黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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下僕

結論から言うと。

影喰らいは間違いなく、この森の東にいる。

 

けれど、今私達が挑んでも勝てるか怪しい上に、そもそも倒すべき存在であるのか疑わしい。

というのも、今回白水兵達を襲った影喰らいは、簡単に言えば流未歌の傀儡だからだ。

 

一ヶ月前、この森に突然流未歌の部下のリッチがやってきた。

それは影喰らい達の集落を訪れ、彼らに対して流未歌に服従するよう要求した。

当然、彼らはこれを断った。

すると、リッチは術を使い、影喰らい達の自我を奪うと同時に、自身の…いや、正確には流未歌の力を注ぎ込んだ。

 

そして、彼らは流未歌…もといリッチの下僕となって、その命に従って行動するようになった。

わざわざ遠出して白水兵達を襲ったのも、リッチに命じられたからだった。

つまり…

 

 

 

「奴らは、生きながらにしてアンデッドになっている、ってか」

龍神さんが、重々しく言った。

「生きながらにして…ってどういうこと?」

 

「生きた屍、ってことさ。ただし、アンデッド…『動く死体』とはまた違う意味だけどな。

肉体は生きてるが、本人の意識は死んでいる。

まあ…そうだな。『生き人形(レグノール)』みたいなもんだと言えばわかるかな」

 

「…ええ、よくわかったわ」

 

生き人形(レグノール)とはこの大陸に古くから存在する隷属者(モーズ)(生きた肉体を持ちながら、独立した自我や意識を持たない生命体)の一種。

長らく目撃例がなかったけど、復活の儀の直後からちょくちょく見かけるようになった。

 

その正体は生きた人間や異人に術を施し、術者の思うがままに操れる奴隷にしたもの。

生きてはいるけど、自我や感情を持たず、主の命に従ってのみ動き、しかも大抵は一般の人間や異人に対してかなり攻撃的だ。

そのため、結果的にはアンデッドと大差のない存在と認識されている。

 

これらは「目に付くものは全て抹殺せよ」という命を受けている事が多く、私達を見つけるや否や襲いかかってくる。

そして、とにかく数が多く…何より厄介なのは、元は善良な人であることだ。

 

「でも、そうだとしたら、彼らに術をかけたやつを倒せば、彼らとは戦わずに済むんじゃないかしら?」

 

「そうね。私も、それがいいと思う。それに今の彼らは、流未歌の力を受けている。まともに戦ったとしても、勝てるかわからない。今は、退いた方がいい」

 

龍神さんは俯き、無言になった。

でも、私が声をかけると、顔を上げて言った。

「…悔しいが、仕方あるまい。ミジーに戻って、イクアルに話をつけよう」

 

 

歩き出そうとしたら、突然強い風が吹いてきた。

「な…何…!?」

 

「この風…まさか!」

すると、目の前で紫色の風が渦巻いた。

そして、その中から1人のリッチが現れた。

 

「…!」

それは、恐らくは男性…だった。

奴は私を見て、

「これはこれは、星羅様の妹様。お会いできて、光栄に思います」

と言ってきた。

「あなたは…!」

 

「失礼しました、私はジスト。再生者流未歌様の使いにございます」

 

「…てことは、お前が影喰らいどもをけしかけた犯人か!」

奴は龍神さんに目を移し、あざ笑うように言った。

「生憎ですが、私は殺人者などに興味はない。興味があるのは、この方だけです」

そして、奴は私に気味悪く微笑みかけてきた。

「私ども一同、あなた様のご無事を心より願っておりました。

そして我が主もまた、あなた様のご帰還をお待ちです…星羅こころ様の妹、アレイ・スターリィ様」

 

「アレイは…あんたなんかに渡さない!」

アメルが突っかかったけど、奴は平然としている。

「ご存知ないのですか?この方は、紛うことなき星羅様の妹君。あなた方の側にいるべき存在ではないのです」

 

「そんなの、あんたが決めることじゃない!アレイは、私の同族よ!」

 

「一介の水兵が何を…この方の力は、あなた方などに活かせるものではありません。この方の力は、我々の側でこそ活かせるものなのです」

それに、私は反論した。

「私の力は私のものよ。他の誰にも使わせない。そもそも私は、あなた達の側につくつもりはない!」

 

「そうですか…やはり、星羅様の妹様ですね。

意思が強く、他者が何を言っても耳を貸さない…。

であれば、やむを得ません」

 

そして、奴は手を翳して魔力を溜め始めた。

 

「我が主の力…ご覧にいれましょう。

風法 [アル・ストーマー]」

奴が術を放つと、強烈な竜巻が現れて襲ってきた。

 

私は氷の壁を作り出して防ごうとしたけど、それでも防げなかった。

竜巻は氷を粉砕し、私達を巻き込んできた。

 

 

全員派手に吹き飛ばされ、地面に強く打ち付けられた。

その衝撃は凄かった。

人間だったら、体がバラバラになっていたかもしれない。

「っ…」

何とか立ち上がると、龍神さんが若干ふらつきながら術を使おうとしていた。

 

「ら…雷法 [サンダーライト]…!」

リッチに太い黄色の電撃が降り注いだ。

かなり強い魔力を感じたから、相当な威力がある事が感じられた。

けれど、リッチはさして傷を負っていないようだった。

「電の術…ですか。しかし、流未歌様のお力をもってすれば大した脅威ではない。これほどの攻撃を受けても、私はさしたる傷を受けていないのが、確たる証拠です」

 

そして、リッチは私に手を伸ばしてきた。

「さあ、星羅の妹様。私と共に来ていただきましょう。流未歌様がお待ちです。…」

 

リッチはその手を切断され、血を噴き出した。

その原因は、アメル。

アメルが槍を振るい、腕を切り裂いたのだ。

 

「…!」

 

「そんなことさせない。アレイは私達にとっても希望なんだもの、死にぞこないなんかに渡さない」

 

「…」

リッチは黙り込んだ。

とその刹那、

「…二人とも伏せろ!」

龍神さんが叫んだ。

 

そして、リッチを中心に嵐のような風が吹き荒れた。

 

 

 

 

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