黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年目の冒険譚〜   作:白い花吹雪。

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弾劾

町に戻った後、一回みんなと離れて町の南側の魔法店で魔力回復薬を買った。

店には、飲む人の需要に合わせて100ccから500ccのものが置かれているけど、私は100ccのものを5本買った。

魔力を全快するには1本あればいいんだけど、今後のことを考えて多めに買っておく。

魔法薬はたいていの町で売られてるし、なくなったらその都度買い足していけばいいだけだから、多すぎない程度の数にしておいた。

 

細かいことだけど、ここの魔法薬は少し割高だ。100ccの魔力回復薬はレークなら150テルンだけど、ここでは180テルンする。

まあ今はお金がたくさんあるし、そんな気にすることではないんだけど、どうも日常品は値段に敏感になってしまう。

 

それにしても、町にいた頃は魔力回復薬なんて月に一度飲むか飲まないかだったのに。

やはり戦いや旅をするようになると、必然的に魔力をたくさん使うし、何かと危ない状況も増えるから、魔法薬にはお世話になる。

単純な実力が優れている人なら、そこまで魔法薬を使う機会はないのかもしれないけど、私はもともと戦いとはほぼ無縁の生活を送っていたし、随時魔法薬を使う必要があるだろう。

 

買い物を済ませた後はすぐに城へ向かった。

みんなと合流し、町に迫るもう一つの危機の正体を探るためだ。

 

城の入り口に行くと、なぜか数十人の人々が集まっていた。

ちらっと見えたのだけど、彼らの代表と思しき女性司祭が持っていた1枚の書類には、直筆の名前のようなものがたくさん書かれていた。

 

(あれって…)

本で見たことがある。あれは、直訴状だ。

町や国の人々が王や統治者に直接談判を仕掛けるとき、訴状に多くの人の署名をもらって出す。複数の人の署名があるということは、それだけ多くの人々がその意見に同意しているという意味になるから、王や統治者は動かざるを得なくなる。

 

でも、一体何があったのだろう。

統治者に意見があるときは、普通は役人などを通してある程度の手続きを踏んだ上で意見を伝える。それらの存在を全て無視して行う直訴は、革命や暴動を起こす前の民衆の最後の行動と言われることもある。故に直訴は、人々の訴えが認められる確率は高い。でも、そもそもよほどのことがない限り行われることはなく、私も今まで過去に起こった事例しか知らない。

 

司祭たちが口々に言っているのを漏れ聞いた所、どうも殺人者のことを言っているようだった。

通り魔の件もあり、最近殺人者の存在に敏感になっていたナアトの人々にとって、殺人者が国の中に潜んでいる、という事は不安要素であると同時に強烈なストレスになっていた。そして、たまたま町に繰り出した王城専属司祭の1人がそれを聞き、彼女が人々に直訴を提案した、ということらしい。

 

なんか、引っかかった。

直訴というのは普通、もはや国の役人も貴族も信用できなくなった、という状況の時に国民が自ら進んで行うものだ。それも人々の中で自然と直訴しようという流れが出来て、その結果実行されることがほとんどで、誰かに扇動されたり指図されて行うということはまずない。

もし本当に司祭に扇動されて直訴を起こしたのなら、この国の民はどうかしているのではないかと思ってしまう。

 

それに、直訴が起きるということは国のトップ以外への民衆からの人望がほとんど失われている事を意味する。なのに、王城の専属の司祭がわざわざ直訴を勧めるなんて、そんなことあるのだろうか。

何にしても、変だと思う。別に誰かを疑うわけじゃないけど、この直訴には何か別の思惑があるような気がする。

 

まさか、司祭たちが?

考えたくはないけど、否定はできない。

私は目を閉じ、過去を遡って見た。もし誰かの良からぬ思惑があるのなら、食い止めなければならない。

 

 

 

 

 

ここ一週間ほどの時間を遡ってみたけど、少なくとも町の人々の間では変な会話が持ち上がることはなかった。

一方で、司祭たちの方はというと…。

 

 

 

「…あれ?」

気づいた時には、人々はすでにいなくなっていた。

どうやら、直訴は終わってしまったようだ…集中していたから、まったく気づかなかった。

となると、龍神さんたちは?

 

私は慌てて城の門をくぐった。

幸いにも、兵士は何も口出ししてこなかった。

 

急いでシルトさんの部屋に向かったけど、誰もいなかった。

そこで再び過去を見てみた所、みんなは地下室に行ったようだった。

 

 

 

地下室の扉を開けて駆け込み、私は叫んだ。

「皆さん!」

 

3人は、テーブルを囲んで立ち話をしていた。

「あら、アレイさん。遅かったですね」

 

「カイナさん…さっきの直訴は…っ!」

 

「見ていたのですか。…その件で、話していた所です」

 

私は、すぐに龍神さんの方を見た。

「龍神さん…大丈夫ですか?」

 

「ん?何がだ?」

 

「さっき城の入り口に集まってた人達…殺人者に関する事で直訴しに来ていました。大丈夫…ですか?」

 

彼は意味を理解していないようだったけど、数秒後にああ…と頷いた。

「大丈夫だ。俺とは何の関係もないからな」

 

「どうしてそう言い切れるのかしら」

シルトさんが問いただすように言った。

 

「え?いや、だって本当に無関係だし。奴らがどう喚こうが、俺は何もしてないし何も関係ない」

 

「それはそうだけど、人々があそこまで騒ぎ立てたからには、私も何もしないわけにはいかないわ。少なくとも、簡易的な調査委員会を立てて詳細な調査を行う必要はある」

 

「は…?おいおい、ちょっと待てよ!なんで何もしてないのに調べられなきゃないんだよ!」

 

彼の気持ちはよくわかる。胸を張って無実だと言える立場なのに、取り調べやら裁判やらを受けなければならないのは実に納得いかないし、腹が立つ。

それで覚えのない罪を被ることになったりでもしたら、なおさらだ。

 

「ごめんなさい。でも、民たちがああして直訴してきたということは、限界といっていいほど彼らの不満が溜まっているということ。ここで私が動かなければ、さらに大規模な騒ぎを起こされかねないの。そうなれば国が傾き、それこそ流未歌につけ入る隙を与えることになる。国を守るためにも…仕方ないのよ」

 

シルトさんは辛そうに言った。

でも、龍神さんは嫌そうな顔をしてため息をついた。

 

「最悪だな…!いやまあ、国を守るためなのはわかるけどよ…」

 

こればかりは、私も口出しできない。

国を守りたいというのは、当然の感情だから。

 

 

 

それから2日もしないうちに、今後の方針が決まった。

シルトさんの言っていた通り調査委員会が設立され、殺人者たちが人々に与えていた物理的・精神的影響とそこから懸念される事態を予測。1週間後の裁判で、これからの事を決定するそうだ。

 

この国には、通り魔の他にも複数の殺人者がいる。もし彼らを一括追放するなんてことになれば、龍神さんと一緒にいる私も国を去ることになるだろうし、何より流未歌に大きな隙を見せてしまうことになる。

私も納得いかなかったけど、仕方ない。

 

ここは、どうにかして殺人者の無罪を証明する他なさそうだ。幸いにも、カイナさんも協力すると言ってくれた。

 

それに過去を見た限り、町で普通に暮らしてる殺人者も結構いるみたいだ。彼らまで巻き込んでしまうのは、絶対に避けたい。

なんとしてでも、彼らを救わないと。

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