黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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アリス城

右側の階段を降りた先に、下の階へ通じるらしい階段があった。

そこを降りると、細長い通路があった。

 

その通路を進んだ先は2つに分かれていた。

「左に進もう」

龍神さんの言う通り左に進んだら、その先には大きなトカゲのような怪物がいた。

 

「何?異形…!?」

 

「いや、異形ではあるまい。何だ…?」

二人はわからないようだけど、私にはわかった。

「あれは、クローザード。疑似的なアンデッドです」

 

「…そうか、なるほどな」

 

「疑似的なアンデッド…?何それ?」

 

「『疑似アンデッド』。アンデッドに似せて作られた、魔力で動く人形のことだ。吸血鬼狩りの訓練でも使われる事がある」

 

「へえ。てことは、あれは作り物なのね」

 

「油断するなよ、奴らは本物とさして変わらない能力を備えてる。誰でも倒せるアンデッド、と思った方がいい」

 

「了解」

アメルは槍を左脇に構え、術を放つ。

「炎法 [ブレイズガーン]」

焼き払えばいいと思ったのかもしれないけど、これは少々悪手だ。

クローザードは見ての通り、一種の爬虫類系の異形がアンデッドになったもの。

体の表面は硬い鱗で覆われており、斬撃や弓矢は通りが悪い。

属性では、水と地に耐性がある他、火にも若干の耐性がある。

 

そのため、火ではあまり有効打にならないのだ。

「どうかしら」

アメルはちょっと誇らしげに言ったけど、ブレスを食らって飛ばされた。

 

「ああ…あいつには火は効きづらいんだよな。っと!」

龍神さんは、ブレスをかわしながら言った。

「アレイ、行ってくれ!」

 

「はい!」

私は魔導書を開き、魔法を放つ。

「[アイシクル]!」

冷気の風を吹き付け、相手を氷に閉じてダメージを与える中級の魔法。

それなりの威力があり、私はよく使う。

 

魔法を受け、足の一部に氷がついたクローザードは、動きが遅くなった。

そこで、次は魔弾を放つ。

「[スレイブレイト]!」

これもよく使う術で、氷の魔弾を飛ばすものだ。

 

魔弾を当てると、クローザードは完全に動きが止まった。

そこに弓技の[ブレイクスリンガー]を決めると、跡形もなく崩れ去った。

 

「なっ…こんな簡単に…」

 

「弱点をついただけだ。こいつは氷に弱いからな」

クローザードはもとが爬虫類であるためか、氷…というか冷気には耐性が全くない。

なので、氷属性を扱える人がいると楽に倒せる。

 

「氷に弱かったのね。というか、あっ…」

アメルは気付いたようだ。

「まあ、どの道アレイに任せるに越したことはなかったみたいだし…ね?」

 

いや、アメルも何とかできるでしょ、と思った。

クローザードには打撃は効く。そして槍には、打撃系統の技もあったはず。

それを、アメルが使えないわけがない。

 

「…」

まあ、いいんだけど。

 

 

 

 

 

 

先に進むと、青い絨毯が敷かれた通路に出た。

同時に、通路の脇に豪華なタンスや棚、その上に置かれた花瓶やツボ、燭台などが現れた。

 

「なんか、神秘的ね」

 

「だな。いかにも高位の吸血鬼の城、って感じだ」

せっかくなので、花瓶やツボは一個一個じっくり観察していく。

一つの花瓶には一種類の花が束になって挿されており、花瓶ごとに花の種類が違っていた。

中には、今の時期は見かけない花もあった。

そうした花瓶が、一定の間隔を開けながら奥までズラッと並んでいる。

私はその眺めに、この通路が小さな植物園であるかのような印象を受けた。

 

なんか、ナアトの城内で見た花壇に似ている。

アリス三世も、花が好きなのだろうか。

 

 

 

花が挿されていないツボを一個覗いてみたけど、何もなかった。

代わりに、私の後ろの天井から妖精のような姿のアンデッドが落ちてきた。

 

「おっと!」

私達が驚いている間に、龍神さんが首をはねて倒した。

「これはエルビィ…『狩人』っていう異人のアンデッドね。まあ、疑似アンデッドみたいだけど」

 

「これも疑似アンデッドなの?…しっかしさ、いきなり出て来られると心臓に悪いわね」

 

「一種の罠か。ま、当然だな」

 

「当然…?こっちは向こうに会いに行ってるのに?」

 

「要は、試練みたいなものなんじゃないかしら。ただ渡すだけじゃ面白くないとか思ってるのよ、きっと。彼女、言ってたでしょ?『どうか生きてたどり着いて下さい、期待しています』って」

 

「そうかしらね」

 

「向こうは高位の魔人であり、吸血鬼なんだぜ?そのくらいの考えがあっても不思議じゃないだろ」

 

「…そうね。え、てか彼女、魔人なの?」

 

「ありゃ、知らないか?…そっか、仕方ないかもな。

黒い吸血鬼(ノワール・ヴァンプ)は正の吸血鬼の上の種族だから、魔人の仲間だ」

 

「そうなの?アンデッドだと思ってた」

 

「気持ちはわかるけど、アンデッドなのは負の吸血鬼の方な。正の吸血鬼とは全くの別物だし、黒い吸血鬼(ノワール・ヴァンプ)にそれを言うとキレる事があるから、気をつけろよ」

 

「わかった。彼女…というか高位の異人って、キレると怖いものね」

 

「だな。ま、俺はなぜかキレさせちまうことが稀によくあるんだけどな」

 

「えっ…?」

 

ここで、私は半ば呆れながら言った。

 

「彼はね、思った事をそのまま言うのよ。だから、周りの人は怒っちゃうの」

 

「あー、そういうことね。…てかさ、それだと友達とか出来なくない?」

 

「ああ。実際、俺は1000年以上、ほぼ一人だったしな」

 

「よく孤独に耐えられたわね」

 

「むしろ、人と関わる方が疲れる。コミュニケーションは苦手だ。何でかわからんが、自分でも会話してる途中、ちょくちょく妙な違和感を感じるしな」

 

「なにそれ。じゃあ仕事とかはどうしてるの?」

 

「なんにも」

 

「は?…あ、もしかして無職なの?」

 

「そうさ。俺は人間だった時から、永遠無職(エターナルノージョブ)だからな」

 

「え?じゃ、どうやって生活してるの?」

 

()()をして、な。獲物は…言うまでもないな?」

彼は、不敵に笑って刀に手をかけ、アメルを見た。

彼女は、顔を引きつらせて震え上がった。

 

「き、聞かないでおくわ」

 

 

 

 

しばらく進むと、通路に疑似アンデッドが現れるようになった。

人間やスライム系、鳥系の異形のゾンビから、元が何だったのかわからない霊魂まで、多種多様なものが揃っていた。

それらが、てんでんばらばらに通路を闊歩している。

 

「なにこの状況…」

 

「さすが、吸血鬼の城だな」

 

「いや、それで済ませられる事ですか?」

 

「…ま、倒していけばいいだけだ」

 

「いや、どう考えても多すぎでしょ」

 

「そうか?んー、ならこうしよう」

龍神さんは手を合わせ、疑似アンデッドたちに小さな電撃を浴びせた。

すると、アンデッドたちは動かなくなった。

「た、倒した…の…?」

 

「気絶させただけだ。今のうちに行こう」

 

 

疑似アンデッドが現れるようになったのと同時に、通路から通じる小さな部屋がやたらと増えた。

龍神さんが、それらを一つ一つ調べていこうと言い出した。

時間が無駄になる、と言いかけたけど、「いいかもね。この雰囲気をもっと味わいたいし」というアメルの言葉で、ぐっとこらえた。

 

最初は、「そうかな…?」という感じだったけど、色々見ているうちに二人の気持ちがちょっとわかってきた。

城内にたくさんある、広いけど、誰もいない部屋。

そこに、大きなベッドや見るからに高級そうなテーブル、立派なタンスや古びた本棚、豪華で色鮮やかな絨毯が置かれている様子は、どこか神秘的で謎を感じさせる。

しかも、2つと同じレイアウトの部屋はない。

通路にある、武器を持った何かの異人の像や、金色の燭台に立てられ、紫の火が灯るろうそくも、神秘的な雰囲気を演出している。

 

よく考えてみると、なかなかに素敵な場所だ。

疑似アンデッドがいなければ、最高なんだけどな。

 

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