黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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リッチ

家の扉を開け、勢いよく中へ突入した。

 

 

中には誰もいなかった。

でも、警戒は解かない。

 

「…」

一歩一歩、慎重に進む。

 

 

 

 

ベッドの影から敵が飛び出してきた!

 

私がマチェットを振るい、顔を切り裂く。

相手は一撃で倒れた。

 

カイナさんはその死体に近づき、血を指で絡めとった。

「な、何をなさってるんですか…?」

 

「この血を見てください。妙に粘性が高くなっていますよね?」

 

カイナさんの言う通り、その血は変に粘り気があり、糸を引いていた。

血と言うより、赤い粘液みたいだ。

「本当だ…でも、なぜでしょう?」

 

「流未歌の力を受けた事で、血の性質も変化したのかもしれません。しかし、これはすなわち…」

 

「奴らにとっての死刑宣告、だな」

龍神さんがきっぱりと言った。

 

「それは一体…」

 

「血が粘液質なのは、再生者…特に流未歌、ラディア、ルベロが率いるアンデッドの特徴だ。この血を持っているということは、奴らは完全にアンデッドになっている」

 

「…」

 

「それって…」

私も二ルパさんも言葉を失った。

アンデッド…すなわち不死者になった者の治療はどうやってもできない。

つまり、殺すしかないのだ。

 

「そういうことだ。まあ俺としては、どの道奴らは殺すつもりだったからあまり関係ないんだが」

彼の言葉には、並々ならぬ殺意が込められていた。

まあ、それはそうだろうけど。

それに、カイナさんが反応した。

「やはり、影喰らいはあなたからしても宿敵なのですか?」

 

「まあ…な。昔は奴らによく辛酸を舐めさせられたものだ。ただでさえ日々を生きるのが精一杯なのに、奴らのおかげでますますリスクが上がってたんだ」

 

「なるほど…」

カイナさんは、手のひらに何かを作りだした。

それは、人に近いような不思議なデザインの黒い偶像だった。

「ん…何してんだ?」

 

「これを受け取ってください。私からあなたへの、せめてもの慰めです」

 

「…えっと?これは?」

 

「『護りの偶像』…これさえ持っていれば、全ての種族特効を受けなくなります」

 

「種族特効を…!?そんなことができるのか?」

 

「はい。私の異能を持ってすれば、容易な事です」

種族特効とは、その名の通り特定の種族に対してだけ有効な特効。

この世界には対防人、対祈祷師といったようにいくつかの種族特効があり、対象種族に対して行う全ての攻撃の威力や魔法の効果が上がる。

 

そんな種族への特効を消す、ということは種族そのものを変えるのと同義で、到底実現しない事だ。

だから、私もにわかに驚いた。

 

「異能?…って…」

 

と、ここで部屋の奥に敷かれた青いカーペットの上に例のリッチが現れた。

「みなさん、ごきげんよう」

 

「出たな…!」

 

「こいつがリッチ…!」

二ルパさんは、ちょっと引き気味だった。

リッチを初めて目の当たりにして、何を思っているのだろう。

 

「おや、お初にお目にかかる方がおられますね。あなたは…もしや、私の仲間ですか?」

 

カイナさんは、身震いしながら言った。

「馬鹿を言わないで!私は、あなたなどの同胞ではありません!私は…誇り高き高位の魔女です!」

 

「魔女?…ならばやはり、私の仲間ではありませんか」

 

「…!?」

 

「お分かりになられませんか?私は、かつて魔王だったのですよ」

 

魔王と聞いて、カイナさんは黙り込んだ。

そして、やがて口を開いた。

 

「ならば、なおのことここで倒さねばなりませんね。かつて同族であった者として…!」

カイナさんは技を繰り出した。

「鎚技 [銅鑼打ち]」

ハンマーを振りかぶり、勢いよく殴りつける。

リッチは、結界を張って防いだ。

 

「ふむ…威力はまずまずですね。では、次にそちらのお嬢さんにも披露して頂きましょうか」

リッチは二ルパさんの方を見た。

「…何?あたしがやっていいの?」

 

「ええ。あなたは、水兵と祈祷師の混血ですね?珍しい者がいたものです…ぜひ、その力をお見せ下さい」

 

「ああそう…ならいいわよ!」

二ルパさんは、怒るように言った。

 

「望み通り見せてあげる…闇法 [ナイトメアブルース]!」

黒い霧のようなものが現れ、リッチに襲いかかる。

 

 

「…」

リッチはそれを結界で容易く弾いて見せ、怪しげに笑った。

「そこそこと言った所でしょうか。しかし、魔力の密度が低い…どうやら、元来の魔力自体は低いようですね?」

 

「…!」

自身の魔力が低い事を見抜かれた事に、二ルパさんは驚いていた。

 

「せっかく祈祷師の血を引いているのに、この程度とは…少しばかり残念です」

 

「言ったね…?」

二ルパさんはリッチを睨みつけ、本来の武器であるシャベルを取り出した。

それを見て、リッチはまた笑った。

「ほう…?面白いものを持ち出してきましたね。そんなものでどうやって戦うというのですか?」

 

「これから見せてやるから、心配しないで。…でもさ、まずはそっちの隠し玉どもを全部出してくれる?」

 

「おや、気づいておりましたか」

 

「そりゃあね。というか、たぶんあたし達みんな気づいてたと思うよ?」

 

その通りだ。

私も、なんとなく気づいていた。

ここまでにいなかった影喰らいが、どこにいるのか…。

 

「であれば、申し訳ないことをしました。いでよ!」

リッチが手を振り上げると、影喰らい達が現れる。

その数は、ゆうに30人はいる。

「どうです?怯えてしまいましたか?」

 

「そんな訳無いでしょ…こいつらを全員ぶっ飛ばして、あんたもシバいてやる!」

二ルパさんがシャベルを振り上げたのを合図に、戦いが始まった。

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