黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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ナアトと流未歌

俺には、それが意味しているものが何かわからなかった。

「これは…どういう状況だ?」

 

「マーラヴ…流未歌の率いる不死者の群れと、戦ってる人々の様子よ」

言われてみれば、確かに武器を手にした大勢の人々が、同じように武器を持ったアンデッドの大群と戦っているようにも見える。

 

「…。この絵と、この国を流未歌が狙う理由に、何の関係性が?」

 

アレイもわかっていないようだ。

正直、ちょっと安心した。

「確かに、この絵を見るだけではわからないかもね。この絵の人々は…みんな、この国の異人なのよ」

 

「えっ…!」

 

「とすると、これはナアトの異人が総出で流未歌のアンデッド軍団に立ち向かっている様子か?」

 

「総出、ではないけどね。彼らはこの後…どうなったと思う?」

 

「負けた…か」

 

皇魔女は、無言で頷いた。

 

「彼らは勇敢だった。でも、相手が悪すぎた。

当時のナアト…もといナアト聖王国の民は、不死者に対抗する術を何も持っていなかった」

 

「それで…どうなったんです。まさか、皆殺しに…!?」

 

「そう…戦いに参加した者はみな死んだ。そして…」

皇魔女は、ページをめくる。

そこには、曲刀を腰に差した緑髪の女…流未歌が、集まったナアトの民の前で何か話している様子が描かれていた。

 

「ナアト聖王国は、流未歌によって滅ぼされた。

民は命を奪われて奴の部下にされ、王族は奴の糧として取り込まれた…」

 

いかにも再生者らしい。

 

…となると、ナアトはその後どのような経緯で再建されたのだろうか。

 

「でも、希望は残されていた。ナアト聖王国の民は、全滅したわけじゃなかった。そして、生き残った一人の魔法使いが、予言した。

3人の女の異人が、いずれここにくる。

そして、流未歌を討ち取ってくれる…と」

 

それが誰の事であったのか。

そして、それが当たったのか。

考えるまでもなくわかる。

 

「それが、三聖女…」

 

「そう。生の始祖シエラ。大賢者セニアの娘サディ。人間上がりの司祭リレイダ。彼女らはナアトの廃都を訪れ、流未歌の存在を知った。

そして、ネフィラー山の山頂にある巣を目指した」

 

聞き慣れない名前が出てきたが、一瞬で理解した。

司祭は僧侶の上位種族であり、昇格の際に洗礼という儀式を受け、本名とは別の「洗礼名」という名前を授かるという。

恐らく、今出てきた名前がシエラ以外の二人の本名で、「苺」「凛央」という名前は彼女らの洗礼名なのだろう。

 

…まあ、凛央の本名は知ってたが。

 

「そして、流未歌を見事に討ったと…?」

 

「いいえ。流未歌は、根本的に地上の者を見下していたから、シエラ達を一息で吹き飛ばして、相手にもしなかった。

その時、流未歌は彼女らにこう言った。

『私と手を合わせたいならば、空を自由に翔ける事ができるようになってから来い』」

 

なるほど、相手を煽りつつ、自分の得意なシチュエーションで戦えるように持ち込もうとした訳だ。

あいつなら、やりそうな事だ。

 

「当時、シエラ達は自由に飛び回る能力を有していなかった。

そこで、ブイクタの樹海に向かった。

当時そこにはラモンという反逆者が住んでいて、ラモンは自由に空を飛び回る事ができた。だから、彼女らは彼に協力を願おうと考えたのよ」

 

反逆者…か。

俺や朔矢のように人を殺しまわり、世の脅威となる『殺人鬼』。

カティーヤのように世に貢献し、人々の殺人者のイメージを覆させる『無双者』。

そして、まだ出会ってないが、他者の肉体そのものを糧とする『食人鬼』。

この3つが殺人者系の上位種族だが、これらよりさらに上位の種族が反逆者。

 

永い年月を生き、もはや数え切れない程の数を殺し、

数千の戦いを乗り越えた、海千山千の殺人者が昇格するとされるが、昇格の方法はよくわからない。

 

強さはもとより、カリスマ性も一級品で、種族問わず多くの者に慕われる。

さらに「命の概念を超越した存在」であり、年を取ることもなく、自ら死を望まない限り死なない。

 

霊騎士や陰陽師と同等かそれ以上の強さを誇る種族だが、ここ数千年の間は目撃例がほとんどなく、存在を示す痕跡も見つかっていないため、絶滅した種族だとされている。

所によっては、おとぎ話や伝承の中にだけ登場する異人…すなわち、そもそも実在しない種族として認識されていることもあるとさえ聞く。

 

だが、俺は信じている。

反逆者は間違いなく存在する…今も昔も。

 

…いや、信じて()()と言うべきか。

なぜなら、こうして正式に残された書物に反逆者の記載があるということは、反逆者が確実に存在したという事の証明なのだから。

 

「ラモンは、最初三聖女に非協力的だった。

でも、シエラの説得の末に、彼女らに協力することにした。

ラモンは彼女らを連れて舞い上がり、あっという間にネフィラーの岩山まで飛んだ。

流未歌はそれを見て、ようやくまともにやり合う気になり、彼らと戦った」

 

「そして、勝ったんですか?」

 

「ええ。でも、シエラ達にとってもきつい戦いだった。ラモンがいてくれたおかげで、どうにか勝てた。

彼女らは、後にナアトの民にそう言っていたそうよ」

 

三聖女でも苦戦するとは。

今までの再生者とは、レベルが違うのか。

 

「その後、三聖女は長い年月をかけてナアトを復興させ、魔導王国ナアトを完成させた。

そして、旧ナアト聖王国の生き残りの中で最も優れた才を持つ魔女に、これからこの国を統治していくようにと言い残して去っていった。

その魔女こそ、この国の初代皇魔女、ティマス・カネリア。

彼女は、私の母の恩師でもある」

 

なるほど。

つまりこの本は、流未歌とナアトの歴史、及び今のナアトがどのようにして誕生したのかについて書かれたものだったわけだ。

そして同時に、なぜ流未歌がこの国を狙うのかについても、それとなく示唆している。

 

「…つまり、流未歌はかつて潰したけど再建されたこの国を、もう一度潰したいと思っている…ということですか?」

 

「恐らくはね。奴は執念深い性格らしいし、生者を憎んでいるから、不思議はないわ。

…故に、私はこの国に殺人者を敢えて滞在させてるの」

 

「どういう事ですか?」

 

「私達だけでは、流未歌の仕向ける不死者を退け続ける事は難しい。だから、殺人者系種族が町に滞在する事を許可しているの。

誘致してしばらくはみんな大人しくしてたんだけど…この数週間の間に、何があったのかしら…」

殺人者系、ってことは何種類かいさせてるのか。

なんというか…なかなか勇気がいる事してるな。

 

「それって、殺人者全部がそうなんですか?」

 

「もちろん、そんな事はない。ただ、日に日に問題行動を起こす殺人者が増えているような気もする…」

 

ここで、俺は口を開いた。

「ことを起こしてる殺人者に共通してる特徴とかあるか?」

 

「そうね…強いて言えば、男の通り魔か恨み人がほとんど、ってことかしら」

 

それを聞いて俺は、念を押すように言った。

「間違っても、殺人者を国から追放するなよ。それは恐らく、流未歌の策略だ」

 

「どういうこと?」

 

「奴は、男を魅了して意のままに操る。

何らかの方法で殺人者を魅了して問題を起こさせて、殺人者自体が国から追放されるよう仕向けてるんだろう」

 

「…いやらしいやり方ね。いかにも不死者らしいわ」

皇魔女は、苦々しく言った。

「今の話に出てきた、ネフィラーの岩山、ってのはどこにあるんだ?」

 

「ここから北東にある。そう遠くないわ」

 

「なら、余計に狙われるだろうな。

じゃ、ブイクタの樹海ってのはどこにある?」

 

「ここから東。こっちもさほど遠くない。ただ…」

 

「ただ?」

 

「ブイクタの樹海へ行くには、カフアン山という山を越えなければならない。

結構高い山だし、今は流未歌の力のせいで飛ぶことも出来ないから、樹海に行くのは大変よ」

 

「大丈夫だ。山越えは慣れてるんでね。アレイ、大丈夫だよな?」

 

「はい」

アレイは、力強く頷いた。

 

「…もしかして、反逆者に話をつけてくるつもり?」

 

「ああ。反逆者には、一度会ってみたいと思ってたしな」

 

「…わかった。でも、反逆者ラモンはすでにこの世を去っている。今は、彼の息子のルーヴァルという反逆者がいるはずよ」

 

そこまで皇魔女が言った時、部屋の扉がノックされた。

 

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