黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
リビングは落ち着いた雰囲気で、ゆったりと休むにはちょうど良い場所だった。
「さあ、昼寝でもして時間を潰そう」
「できるまで、どのくらいかかるんですか?」
「たぶん、3時間くらいかな」
「なら、確かに寝てた方が早く過ぎますね」
そんな話をしていると、突然外が騒がしくなった。
「?何でしょう」
「ちっ…またナアトの奴らだな…!」
「ナアト、って町の…ですか…?」
ナアトは魔道都市の一つで、ここからだと北の方にある。
確か、風属性の皇魔女がいる所だったはず。
「ああ。最近、あそこからちょくちょく異人が押しかけてくるようになってね。なんだかよくわからないんだけど、うっとおしいんだよな」
「向こうで、何かあったのでは?」
「…えっ?」
「あ、ですから、この町の人が向こうで何かしたんじゃないか、って…」
「あ、そういう事ね。でも、こっちの奴が向こうで問題起こす理由なんてあるかな…?」
「でも、なんの理由もなしに攻めてくる筈はありませんし、何か理由があるんですよ、きっと」
「まあ、それはそうだろうけど…」
すると、龍神さんが立ち上がった。
「まず、出てみよう。それが一番確実だ」
外に出ると、ジヌドの人達と緑のローブを着た人達が争っていた。
ローブの人達は風や光の術で攻撃し、ジヌド側の人達は火炎瓶や手投げ爆弾などで対抗する。
私は、驚いた。
緑のローブは、ナアトの正式な兵士の格好だからだ。
「えっ…!?なんで兵士が!?」
「あれ、兵士なのか?」
「はい…あれはナアトの正式な兵士の服装です!」
「…なるほど、つまりカチコミに来たわけだな」
ザーロンさんは、大剣を取りだした。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「どうした?」
「ひとまず、私が話を聞いてきます。なので、ここで待ってて下さい!」
そして、私は兵士達の方へ走り出した。
「…あの!」
「…え、水兵!?なんでこんな所に!?」
「説明は後です!それより、なんで町を攻めているんですか?教えて下さい!」
「え、えーと…」
兵士は混乱したようだった。
「どうした…ん、水兵とは珍しい。もしかして、捕まっていたのか?」
「違います!あなた方がなぜ町を襲っているのか、聞きたいんです!」
「最近、我が国で殺人者による事件が相次いでいてな。これ以上被害を出さないため、最寄りの殺人者の町であるここを、潰す事になったのだ」
「その殺人者たちは、間違いなくここの関係者なんですか?」
「それはわからん。だが、疑わしい所は潰すに限る」
「そんな…!
ここの人達が、あなた方の国で悪さをしてなかったら、どうするつもりなんですか!」
「その時は、その時だ。
我々は、あくまでも皇魔女陛下の命に従っているだけなのでな」
「…!」
そしてその兵士は、皆に命令を下した。
「逆風の用意をしろ!敵の投擲武器を、押し返せ!」
このままでは、互いに多くの犠牲が出てしまう。
そこで、私は…
「…」
両手を握るように合わせ、目を閉じて魔力を流す。
あたりの気温が急激に下がり、兵士達のうろたえる声が聞こえてくる。
少し乱暴な方法だけど…仕方ない。
このまま無用な争いを続けるよりマシだ。
「[霜降のスノーラル]」
場に冷気を吹かせ、戦っている全ての人達の体に霜をつかせて動きを止める。
同時に、火の燃焼や水、風の術も強制的にストップさせる。
突然の事に驚く人々に、私は手を上げて声を張り上げた。
「皆さん、戦いをやめて下さい!
私は、皆さんがわけもわからずに争うのは耐えられません!
ナアトの人も、ジヌドの人も、無用な争いはやめて下さい!」
すると、ナアトの一人の兵士が言い出した。
「無用な争いじゃないぞ…」
「え?」
「俺たちは、殺人者を倒そうとしてるだけだ!
これは、必要な戦いなんだ!」
すると、それに賛同する声が複数上がり、兵士達が再び戦いを始めようとする。
「…!」
とっさに魔弾を放ち、彼らを凍りつかせた。
「殺人者だからと言って、悪人であるとは限りません。
そもそも、本当にこの町の人が原因だと決まった訳でもないでしょう」
「そんなのわかんないだろ!」
飛んできたヤジに、私は答えた。
「ええ、そうですね。では、確かめてみましょう」
手をかざし、空中にこの町とナアトのここ数週間の過去を映し出す。
「私は過去を見る異能を持っています。
今映し出しているのは、こことナアトの数週間前の様子です。ここから、徐々に時間を進めていきます」
一日一日と時間を進めていった。
確かにナアトで殺人者が暴れた事が何度かあったようだったけど、その中にジヌドから来た人はいなかった。
映像を消し、私は言った。
「この通り、この町からナアトに渡った人はいません。よって、この町をあなた方が攻撃する理由は全くない。こう言っては何ですが、あなた方の行為は、単なる侵略です」
兵士達は、黙ってしまった。
「…今のは、本当に現実の過去なのか?」
兵士長らしき男性が、言ってきた。
「はい。私の異能を疑っているのなら、あなたの過去も映し出してご覧にいれましょうか?」
「いや、いい…わかった、軍を引く。
だが、今のお前の言葉を、我が国の皇魔女陛下にも言え。我らは、陛下には逆らえんからな」
「いいでしょう。あなた方と一緒に、ナアトと行かせてもらいます。そして、皇魔女陛下にきっちり事情を説明し、納得させて見せます」
何人かの兵士が、私の発言と態度に驚いていたけど、当然の事だろう。
私は龍神さん達を呼び、あたりの片付けを手伝った。
そしてそれが終わるころ、ザーロンさんから魔法服を受け取った。
真っ白く、着心地のよい暖かいカーディガン。
あたり前かもしれないけど、私が注文した通りのものだ。
「これ、耐性もあるんですよね?」
「そのはずだ。姉貴は、正確なオーダーさえ貰えれば、きっちりその通りにやる奴だからね」
「ありがとうございます。では、私達はナアトへ行きますので、これで」
「ああ。頼むよ、向こうと話をしっかりつけてきてくれ」
「はい」
私達は、兵士達と共にナアトへ歩いて向かう事になった。
最初、龍神さんが殺人鬼である事を気にする兵士もいたけど、「例の二人」であるとわかるともう何も言う人はいなかった。
その上、兵士長がこんな事を言ってくれた。
「殺人鬼ならば、道中の護衛としては心強い。
下手な傭兵より、余程安価で確実な戦力だ」
兵士長がそう言ってくれて、嬉しかった。
◆