黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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四章・悪の風
カティーヤ


着地して遺跡を見上げると、崩れ落ち始めていた。

このままでは瓦礫に潰されかねないので、急いで下山することにした。

 

 

下山した後、私達は樹さんから2000万テルンを受け取った。

さすがに持ち歩いていた訳ではなく、どこかから送ってもらったようだ。

彼は龍神さんと少し話すと、ここまでだな、と言ってどこかへ去っていった。

その際、私は彼に言った。

「次に会った時は、海へ行きましょう」

 

 

 

彼が去った後、私は目の前の光景が信じられなかった。

今までに見たことも想像したこともないくらいの大金。

これだけあれば、当分の間旅の予算に困らないどころか、魔法薬や高価な武器を買っても全く問題ないだろう。

 

まあ、私は武器は今ので十分だけど。

でも、防具…というか魔法服は欲しい。

 

魔法服とはその名の通り魔力が込められた服で、普通の服より物理・魔法攻撃への防御力が高かったり、魔力の伝導性が高かったりする。

重い鎧を着られない異人や人間が鎧のかわりに着る事も珍しくなく、ごくありふれた防具として広く浸透している。

騎士なんかは、鎧の下に着込んで二重に守りを固める事もあるらしい。

 

私達の制服も一応魔法服だけど…言わずもがな、戦闘用ではない。

もちろん、私が今制服の上から身につけているジャンパーやタイツは魔法服ですらない。

 

尚佗との戦いで、うっすら感じた。

ここから先は、恐らくもっと厳しい戦いが待っている。

となると、当然戦力を上げていかなければならない。

 

そのためにできる事で一番簡単なのは、武具を一新すること。

でも、私は重い鎧を着て動ける自信はない。

なので、魔法服が一番確実だと思う。

 

…それに、鎧は個人的にあまり好きじゃない。

魔法服なら、ある程度おしゃれなものやかわいいものもあるので、そっちの方がいい。

私だって、そういうものが好きなのだ。

 

 

龍神さんに魔法服が欲しいと言ったら、それならちょうどいい奴が知り合いにいる、という。

しかも、無料でやってくれるそうなので、その人に任せる事にした。

 

 

 

やって来たのは、なんとジヌドの町。

…の、郊外。

 

「え、ここ…ですか?」

 

「ああ」

それは、一見するとごく普通の家。

龍神さんは、その入口を叩いて叫んだ。

「おーい、客だぞー」

 

すると、ドアが開いた。

 

「…?お、お前は」

 

それは、前に合った事がある人だった。

確か、反社會の組長。名前は…

 

「よう、ザーロン。遊びに来たぜ」

…そうだ、ザーロンって言ったっけ。

 

「…はあ。お、娘さんも一緒か」

 

「こんにちは。お久しぶりです」

 

「お久しぶりです…そうだね。…で、何の用だ、龍神」

 

「アレイが、魔法服が欲しいって言うんでね。お前の姉貴に助けてもらいたくてな」

 

「あー、そういう事か。…わかった、入ってこい」

 

家に入り、真っ直ぐな廊下を進んでいく。

壁には、たくさんの絵がかけられていた。

 

「すごい…これ、ザーロンさんのご趣味なんですか?」

 

「いや、僕の趣味じゃない。これらは全部、姉貴のなんだ」

 

「そうなんですね」

この人、お姉さんいたんだ…と思ったと同時に、ちょっとゾワッとした。

反社會の組長の姉…って、一体どんな人なんだろう。

もしかしたら、彼よりずっと恐ろしい人かもしれない…なんて考えてしまった。

 

「…さ、ついたよ」

茶色いドアの前で、彼は立ち止まった。

 

「そうそう。娘さんに、一つ、言っとかなきゃないことがあるんだ。

姉貴に言いたい事は、口で言うんじゃなく、心の中で言ってくれ。姉貴は、心の中で会話するから」

 

「わかりました」

一瞬、変わった人なんだな、と思った。

でも、少し真剣に私を見てくる龍神さんの顔を見て、何か事情がありそうだな、とも思った。

 

「それじゃ、入るぞ…」

ザーロンさんはドアを開けた。

 

 

きれいに掃除された部屋の中央に、古ぼけた揺り椅子があり、そこに茶髪の女性が座っていた。

 

(お邪魔します…)

心の中で言うと、少し間を置いて返事が返ってきた。

 

『…初めて聞く声だね』

 

『え、声…?』

本当に、心の中の声で会話している。

見た限り、女性は口を全く動かしていない。

というか、目線も私の目を見ていない。

 

『久しぶりだな』

龍神さんの声が頭の中で聞こえた。

この人の異能は、他の人の心の声も聞こえるようになるのか。

 

『おお…久しぶりだね。ザーロン、これはどういう事?』

女性は、ゆっくりと心の中で喋る。

 

『これはどういう事…ああ、そうだ。この子の魔法服を作ってあげてほしいんだってさ』

 

『そう。…名前は?』

 

『アレイ。アレイ・スターリィです』

 

『へえ…おしゃれな名前だね。私は、カティーヤ。あんたの話、聞いてるよ。前は、弟が世話になったね』

 

『いえいえ。…一つお聞きしますが、なぜ口で喋らないんですか?』

 

『きれいな顔してるね。私は…』

 

『え…?』

 

『え…?あっ、そうか。ごめんね。それで、何?』

 

『え…』

会話が噛み合わない。もしかして、この人も弟さんと同じ障害があるのだろうか。

 

『どうして、口で喋らないんですか?』

私は、ゆっくりと言った…心の中で。

 

『ああ、それはね…』

 

ここで、龍神さんが私を見てきた。

『カティーヤはな…色んな意味で俺達の仲間なんだ』

 

『仲間…?』

 

『ああ。まず、カティーヤは無双者だ』

無双者は、殺人鬼と並ぶ殺人者の上位種族。

殺人鬼とは違い、世間では割と良い印象を持たれている。

その理由は色々あるけど、一番は人々に手を出さず、普通の仕事をしている事が多いからだろう。

 

『そして、俺達と同じ特性を持ってる。喋らないのも、それが故の事だ』

やっぱりそうだったんだ。

でも、この人は龍神さん達より重いものを持っているようだ。

 

「…」

 

カティーヤさんは、わずかに口を動かした。

 

「…そう。わたしは、かれらとおなじ…」

 

それ以上は喋らず、また心の声で喋った。

 

『私は、彼らと同じ…障害がある』

 

カティーヤさんは、辛そうに言った。

 

『そ…それで魔法服の話なんですが…』

 

『…そう、だったね。どんな服がいいの?』

 

『物理と魔法の両方に耐性がある、カーディガンみたいな感じの服が欲しいです。あ、あと、出来ればシンプルなデザインがいいです』

 

『シンプル、って言うと…?』

 

『うーん…あっ、なら、模様なしの単色のものでお願いします。生地の色は、白で。あと材質は…ひとまず暖かいもので』

 

『縫う糸の色はどうする?』

 

『え?えーっと…同じく白でお願いします』

 

『…わかった』

彼女はザーロンさんに生地の材質と色、大きさ、そして糸を細かく指示した。

彼がそばの床に置いてある袋を漁り、言われた通りの色、材質、大きさの生地と糸を取り出した。

それらを受け取ると、カティーヤさんは手をかざして

織り機を召喚し、作業を始めた。

 

織り機は、カティーヤさんが座っている揺り椅子と共に木製のもので、かなりの年季を感じさせる。

『ずいぶんレトロなものを使ってるんですね』

 

『姉貴は、あの織り機と椅子に…こだわりがあってね。どうしても、あれじゃないと嫌だって言うんだ』

こだわり…か。まあ職人気質な人ほどそういう道具ややり方へのこだわりが強い、なんて言うし、不思議はないか。

 

『どれくらいで出来ます?』

 

カティーヤさんは、答えてはくれなかった。

 

『あーっと、ストップだアレイ。カティーヤは、一回集中すると終わるまで止まらないんだ』

龍神さんに、そう(心の中で)言われた。

 

『さあ、出よう。できるまで、リビングでゆっくりしててくれ』

 

ザーロンさんの言葉通り、私達は部屋を出た。

 




異人・無双者
殺人鬼と並ぶ、殺人者系の上位種族。
その名の通り、戦いにおいては「無双」と呼べるほどの奮戦を見せるとされる戦闘力の高い種族。
その戦闘力を活かし、傭兵やゲリラ兵などとして戦いに参加することも少なくない。
殺人鬼と異なり、社会や人に悪意を抱いている者や、犯罪を犯して生活している者は少なく、作家や訓練所の教官などの仕事に就いている者が多い。
その上、仕事で優れた成果を上げる事も珍しくないため、殺人者の仲間でありながら世の人々に受け入れられ、時には尊敬までされている特異な種族。

カティーヤ・リトスタ
ザーロンの姉。年齢は25歳。種族は「無双者」。
重度の自閉症を持っている。
他者とコミュニケーションを取ることが難しく、口頭での会話も困難だが、相手と心を通わせて会話する[念話]の異能を用いた会話はおおむね可能。
独自のセンスと器用さを持ち、「メルティー」の名でファッションデザイナー及びハンドメイド作家として活動している。
戦闘では、扇と鞭をメインに扱い、その戦闘センスは非常に優れている。


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