黒界異人伝・生命の戦争 〜転生20年目の冒険譚〜 作:白い花吹雪。
「さて、これを磨けるとこを見つけないとな」
「探す必要はないですよ。
この町にも、そういう所はありますから」
「いや、ただの武具工房じゃダメだ。
設備が充実してて、本当に腕のいい職人がいる所でないと」
「あら、もしかして私たちを見くびってます?」
「と言うと?」
「腕のいい武具職人なら、この町にもいますよ。
…私と同じくらいの歳の人が」
「へえ…そいつと面識とかあるのか?」
「勿論。何しろ、彼女は私の前の同僚ですから」
「前の同僚?」
「前に龍神さんも会いましたよね?彼女ですよ」
「…?」
龍神さんは最後まで気づいてない様子だった。
中央の町中にある小さな工房。
それこそが、私の目的地。
そして、私達が外部に誇れる場所の一つだ。
なぜなら、ここにいる水兵ー
アメルは、ジーク最高の武具鍛冶職人なのだから。
入り口のドアをくぐり、作業場の奥に声をかけるとすぐに彼女が出てきた。
「お、君は…」
「…久しぶり。
アレイ、どうしたの?」
「これを研磨して欲しいの」
そう言って、先ほど入手した錆びた刃物を見せた。
するとアメルは驚いた顔をして、
「どこでこんなものを?」
と言ってきた。
「カトスの門から町に入ろうとしてたゾンビが何体かいてね。龍神さんと一緒に倒してきたんだけど、そのうちの一人が持ってたの。
これ、あなたなら磨けるでしょ?」
「ええ、勿論…」
アメルは刃物を受け取ってはくれたけど、なんだかぎこちない様子だ。
「どうしたの?なんか変よ?」
「い、いえ…
とりあえず、二人ともこっちにきて」
◆
アレイから錆びた刃物を受け取るなり、アメルは明らかに様子が変わった。
パッと見、錆びまみれの鉈(なた)か何かにしか見えないのだが…
でも、あれは魔力を帯びていた。
そして、一級の鍛冶職人である(らしい)彼女のあの表情…
ひょっとすると。
連れてこられたのは、作業場の奥。
色んな工具やら原料やらがあり、壁には薙刀などが何本もかけられていた。
「これ、本当にゾンビが持ってたの?」
「ああ。
見た感じ鉈か何かのようだが…」
「そうね、確かにこれは鉈よりの武器。
でも、それだけじゃない」
「どういう事だ?」
「これは、おそらく創生武器」
「創生武器!?」
これは驚いた。
創生武器とは有史以前の、創生期と呼ばれる時代に作られた武器。
いずれも今のノワールでは到底再現できない技術…いわばロストテクノロジーで作られていて、その多くは今のノワールの武器とは形状や性質が明確に異なり、何かしらの強大な力が宿っている。
…要は、今普通に作れる武器より強い掘り出し物の武器、ってとこだ。
しかし、創生期が終わって早1200年。
当時の武器の大半は発掘という形で発見されるのだが、ひどく傷んでいたり、錆びまみれであったりする事が殆どだ。
しかも研磨·復元には相当の技術が必要となり、見事復元できたものは博物館くらいにしか置かれていない。
「え、創生武器?これが?」
アレイも驚いた様子だった。
「途中で、これから変な魔力を感じなかった?」
「確かにやけに強い魔力を帯びてるな…とは思ったが…
まさか創生武器だとは思わなかった」
「でも、これゾンビが持ってた物よ?
さすがに…ねぇ…」
「なら磨いてみましょう。そうすればわかるはず」
アメルは座って刃物を右手に持ち、左手で刀身を擦り始めた。
「いや、手でやるのか…」
と言いかけてすぐに言葉を切った。
アメルが擦った所はたちまち錆びが落ち、鈍く銀色に光る金属が顔を覗かせた。
「[刀匠]…
武具でさえあればどれだけボロボロでも研磨·復元できるし、材料があれば何でも作ることができる。それが私の異能」
研磨しながら説明をしてくれた。
「凄いな…」
能力もすごいが、それを素手でできることに驚きを隠せない。
「そう、凄いんですよ。
アメルは、私達…
いえ、このジークの中で最高の技量を持つ鍛冶職人です。
私達が使っている武具も、殆どはアメルが作ったものです」
「へえ…そうなのかい?」
「ジークで最高…かはわからない。
でも、町のみんなの武器を作ったのは確か。
一時期は鍛冶の仕事が暇になったから、アレイと同じ所で働いたりもした」
「なるほどねぇ…
あれ、するとアレイの武器も?」
「いや、アレイの弓は違う。
ユキさんが直接あげたものだけど…あれもまた、なんか不思議な感じがする。
よくわからないけど」
「そうか…」
さて、そんな話をしている間に武器の錆びはほとんど落ち、鈍く銀色に光る刀身が露になっていた。
しかし、一部が大きく欠損している上に刃自体がボロボロなため、やはりまだ使えるレベルではない。
「あとはこれを復元して研ぐだけ」
「復元か…
難しそうだな」
「別にそんなことない」
アメルは刃物の背に手を当て、
「[匠の業·修復]」
技の詠唱らしき言葉を呟く。
すると、一部が欠けてくすんだ色になっていた刃物が瞬時に修復され、本来の姿に戻った。
「これは…」
「…やっぱり、創生武器で間違いない。
それも、珍しいマチェット型のね」
「だな…
あとは研ぐ、か?」
「ええ。
このままだと、切れ味の保証はできないからね」
「研ぐ…って、砥石を使うのか?」
「そんな必要ない」
アメルは腕を捲り、手首に刃を擦り付けた。
端から端まで擦り付けると、刃の角度を変えてまた擦り付ける。
そしてそれが終わった時、刃は新品同然のきれいな刃になっていた。
「おぉ…」
「これで切れ味は大丈夫。
アレイ、いいよ」
研ぎ終わった山刀をアレイが受け取ると、何やら一瞬だけ青い光が山刀全体から放たれたように見えた。
「ありがとう…
これ、私が使っていいのかな…?」
「勿論。
てか、それはあなたが使わなきゃ駄目よ」
「どういうこと?」
「創生武器には自我を持つものがあってね…そういう武器は、自ら持ち主を選ぶのよ。
そして選んだ人の手に渡ったとき、主に強大な力を与える」
「…!
でも、どうしてそんなのわかるの?」
「あなたが今それを持った瞬間、武器が光った。
それは、その武器があなたを持ち主として選び、あなたの手に渡ったことを喜んだ証拠。
…その武器は、あなたに使われたがってるのよ」
「…」
アレイは驚き、また不思議そうな顔で、山刀を見回した。
「そのままだと危ないから、鞘を作ってあげる」
「あ、ありがとう」
「鞘作るなら、モノが必要なんじゃないのか?」
「大丈夫。
一度手掛けた武具は、いつでもコピーを生み出せるから」
そう言って、手に今しがた修復したのと全く同じものを生み出す。
「本当、すげぇな…」
「こればっかりは時間がかかるから、しばらく外の散策でもしてきたら?」
「しばらく、ってどれくらいかかるの?」
「1時間くらいかな」
「そうか、ならそのほうが良さそうだな。
アレイ、行こう」
「ええ」
アメル·ステノア
レークの水兵の一人。
ぶっきらぼうだが思いやりはある性格。
[刀匠]の異能を活かして武具鍛冶を営んでおり、レークで使われる武具の殆どを手掛けている。
その鍛冶技術はジークで最高と呼ぶ者もいるほど。
戦闘では火属性の術法と槍を扱い、セレンらと共に真っ先に立ち向かう。