黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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冷たい夜

思ってもない内容だった。

まさかラディア討伐を詠った詩に…

いや、三聖女と紀琉葉に関する物語にそんな続きがあったとは。

「悲しいお話ね…」

アレイがどこか悲しげに言った。

「えぇ…

でも、実は歴史的にはこうなった方がよかったのよ」

その理由は聞くまでもなくわかった。

「どうして?」

 

「紀琉葉の祖先は、元々吸血鬼だったの。

それが、ある時術士と一緒になった事で、その子孫は吸血鬼の血を持つ術士になった。

でも、それはとても危険な事なの」

 

「そうだな…

そんな一族、まず長続きはしない」

 

「なぜなんです?」

 

「吸血鬼の血を持つという事は、体は生者だが内面は吸血鬼ということだ。

よほど精神力が強くない限り、心の奥底に刻まれた本能を完全に封じる事は出来ない。いずれ何かの弾みで本能が目覚め、理性を失って本当の吸血鬼になる」

 

「あ…」

今ので、アレイは察してくれたらしい。

 

「そういう事よ。幸い、彼によって変えられた魔女は数名程度だったから、ロミの町がなくなる事はなかった。

それにこの一件で、生の始祖様は吸血鬼を倒す集団を作り、それを元にして吸血鬼狩りという集団が生まれ、吸血鬼の残党が排除されるようになっていった。

だから、生者の歴史的にはよかったのよ」

 

「そう…

あれ、変えられた魔女たちはどうなったの?」

 

「紀琉葉の死後、全員まとめて殺されたそうよ。

でも、仕方ない事だったのよね…」

 

「…」

 

「アレイ…」

俺は、アレイの肩に手を置いた。

「…吸血鬼狩りって、辛い仕事なんですね」

 

「でも、必要な事なんだよ。奴らが、生者を襲う以上はな」

するとアレイははっとしたように、

「なぜ、アンデッドは生きてる人を襲うんでしょう?」

と言い出した。

まあ、確かにそれは誰もが一度は思うよな。

「明確な理由は俺にもわからん。

だが、生者の[何か]を妬んでるから、って事は確かだ」

 

「何か、ですか…?」

 

「ああ、それが具体的に何なのかわかればいいんだがな…」

 

「そうですね。

あ、まだ一つ詩は残ってますが…」

 

「そうだったな。是非詠ってほしい」

 

「それでは、最後の詩です。

古の詩 氷哀の水兵メレナ

厳冬の海を割り、氷柱(ひょうちゅう)と共に浮上したり。

かつて嵐の海に身を投げた、哀しみと恨みを背負う娘。

第七の儀の後に現れし、冷血なる水兵。

氷を司り、北の凍海のいずこにか巨大な神殿を築き、温海を凍てつかせ、水霊(すいれい)を操り、全ての水兵と海人を殺めんとした彼女は、氷哀の水兵メレナと呼ばれた。

三聖女八度船で凍海を渡りメレナに挑むも、全て船を沈められ敗れたる。

九度目に凛央は氷河に閉じられ、かの水兵に呑まれた。

仲間を一人失いて陸に戻りし時、苺曰く、水兵の宝玉海の涙をもってすれば、再生者をも沈められるやもしれぬと。

生の始祖、藁にもすがる思いで水兵の長を訪ね、海の涙を借り受け、再び凍海に漕ぎ出す。

メレナは次は二人ともを呑み込まんとするも、生の力溢れる宝玉に妨げられ敵わず、神殿の最奥にて祀具の矢に封じられた」

 

メレナ、即ちメレナ·ブルーモは七大再生者でありながら、なぜか公には情報があまり残されていない。

わかっているのは氷の属性を司る水兵由来の再生者である事、三聖女とは合計10回戦い、8回は船を沈めて勝ち、9回目の対決の時に凛央を氷に閉じ込めて飲み込み、10回目にして敗れ凛央を吐き出した、という事くらいだ。

 

「以上が、七大再生者の詩になります。

どうでした?」

 

「ひとえにすごかったよ。

知らなかった事まで詠われてたしな」

 

「私も凄いと思ったな。

今のは初めて聞いたけど、凄く面白かった」

 

「ありがとう…ございます」

 

 

と、ここで…

「あ、いつもの方々が来ました」

という訳でずらかることにした。

 

 

 

 

 

 

 

その後はクラブを出、雪の中を歩いて適当な店で食事を取った。

そして…

「宿を見つけないと、だな」

 

「それなら心配はいりません。

ここからそう遠くない所にホテルがあるので」

 

「ホテル…か。

まあいいだろう。他に無さそうだし」

 

 

 

       ◇

 

 

 

私は龍神さんを連れ、最寄りのホテルに向かった。

因みにホテルはこの町には4つある。

 

 

チェックインを済ませ、案内された部屋に向かった。

私は206号室、龍神さんは210号室。

ちょっと遠いのを変に思ったけど、深く聞かない事にした。

 

部屋のお風呂で入浴を済ませ、寝服に着替えて寝ようとした時にユキさんから電話がかかってきた。

どうやらホテルの受付から連絡があったらしく、部屋を分けたと聞いたけど念のため状況確認をするため電話した、とのこと。

私は、今は一人でいます。何もされていません、龍神さんの事なら心配しないで下さい、と言った。

(私の身を心配してくれてるのかもしれないけど、流石に気にしすぎじゃない?

というか、ユキさんまだ彼を疑ってたのね…)

電話を切った後、そう思った。

 

 

雪も降っているし、今夜はかなり冷えそうだ。

風邪を引いたりしないよう、ベッドに入って布団をしっかりかけた。

 

 

 

私は眠りにつく。

夜は明けていく。

 

 

 

 

 

 




マーシィ·エルダンテ
詩人として各地を吟遊するレークの水兵で、かつてセントルでその名を馳せた魔女の末裔。
精神力そのものを武器とする「理力」の異能を持つ。
性格は人懐こく明るい。
血統故か高い魔力と優れた才を持つ。
帰郷時には町外れの森で魔法薬や道具を販売する店を経営していて、いつも身につけている「魔女の瞳」には魔力を増幅すると共に、相手の心を読めるようにする力もある。
戦闘では術と杖をメインに使うが、実の所魔力が切れても十分に戦える。

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