黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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アメル

マトルアを発って、はや5日。

この所、町や集落は一切見ていない。

そして、この道の終わりもまったく見えない。

 

なるべく早く向こうに向かいたかったので、兎にも角にもマトルアを出て歩き出したのだが…色々と、思ったのと違う事になった。

まず、あれからずっと吹雪続きだ。

おかげで視界が悪いし、まともに前に進めない。

本来は3日もあれば向こうにつけるはずらしいが、とうにその倍近くかかってしまっている。

 

雪だけでなく、寒さもきつい。

術で体を温めるにしても、その効果は一時的なもの。

何度もかけ直さないといけない事を考えると、魔力の面でも非効率だ。

 

その意味でも、アレイが心配だ。

俺は雪国育ちだし、今まで数え切れないほどの冬を越してきたから、寒さには慣れている。

それに、能力を使って体に電気を流せば、簡単に暖を取れる。

 

だが、アレイはそうはいかない。

アレイは水兵、即ち海人の仲間。

冷たい水には強くても、厳しい寒さや雪には弱いだろう。

まあ、水兵自体が寒冷地に多い種族だし、彼女の町であるレークは比較的温暖な環境であるとは言え、ある程度は寒さに慣れてるとは思うが。

 

あとどうでもいいが、レークの気候は奇遇にも、人間界の俺の出身地と似た気候だったりする。

レークは夏は暑いが、11月の序盤か中盤あたりには雪が降り、3月の半ばあたりまで寒いという。

つまり大体四ヶ月、一年の3分の1は冬と言える。

この辺は、俺の故郷とほぼ同じようなものだ。

 

そして、レークの冬は雪はそこまででもないが寒く、基本は真冬日で、-20℃くらいまで下がることもある…らしい。

俺の故郷ではそこまで下がることはまずなかったが、それでも月に何回かは-10℃を下回り、時には-15℃くらいまでいくこともあった。

 

朝起きたら水道管が凍ってて、自然に解けるだろうと高を括ってたら結局翌日まで解けず、1日風呂に入らなかった…なんて事もあったっけな。

他にも、冬休み中は毎日のように雪かきをしてたとか、家の庭にかまくらもどきの雪山を作って、翌日に掘り抜こうとしたら表面がカチカチに凍ってたとか…思い出すとキリがない。

 

あの当時はなんてことない日々を過ごしているだけだったが、今となってはいい思い出だ。

 

 

 

「寒いですね…」

 

「ああ…ん…?」

吹雪の中、遠目に何かが見える。

それは、建物のようだった…

 

「建物…?あっ…もしかして!」

アレイは、あれが何かわかったようだ。

 

「龍神さん、急ぎましょう!」

 

 

 

建物の正体は、ミジーの町だった。

建物…というか国の城壁だったようだ。

町に入り、城へ向かう途中で見覚えのある水兵に会った。

 

「あ、アメル」

レークで、アレイのマチェットを磨いてくれた水兵。

アメルは、町の一角で一人佇んでいた。

 

「あなた達に同行するため…って言ったら、驚く?」

 

「驚く…な。どうしてまた?」

 

「マーシィから色々と話を聞いてね。町にいても退屈だから、しばらくあなた達に同行しようと思ってね」

 

一瞬、マーシィから?と思ったが、数秒後に納得した。

そうか、マーシィはロザミなんだった。

 

「でも、なんでミジーに?」

 

「あなた達がミジーの東の森に向かったって聞いたから、たぶんここに寄るだろうなと思って待ってたのよ」

 

そして、アメルは俺に一歩歩み寄った。

「どう?私を、同行させてくれる?」

 

「もちろんだ。これから影喰らいを潰しに行くからな、仲間は一人でも多い方がいい」

これは本音だ。

悔しいが、俺が殺人者である以上、影喰らい相手ではどうしても分が悪い。

できれば、殺人者以外の種族の仲間が欲しいと思っていたところだったが…思いがけない幸運だ。

 

「影喰らい…ねえ。わかった」

アメルは手を払い、その掌の上に小さな火の玉を作り出して言った。

 

「その戦い、私も参加させてもらうわ。…この、ガラムレトと火の力を以て、ね」

 

 

 

 

 

正直、アメルが加わってくれて助かった。

仲間が増えたというのもあるが、彼女の火の術のおかげでどこへ行っても寒さに震えずに済むのがでかい。

慣れてるとは言っても、寒いのは寒いからな。

 

カイナに軽く謁見したら、ロザミから手紙が来ている。こちらも最近の影喰らいの動きはおかしいと思っていた、あなた達が行ってきてくれるなら丁度いい。蹴りがついたら城に戻って報告を頼む、もし一週間経っても戻ってこなければ、こちらから兵を出す、とのことだった。

 

ついでにカイナは食料の援助もしてくれた。

具体的にはパンやドライフルーツ、野菜や肉など。

寒いおかげで、ただリュックやケースに入れておくだけでも十分保管しておけそうだった。

 

ミジーの城を出ると、もう夕方だった。

雪もまだ止んでいないので、今日はもう休む事にした。

宿を取り、部屋に行くと、いきなりアメルがこんな事を言った。

 

「ねえ、あなた達…()()はしてないの?」

 

意味がわからなかったが、アレイはため息をついて「してない」と言った。

 

「アレイ…あなた、つくづくつまんないよね。こういう時こそ、冒険するチャンスなのに」

 

「そういうのいいから。私はそんな気ないし、彼もそういう事は望まない」

 

「え、そうなの?」

 

「ええ。だから…」

 

アレイが言い終わる前に、アメルは俺を見つめてきた。

「ねえ…私…どう…?」

 

そんな事を言いながら、しばらくにんまりと笑って俺を見てきたが、やがて何やらふてくされてしまった。

申し訳ないが、俺はジェスチャーや身振り手振りをされるだけでは何をしてほしいのかわからないのだ。

 

 

 

その夜遅く…

アレイが寝たタイミングで、アメルが話しかけてきた。

「寒い?」

 

「ああ…」

 

「なら、私が温めてあげよっか?」

 

「…は?」

 

「うふふっ…」

アメルは微笑みながら唇に手を当て、俺のベッドに入ろうとしてきた。

ここまで来ると、いくら俺でも彼女の意図はわかる。

 

「あっと、そういうのはいい」

 

「あらそう?残念。心と体を温めてあげようと思ったのに」

 

「余計なお世話だ。早く寝ろ」

 

 

ラニイといい、キャルシィといい、水兵ってのは隙あらば男を捕まえて自分のものにしようとするようだ。

まあ、ある意味まともな事ではあるが。

女だけの種族は水兵以外にもいくつか存在するが…水兵がこうだと、それらとはあまり出会いたくないなと思ってしまう。

 

俺は恋人とか子供とか、欲しいと思ったことがない。

俺は色んな意味で異常者だ。何かの間違いで結婚だの何だのをしたら、相手を不幸にしてしまうのは目に見えている。

子供にしても、仮に出来たとして…この厄介なASD(特性)が遺伝してしまったら…。

そうなったら、とても親を名乗れない。

 

俺は、今までずっと苦しんできた。

こんなに苦しむのは、俺だけで十分だ。

 

まず、今日はもう寝よう。

朝には、雪が止んでるといいが。

 

寒いな…身も心も。

 

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