組んで唸った。
「一人の異人の強い想いが、技に影響を与える…珍しい事じゃないが、耐性を貫通するとは…」
「た…確かに、そうですね…」
特定の属性を扱う者は、基本的に自分の扱う属性の攻撃に耐性を持つ。
耐性の強さにはばらつきがあるけど、無効化するか、多少なりともダメージを軽減するものがほとんど。
再生者…すなわち高位のアンデッドである尚佗は、電に対しては無効化、あるいはそれに近い耐性を有しているだろう。
でも、今の攻撃は、恐らく尚佗の電への耐性を無視して行われた。
耐性貫通、あるいは耐性無視。
それは、本来ならばまずありえない現象だ。
属性ごとの相性の良し悪し。
そして、属性への耐性の性質。
これらに関する根本的概念は、どんなに強力な技や術でも、どんなに強大な力を持った異人でも覆せない。
なのに、彼の技はその壁を越えた。
この世界の不変の掟を、破ったのだ。
深く考えるまでもなく、驚きの事だ。
「この世界の掟を…摂理を、破ってしまうなんて…」
「恐ろしいもんだな、全く」
使用者の想いが、技や術に影響を与えるという形で形を取ることは珍しくない。
でもそれには、本当に強い感情と、優れた精神力が必要だ。
もし、私の憶測どおり、今のが彼の想いから来たものであるなら…彼の精神力と感情の強さは、尋常なものじゃない。
でも…全てを見たわけじゃないけど、彼は今まで相当過酷な人生を歩んできたようだ。
それを踏まえると、不思議はないかもしれない。
「!」
ここで、尚佗が起き上がってきた。
「お…驚いたよ…まさか、耐性を貫通してくるとはな…」
胸を血まみれの手で押さえ、息を切らしている。
今の一撃で、相当なダメージを受けた事は想像に難くない。
「まだ息があるか」
「当然だ…うっ…私は…その…娘を…もらうまで…消えら…れんのだ…」
私は龍神さんにに手のひらを向けて「待って下さい」と合図し、武器を収めて歩き出す。
尚佗の言葉を聞き、龍神さんは再び刀に手をかけた。
でも、彼の様子を見る限り、かなり疲れている。
強烈な一撃の代償、といったところか。
これ以上、彼に無理はさせられない。
故に、私から歩み寄る事にしたのだ。
「アレイ!」
樹さんの声が飛んできたけど、それには応えなかった。
なぜなら…
答えを見せれば、口で言う必要もないからだ。
私は、尚佗の目の前で立ち止まった。
「おぉ…星羅の、妹…」
尚佗は、その黄色い、落ち着いた瞳で私を見てきた。
「やはり、美しい娘だ…かつての…あの陰陽師と、よく似ている。
私は…お前を長い間、必死で探していた…
だが、どこにもいなかった…
今、ようやく…見つけられた。
さあ、行こう…」
私が無言で立ち尽くすと、尚佗はため息をついた。
「星羅の妹…いやさ、アレイよ…お前を待っているのは…私だけではない。
お前の家族も、皆…お前の訪れるのを、待っている…」
それを聞いて、私は目を見開いた。
「そうだ…ハハハ…
お前の家族は、すでにみなこちら側に来ている…
残るは、お前だけ。家族に会いたくば、大人しくこちらへ来るがいい…」
尚佗は何を勘違いしたのか、嘲笑った。
でも、これは奴の大誤算だ。
奴は今、言わなくていい事を言った。
そして、私の感情に火をつけた。
「あ…アレイ…!?」
「…!!」
樹さん達の声が聞こえたような気がしたけど、もはや関係ない。
姉の名前だけ出していればよかったものを。
尚佗は、もう勝った気でいたのだろうか。
…やはり、所詮はアンデッドか。
陰の手を使い、2つの手の上に魔球を浮かべる。
そして2秒ほど溜め、術を放つ。
「[グレイシャル・イロージョン]」
単発でも十分な威力がある術を、2回同時に。
すでに弱っている尚佗に、これは効くだろう。
「ぐっ…ああぁぁぁぁ…!!」
尚佗は凍りつきこそしなかったけど、それでも十二分にダメージを受けたようだった。
そして…
「ふう…ふぅ…」
尚佗は、薙刀を地面に刺し、辛うじて立っていた。
「どう?まだ、私とやる気?」
「っ…」
尚佗は、私をどこか勇ましい目で見てきた。
「星羅の妹よ…今回は、私の負けだ。
だが、次会う時は…こうはいかん。
次こそは…堂々と戦おう。
そして、決着をつけようではないか」
尚佗は後ろ向き倒れ、その姿を消した。
そして私は、鎧に結界を張った。
これで、三人目の再生者を封印できた。
「終わったのか…?」
「はい。もう、大丈夫です」
「よかった…わりと真面目に死ぬかと思ったよ」
樹さんがそう笑った直後、地面が大きく揺れた。
「な、何だ!?」
「遺跡が崩れます!急いで脱出しましょう!」
「崩れる!?わ、わかった!」
私は、龍神さんに駆け寄った。
「龍神さん…!歩けますか!?」
「大丈夫だ…そうか、尚佗が消えたから、遺跡も崩れるのか…」
「ええ。とにかく、急いで地上へ!」
建物を出てまっすぐ進んだ先から、地上へ飛び降りた。